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LUCK -9999  作者: シェイフォン
第1章 集う欠片
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5話 美女と野獣

「それにしても、まさか魔族と会えるとは思わなかったな」


 遊戯室で俺はキューを構えながらそう切り出す。


「あらあら、まさか私達は仙人みたいな場所にしかいないと思っていたの?」


 ベルフェゴールのからかいを含めた問いに俺は黙って白球を③と銘打たれたボールにショットする。


「……外れた。ただ、魔族よりももっとポピュラーなエルフや巨人と先に会えるのかと思っていた」


 ボールは掠りもしなかったので、俺は順番をハクアに譲った。


「エルフや巨人はそれこそ秘境の奥に住んでいるわよ」


 ベルフェゴールの笑い声がいやに耳へついた。


 今、俺たちがいるのは屋敷に備え付けられた遊戯室で俺とベルフェゴール、そしてハクアの3人で遊んでいた。


 ちなみにショコラとアロウは野外で弓の訓練を行っている。


「次は私の番ですね」


 回ってきた順番にハクアは気合を入れて移動させた踏み台に乗る。


「ハクアちゃん、もっとリラックスしてね。そんな調子だと男を溺れさせることはできないわよ」


 ベルフェゴールがハクアの背に回って指導するのは良いが、もっと良い表現はなかったのだろうか。しかもハクアも笑顔で頷いているし。


「ベルフェゴール、あまりハクアに変なことを教え込むなよ。アロウはともかくショコラが煩い」


 俺は中立、そしてハクアはベルフェゴールとすぐに打ち解けたのだが、ショコラとアロウが今でもベルフェゴールに反感を持っている。


 アロウは単にハクアが余計な知識をつけることに危機感を覚えているだけなのであまり問題にしていない。


 だって前にベルフェゴール仕込みの幻術によって大人になったハクアを見たアロウは目を白黒させていたからな。


 その後、皆の生温かい視線に気付いたアロウはベルフェゴールやハクアに対してではなく、何故か俺に烈火の如く炎の怒りをぶつけてきたのだが、アロウよお前も内心嬉しかったのだろう。


 大人版ハクアにキスされた直後のアロウの百面相は見ていて面白かったぞ。


 余談だが、その際に俺を助ける者は皆無だったということを付随しておこう。


 が、ショコラは違う。


「お前とショコラは過去に何があったんだ? ショコラはベルフェゴールだけに対しては慇懃無礼な態度を取り続けているぞ」


 ショコラは俺が出られない代わりとして屋敷と都市を往復し、さらに屋敷の管理をするなどこの屋敷にとって必要な人物だ。面倒見がよく、性格もさっぱりしているのでアロウやハクアはもちろんのこと、来客に対しても評判がいいのだが、何故かベルフェゴールにだけは警戒心を抱いているようだった。


 その問いにベルフェゴールはにんまりと唇を歪めて。


「私はショコラの過去を知っているからね」


 と答えたので、俺は先を促したのだが。


「残念だけどショコラが話そうとしない以上私から話すのはマナー違反だわ。そのことについてはショコラ自身から聞いて頂戴」


 けど、まあ。


 ベルフェゴールは続けて。


「過去を完全に消すなんて不可能だし、そして人の口にも戸は立てられない。そして見たところあなたはその程度の過去でショコラを軽蔑したり追い出したりしないのに、必死に隠すなんて滑稽以外の何物でもないわ」


「そう思うのならショコラに促してやればいいじゃないか」


「いやよ、そんなことをすればたとえ善意でも私は殺されるでしょうね。これは比喩でなく真剣よ。魔族が扱う幻術というのは一般的に心が強い者には効きにくいから。殺意一色で染まったショコラは下手すれば神人でも敗れるわ」


「そんなに強いのか……」


「ええ、亜人の中でもショコラは別格よ。だからこそ素直に従わせている者がどんな人物なのか知りたかったのよ」


 普段はアロウとハクアのお姉さん役として振る舞っているショコラの裏にどんな過去があるのか、それを聞いてますます知りたくなったが、今は聞いても仕方ないだろう。だから俺はこれ以上の追及を諦めた。


「やった、⑨ボールです」


「え!?」


「凄いわハクアちゃん」


 いつの間にかハクアが残る6個の玉を全て落としていた。




 ある日


 夜中に叩き起こされた俺は何と表現すればいいのだろう。


 確かに最初はイラッときたよ。


 こんな夜遅くに一体誰が来たんだと不快な感情になったよ。


 しかし、ショコラが来て自分だけでは対処できないと述べたので、あの音に起こされてしまった全員を連れて外に出てみると、何と10m以上ある鉄条網のついた塀をガンガンと揺らしていたのだから。


