1話 事業拡大
俺の目の前にはアロウとハクアが作成した地図がある。
俺はギアウッドとベルフェゴールの3人で屋敷の周辺の開墾を計画していた。
道具屋も軌道に乗り、お金が余ってきたのでここで1つ投資を試みようというのが発端である。
まずは屋敷周辺の土地を丸ごと買い上げることからスタート。
俺としてはよそ者の俺が土地を買うことなど不可能で、仮に成功しても結構ふんだくられるかなと
予想していたのだが、それは杞憂に終わる。
1つ目の理由として、ここら周辺は森林が生い茂り、魔物が出現する未開の地なので重要な場所と見られなかったこと。
そして2つ目がベルフェゴールによる意識操作によって足元を見られることなく適正価格で購入できたこと。
「適正価格にするくらいならただで譲ってくれるよう操作すれば良いじゃない」
と文句を言うのはショコラだが、ベルフェゴール曰く周りに与える違和感は少ない方が後々面倒事が起こらなくて済むとのこと。
それなら先日に行ったボンボンに対する仕打ちはどうなのかと聞くと、彼の両親は息子が旅に出ると聞き泣いて喜んだらしい……一体あいつはどれだけ家にたかっていたんだか。
ショコラは街へ開墾のための人手を募集しに出かけているので、代わりにルクセンタールが屋敷の掃除を1人で任されていた。
「とりあえず宿屋と酒場は欲しいよな」
まず何を建てるのかと問われれば俺はまずそれを提案する。
冒険者がここを拠点として魔物を狩るとすれば宿屋は必須だし、さらにそれに加えて酒場も欲しい所。他にも武器防具屋や農地や畑を作るにしてもまずは安定した収入が欲しかった。
「そのための人手はどうするの? 言っておくけど金はあると言っても道具屋で稼いだお金はたかが知れているわ。人件費は勿論のこと建物を建てるのに必要な材料費や彼らの寝床や食費を計算に入れると、とてもじゃないけど今あるお金では賄い切れない」
財政担当のベルフェゴールがそう意見する。
確かにこんな辺境に建物を建てようとすれば、材料の移送費や人件費が相当掛かるだろう。
が、俺はあっけらかんと一言。
「何も一から建てようというわけじゃない。すでに建っている建築物をここに持ってこようと考えている」
「何言ってんのよ、確かに街に行けば誰も住んでいない廃屋なんて腐るほどあるわ。けど、それをどうやって運ぶ――」
と、ここでベルフェゴールはギアウッドの存在に気付いたようだ。
しばし呆然としたベルフェゴールは首を振って思考を取りまとめた後続けて・
「確かに巨人族のギアウッドがいれば家の一軒や二軒など持ち上げることが出来るかもしれないわ。けど、それから先はどうするの? 巨大化の魔法はそんなに長続きしないのよ」
「それについても考えてある」
俺はそう言って1枚の計画書をベルフェゴールに渡す。
「丸太で編んだ板に家一軒乗せ、さらにその下に丸太を敷いてを引っ張ってこようかと考えている」
エジプトでは切り出した岩の下に丸太を敷き詰めてピラミッドまで運んでいたという。
今回は岩でなく家だが基本的なことは同じだろう。
「この方法なら建物を作る必要が無く、中を改装するだけで使えるようになる。こちらとしては作業時間も短縮でき、さらに従業員の教育も最小限で済ませられるので一石二鳥だな」
まあ、これは巨人族のギアウッドがいるからこそ出来る計画だけどな。と、独白していると、ベルフェゴールは狂ったように高笑いを始めた。
燻しげな視線でベルフェゴールを見つめる俺。
「面白い、本当にあなたは面白いわ。ショコラがあなたを認めるわけね、久しぶりに頭のねじが2、3本ぶっ飛んだ人間に出会えたわ」
「失礼なことを、俺は至って正常だぞ」
俺はそう抗議するも、隣のギアウッドさえベルフェゴールに同調する。
「拙者もベルフェゴール殿と同意見である。まさか拙者をそのように使うとは思いもしませんでしたぞ」
2対1で俺は変人というレッテルを貼られてしまった。
「……まあ、とにかく」
俺はこの悪い空気を払拭するために咳払いを一つ。
「ギアウッドは周辺の木々を切り倒して土地の確保兼材料の確保。ベルフェゴールはショコラが連れてきた人材に催眠をかけてショコラの言うことを頭に入り易くしてくれ」
その言葉に2人は頷く。
「ここにいないショコラは連れてきた人材の教育で、ルクセンタールはショコラが忙しい分屋敷の管理。そしてアロウとハクアはいつもと変わらない、これでいく」
2人から異論が出なかったので俺はその方針でいくことに決定した。
ショコラは人間が嫌いだからおそらく人間の比率は少ないだろうと予想していたが、さすがにこれは無いだろう。
「……おいショコラ。全員が亜人とはどういうことだ?」
「使える人材を選別した結果、こうなっただけよ」
ショコラは澄まし顔でそう述べるが、それは確実に嘘だろう。
目の前にいるのは亜人が50人ほど。
が、内容は悲惨そのものであり小さな子供や年老いた老人の比率が高く、中には年若い者もいるにはいるが、肌のやつれ具合から若い者全員が病気や怪我によって捨てられた者だろう。
簡単に言うと全員訳あり。
まともな人材など1人もいなかった。
「安心して、犯罪者はいないから」
俺の様子からさすがのショコラも額に汗をかいてそう言い含めるが、それが焼け石に水だということがショコラ自身分かっているのだろう、さらに続けて。
「街の貧民通りにはそこら中に彼らが打ち捨てられているのよ。あなたに分かる? 彼らが何の希望もなくただ死を待つ光景というのは心に来るものがあるのよ」
身ぶり手ぶりで必死に説得するショコラ。
そういえばショコラは人身売買に限っては後先考えずに買う悪癖があったな。
アロウとハクアがどうしてこの屋敷に来たのかその原因を今まで忘れていた。いや、忘れようとしていたの方が正しいか。
「はあ……」
俺は頭を抱えながらこれから先どうするのかを練る。
不幸中の幸いというべきか、若い者は俺の知識による治療を施してやれば元通りに復活するだろう。その後にギアウッドの手伝いや開墾を任せれば良い。
子供に関しては少々酷だが、ベルフェゴールの洗脳を利用して即戦力に仕立て上げるか。そして才能のある子がいれば、その子に薬や鍛冶でも伝授しよう。
そして老人に至っては若い者や子供の監督を任すしかないな。老人は体が動かない代わりに経験が豊富なのできっと彼らの良き世話や指導相手になってくれるだろう。
そして……
俺はジロリとショコラに鋭い視線を投げかける。
「な、何かしら?」
ショコラの尻尾がピンと伸びている様子から内心はかなり動揺している。
「お前、しばらく甘い物お預け」
ショコラの絶叫が辺りに響き渡った。
困っている人を助けた×50 +500
道具を売った日×30 +30
現在LUCK -9391
LUCK計算の考察は次回掲載予定です。