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LUCK -9999  作者: シェイフォン
最終章 憎しみの果てに
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10話 最大の試練

「……何かすごい緊張するな」


 俺はもう一度着ている服を睥睨しながらそんなことを呟く。


 白いネクタイにチェック、白ズボンに加えて白スーツなど俺は白一色に身を固めていた。


「まさか俺が冗談気味で話した結婚儀式がそのまま取り入れられるとはな」


 俺がそう呟くのは、以前俺の世界において結婚式形式の1つのカトリック式である永遠の愛を誓う云々を話したら、ショコラが大層気に入ってそれで行いたいとか言い出したからだ。


 それからとんとん拍子に進んでしまって現在に至る。


「へえ、兄ちゃん似合うじゃん」


 アロウよ。


 そう褒め称えてくれるのは嬉しいがニヤニヤと笑いながら言わないでほしい。


「全く、どうしてこんなことに」


 俺は天を仰いでそうぼやいていると。


「コウイチ殿よ、新郎がそんな辛気臭い顔をしない方が良いぞ」


「マルス……」


 続いてマルスもそんなことを言い出した。


 そう、俺は屋敷に急きょ作られた新郎部屋にアロウとマルスの3人で待機していた。


「結婚式を挙げるのは聊か早過ぎないか?」


 あの世紀の一戦からまだ2、3ヶ月しか経っていない。


 戦勝国としてやるべきことがあり過ぎる中で行われる挙式。


 もっと皆が落ち着いてからで良いだろうと俺は思うのだが、俺以外の全員の反対によって却下された。


「今月は6月じゃからな。結婚式を挙げるには絶好の季節じゃ」


「そうそう、それに皆戦争が終わってもピリピリしているんだぞ。だから気分転換代わりに良い報せの1つを贈ってくれよ」


「気分転換……」


 前者のマルスのセリフはともかく、後者のアロウのセリフは頂けない。


 お前らにとっては良い見世物かもしれないが、俺にとっては一世一代の大舞台だぞ。


 俺としてはもう少しショコラとの仲を暖めたいのだがなあ。


 恋人期間僅か半年。


 いくら何でも早過ぎだろうと考えてみたり。


「だから何を落ち込んでおる。今のコウイチ殿はとてもではないがショコラ殿に見せるわけにはいかんなあ」


「そうそう、もっとシャキッとしろよ!」


「お前ら……」


 2人の冷やかしに俺は思わずジト眼を向けてしまう。


 と、ここで俺は2人の状況が気になったので聞いておくことにした。


「なあ、マルス。お前とデザイアとの仲はどうなっている?」


「……うん? 何の事じゃ?」


 マルスは笑顔で聞き返してくるが、俺は騙されない。何せ先程僅かに顔が引き攣ったからな。


「聞けばマルスとデザイアは相当良い関係だと聞いている。特にデザイアが猛烈にアタックしているとか」


 あの一戦の後からデザイアはマルスに対して忠誠以上の感情を見せ始めたと聞いている。


 まあ、将軍となったデザイアからすれば首相であるマルスと立場は同格なのであり、2人とも被差別の者なのでくっ付いても違和感が無いのだがな。


「マルスも他人事じゃないぞ、何せ――」


「コウイチ殿よ、ちょっと愉快な出来事というのを味わってみないか?」


 俺は仕返しとばかりにもっとつついてやろうとしたら、マルスがニコニコと微笑みながらそんなことを言ってくる。


「振り返ればコウイチ殿は女子に色目を使っているようじゃな。前も秘書達がコウイチ殿の作ったマーマレードをこの世の至福とばかりに味わっておってのお」


 どうしてだろう。


 マルスは笑っているはずなのに何か近寄りがたい恐怖を発している。


