第四話
至福の時はあっという間に過ぎ俺たちはホテルを出た。
「受かるといいね。試験。」
「うん。まあどうなる事やらね。」
そういって俺たちは別れた。振り返ると彼女は手を振ってくれていた。少し恥ずかしかったが俺もそれに応える。
まだ俺の頭はうまく働いていなかった。あの時俺は何を思っていた?
…堕ちてしまってもいい?彼女と一緒に?
何を考えている。彼女は俺の恋人じゃない。本当の名前もしらないただの風俗嬢だ。彼女の笑顔や会話だって、それが彼女の仕事なんだ。第一俺には美香がいるじゃないか?…何を考えている…。俺は…
あの子に…
惚れたのか…?
たった小一時間、たいした話もせず体を合わせただけの関係…。ただの大人の遊びだろ?それなのに…俺は…そんな浅い男だったのか?
電車のなか、うなだれるように椅子に座っていた俺はおもむろに携帯を開いた。【新着メールあり】 『面接どうだった?まだ帰ってこないの?』
俺は……返事を返せなかった。
なんでもないはず…なんの感情もないセックス。快楽を求めるだけの…。
そう自分に言い聞かせた。でも…俺は携帯を閉じた。
俺はいまどきの若い奴らが嫌いだ。
そういう俺もまだ若者に入るのだろうが。
とにかく嫌いだった。
なんにもできないくせにできた気になって口だけは達者で自分を主張する。
さも大げさに自分は幸せだ、不幸だと言う。
ほんとに幸せか?不幸か?口からでまかせだろう?ただ自分という人間を誇示したいだけ…。
夢に向かって頑張ってる?ほんとにそうか?それがほんとにおまえの夢か?そう思い聞かせてるだけじゃないのか?そもそも本当に努力しているの?軽がるしく愛の言葉をささやく。まるでラブソングのように。俺は世界で一番幸せだ、おまえだけだと。本当にそうなのか?じゃあなんでそんなに簡単に終わりを告げられる?なんでそんなにすぐ次の恋に踏み出せる?なぜそんなに無責任な言葉を発する?なぜそんな無責任な行動を?
薄っぺらい…薄っぺらい生き方だ。
俺はそんな奴らと一緒にはなりたくなかった。だから俺は必要以上に自分を誇示しなかった。するのならば言葉ではなく態度と行動で示した。熱くならず冷静さを保ち続けた。おかげでまわりがよく見えるようなってた。まわりからも一目置かれるようになった。言葉ではなく行動で示す事ができたからかもしれない。
だけど知らない間に俺は感情が欠落していたんだ。
何かをなりふりかまわず必死に追い掛ける事を。
何かを欲する事を…。
何かを…。
そう、気付いたんだよ…。ずっと恐かったんだ。何か大切なものを失う事に…。