「これはすごい力技ね」


 ショコラが感嘆のため息を漏らす。


 そういえばショコラは最初ここへ来た際に、どうやって侵入したのかと問うと、単に門の近くにある道具屋が開いていたのでそこから入ったらしい。


「最初はまさか開いているとは知らなかったので壁を登ろうとしていたけど、無理だったから諦め、駄目元で道具屋に入ると、そこから屋敷へ繋がっていたのよね」


 ちなみに現在ではしっかりと施錠されていることを明記しておく。


 そんなことを話している間に向こうが何やら呪文を呟くと、何と今度は塀の上から振り上げた拳が確認できてしまった。


「あ~、あれは巨人ね」


 隣のベルフェゴールが解説する。


「巨人族というのは通常でも身長が2、3mと人間に比べて大きいのだけど、その真価は巨人族のみが使える巨大化の呪文よ。山を越えるほどの大きさになれる巨人を私は何人か知っているわ」


 のんきにそう解説してくれるのは結構だが、そろそろ壁が嫌な音を立て始めている。


「おい! ハクア、アロウ! 大急ぎで塀の向こうに飛んで行って止めさせてくれ!」


 俺は空を飛べる鳥人の2人にそう命令した。




 場所は会議室。


 ここは屋敷の中でも最も広いので、結構人数が増えた一同が会すのに都合が良かった。


「お疲れ様です」


 俺は巨人が連れてきたもう一人の客の容体を確認した後に会議室へ戻るとショコラがそう労ってくれる。


「少し遅いぞ」


「お兄ちゃん、コウイチさんを責めない方が良いよ」


 俺としてはハクアとアロウの子ども組はベッドに入ってもらいたかったのだが、そこは強固な反対にあった。


 アロウは予測していたが、ハクアも口答えをするとは思わなかったな。


 ハクアが口を尖らせながら文句を言う様はすごく可愛らしかったと追記しておこう。


 一緒に抗議していたアロウを除く全員がハクアのむくれ顔にほっこりしていた。


「……実際にバケツを器代わりにしているの見ると圧倒されるな」


 巨人が持つそれはカップでなく、小さなバケツと形容した方が良いくらいの大きさだった。


「この屋敷の御主人殿か、夜分遅く忝い」


 かたじけないとはずいぶん古風な言い方だ、江戸時代の武士を連想される。


 改めて巨人を見るとやはり大きい。俺は170cm、ショコラは160cm程度で、最も高いベルフェゴールでさえ2mだったのだが、突如現れた巨人はどう見積もっても3mは優に超えていた。


 上半身しか映っていないが、胴周りはアロウとハクアがぎりぎり囲えるぐらい太い。黒い髪は短く刈りこまれており、精悍な青年というのが俺の第一印象である。


「申し遅れた、拙者の名はギアウッド=ウエスタン。訳合ってルクセンタールと旅をしていた」


「ギアウッドか」


 俺は巨人の名を舌で転がす。


「で、ギアウッドは共に連れてきたルクセンタールという名のエルフと何か関係でもあるのか?」


 その問いにギアウッドは目を伏せた。


 俺が先程まで看病していたのはエルフ。ウェーブ状の金色の髪に尖った耳、そしてその白い肌はまさしくエルフそのものだった。


 ちなみにベルフェゴール曰く、エルフは自然を操る魔法が得意らしい。


「まあ、おおよそ見当は付いているから良い。そして、ギアウッドがここを訪ねた理由は大方ルクセンタールが突然の吐き気や目まいを訴え、どうして良いか分からなくなったからだろ?」


「なっ!」


 図星だったのかギアウッドが目を見開く。


「安心しろ、あれは一過性のものだ。安静にして栄養を取れば問題ない。ただ……」


 俺はコホンと1つ咳払いをして。


「ルクセンタールはしばらくここに滞在させるべきだな。まだ部屋も余っているから2人とも泊まっても良いぞ」


 俺の言葉にギアウッドを含めた全員が首を傾げる。


「なあコウイチ、どうしていきなり2人を泊めるという話になるんだ? 風邪なら薬をいくつか分ければ良いだろ」


 アロウが皆の疑問を代弁したので、俺は説明するために少し間をおいた。


「ギアウッド、今から俺の言うことを黙って聞いてほしい。そして他の皆もだ、決して騒がないでくれよ」


 俺のただならぬ空気を感じ取ったのだろう。


 ゴクリと唾を呑む音がどこからか聞こえた。


「ルクセンタールは……デキている」


「「「「……はああああああ!?」」」」


 一瞬ポカンとした沈黙後、絶叫が会議室に響き渡った。


 困っている人を助けた×2     +20

 道具を売った日×14        +14


 現在LUCK -9928

ようやく主要人物を全員登場させることが出来ました。

次で第1章は最後です。

ありがとうございました。

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