「だからの、その事実をショコラ殿に伝えてやろうと思うのじゃが如何かな? もちろんあることないこと含めて」


「おい!?」


 俺は血相を変えて反対する。


「お前がそれを言うか? 秘書達にお菓子を贈る提案をしたのはマルスだろう!」


 彼女達の忠誠心を高めるという目的でお菓子を贈る案を出したのはマルスだ。


 その結果、目論見は成功して仕事の能率も相当上がったのを覚えている。


「さあの、余は感知しておらん出来事じゃ」


 が、マルスはあくまで知らぬ存ぜぬを貫き通して。


「まあ、最終的に判断を下すのはショコラ殿じゃ。恋人なら信じてあげるべきじゃろう」


 そんなことを言い放ってきた。


 ……マルスよ。


 お前はショコラのお菓子に対する執念を知っておきながらそう嘯くのか。


 今のショコラなら理由はともかく、俺が誰かのためにお菓子を作って贈ったという事実があれば折檻の対象となる。


 俺とショコラの関係が親密度を増す度に激しくなるから、今の状態の折檻などどんなことになるのか想像すらしたくない。


「ハッハッハ。コウイチ殿が余を茶化すなんて20年早いのじゃ」


 マルスの勝ち誇った台詞に反論できない俺が腹立たしかった。


「うん? アロウ、何をしている」


 先ほどからずっとアロウが静かだったので俺は隣を見ると。


「ハクア怖い、ハクア怖い」


 しゃがみ込んで膝に頭をうずめたアロウは何かに脅える様にそんなうわ言を繰り返す。


「……ハクア、俺はお前一筋だって。先程も単に挨拶しただけじゃないか。誓ってそれ以上の感情は抱いていないよ」


 どうやらアロウのトラウマを再発してしまったらしい。


「あ~……アロウ、済まぬな」


 さすがのマルスもバツが悪そうに頬を掻いて謝罪する。


 アロウも裏で結構苦労しているんだな。


 ハクアは女王として、聖女として万人に対して限りなき慈愛を降り注いでいる裏にアロウに対して何をしているのか。


 そういえば退官してファラウェンと共に旅をしているソルトもファラウェンの嫉妬深さにうんざりしていたっけ。


「年上と話せば熟女好きと叫ばれ、年下と接すればロリコン扱いされ泣かれる。一体どうしろって言うんだよ」


 あのソルトがそう愚痴るぐらいだ。


 語り尽せない何かがあることは容易に想像できる。


「ソルトは大丈夫かなあ」


 今日見たソルトは前回より痩せているように思えたをことを追記しておこう。


「アロウ、安心せい。ここには余とコウイチ殿しかおらんぞ」


 身を震わせるアロウに対して肩を抱きながら宥めるマルスを見ながら俺は。


「やはりファラウェンとハクアは姉妹だな」


 と、そんな感想を抱いた。




「準備が整いました」


 ドアがノックされて案内人を務めるデザイアが入室してくる。


 やはりデザイアは男装の麗人らしく、ドレスよりもタキシードの方が似合って見えた。


 ちなみにショコラの方の案内人は出産を終えたルクセンタールである。


「おお、そうか。さあ、早く参ろうぞ」


 マルスがデザイアの隣に立ってそう急かしてくるが、マルスとデザイアの身長差はおよそ20cm以上。


 ギアウッドとルクセンタールに次ぐ凸凹コンビだと思えた。


「そんなに緊張すんなよ、大丈夫だって」


 アロウがその言葉と共に俺の手を引っ張る。


「分かった、分かったからそんなに急ぐな」


 俺は苦笑しながらアロウに連れ添われた。




 俺はLUCKの関係上、外に出ることが出来ないので屋敷の敷地内で行われることになる。


 エクアリオン共和国の最高責任者と前の戦でダグラスに止めを刺したショコラの人気ぶりを鑑みると、ひっそりと室内で行うと冗談抜きで暴動が起こってしまうので、特例として敷地内を解放し、この突き抜ける青空のもとで行われることになっていた。


「一般人まで入れるのは大丈夫か?」


 俺は先の戦による報復活動を懸念しているのだが、マルスはそれを笑い飛ばす。


「コウイチ殿は本当に慎重じゃのう。そんなに心配せずとも余とデザイアが責任を持って選抜した警備隊の面々じゃから無問題じゃ」


「まあ、それなら良いか」


 マルスとデザイアが警備の担当なら安心だろう。


 だから俺は首を振って頭を切り替える。


「そろそろ新婦が入場します」


 デザイアの言葉と同時にベルフェゴールが連れ去ったウェスパニアの子供達から選ばれたフラワーガールが並んだ。


 彼らはよほど俺達のことを気に入ったのか、事あるごとにこのコルギドールを尋ねてくれていた。


「わあ……」


 ギアウッドに手を引かれたショコラに俺は言葉を失う。


 普段は何気なく接しているショコラが別人のようだ。


 半透明のヴェールに隠されているにも関わらず、ショコラの髪は太陽の光を受けて銀色に輝き、その白磁の様な白い肌に合う神の造形とも言うべき均整のとれた体付き。


 純白のウェディングを着ていることも相まって、その光景は神聖な絵画の一枚と思えた。


「……どうかな、コウイチ?」


 ショコラが顔を微かに染めながら恐る恐る尋ねてきたが俺は混乱していたので。


「ああ、とても良く似合っているよ」


 としか答えられなかったのだが、ショコラは満足そうに。


「良かった」


 心から嬉しそうに微笑んだので、俺はしばらく硬直してしまった。


「さて、新郎新婦はこの場まで来て下さい」


 その頭が真っ白になっていた俺を救ったのは壇上で神父役をしていたハクア。


 まだ10歳足らずにも拘らずハクアからは慈愛が溢れてきていた。


「それでは、行こうか」


 俺はショコラの手を取ってヴァージンロードを歩く。


 その間あちこちから歓声が聞こえてきたのは言うまでも無い。


 そしてハクアの前に立つ俺とショコラ。


 ハクアは厳かな調子で次の文を述べる。


「汝コウイチ=エクアリオン=タカハラは、このショコラ=シュガーレスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


「誓います」


 俺はハッキリと答えるとハクアは満足そうに少し頷いた後にショコラに向かって。


「汝ショコラ=シュガーレスは、このコウイチ=タカハラを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


「誓います」


 ショコラのその宣誓に俺は心が高鳴ってしまった。


 俺とショコラの誓いを確認したハクアは最後に。


「では、ここに誓いとなる口付けを」


 ハクアの言葉に俺は手を震わせながらショコラの顔に顔を近づけさせる。


 ショコラも俺と同じように緊張しているのかな。


 そんなことを考えていると、不意にショコラが目を見開いて鋭い視線を左右に走らせた。


「おい? どうし――」


「伏せて!!」


 俺がショコラの異変の原因を問い掛けようとすると、ショコラは鋭い声音を発して俺を押し倒した。


 突然のショコラの豹変に俺は混乱の極地へと追いやられてしまう。


「なあ、ショコラ。どうしたん――」


「……ごめんねコウイチ」


 ショコラは弱々しい声音を出し始める。


 俺はその理由を問おうとした瞬間にショコラの口から血の塊が噴き出した。


「……やられちゃったみたい」


 見るとショコラの右肩には矢じりが刺さっている。


「おい……それは……まさか……」


 考えたくない。


 今、何が起こったのか俺はその先を想像したくない。


「アハハ……普段の私ならこの毒矢ぐらい避けられたはずなのに」


 ショコラの体から急速に力が抜けていくのを実感する。


「あ……あ……あ……」


 俺は右も左も分からなくなって叫び出そうと叫び出そうとしたその瞬間にショコラが問いかけてくる。


「コウイチ……お願いよ……愛しているから……ダスラスだけには……第二のダグラスにはならないで……」


「あ……ああ」


 俺が首をコクコクと動かすとショコラは安心したように微笑んで。


「……コウイチ……愛してい……る……わ」


 その言葉と共にショコラの体から完全に力が抜けた。


「……ショコラ? ショコラァァァァァァァ!」


 俺はショコラの体を必死に揺さぶるが、何も反応しない。


 ショコラは亡くなった


 俺の中における冷静な部分ではそう理解しているのだが、俺の中の感情の部分がそれに納得していない。


 理性と感情。


 その2つの俺が相反する結果を出した結果――


「――――っ!!」


 俺は絶叫した。

この話を除いて後2話です。

凄くヘビーですが納得して頂けると幸いです。

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