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LUCK -9999  作者: シェイフォン
最終章 憎しみの果てに
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9話 戦争終結

「ダグラス陛下! グエン元帥が討ち取られました!」


「……そうか」


 バサラが血相を変えて悲報を伝えてきたが、我――ダグラスはそれほど動揺しておらん。


 確かにグエンを失ったのは痛いといえば痛いが、母君を相手にしている以上そこは覚悟しておる。


 本音を言えばグエンが逃げ延びることを期待していたが、それより前に優秀な刺客が止めを刺したのだろう。


「ここは一杯食わされたな」


 運命の女神は奴らに微笑んだということか。


「しかし、母君を相手にしている以上これぐらいは仕方ないか」


 何せ母君は帝国において優れた参謀達が束になっても敵わぬほどの英知を持っておるからな。


 我が帝国一の智謀の持ち主と呼ばれたのは母君からの教えによるものが大きい。


「陛下、余裕ですね」


 我が寡黙であることに不安を抱いたのかバサラが恐々聞いてきよったので、我は手を振って「何もない」と答える。


「して、グエンを失った我が軍はどうなった?」


 我の問いにバサラは記憶を思い起こすために眉間に皺を寄せながら。


「元帥を失った我々の兵は浮足立ち、向こうの突進を止めることができません。このままだとこちらの両翼が敵を包み込む前に我が本陣を突かれます」


 つまり奴らが中央に備え付けられた分厚い陣を突破するのは時間の問題ということか。


「非常に不愉快ですが陛下の思惑通りになりました」


 バサラが苦い顔をしてそう述べるのは、バサラを始めとした帝国の参謀陣は我の圧勝で終わると予想していたからよな。


 ところが蓋を開けてみれば、我の予想通り予定時間を過ぎても包囲することができず、逆に中央を突破される結果が出てきおった。


「さて、バサラ。準備しろ」


「……は」


 この結果が出た以上、バサラはもう反対しないだろうな。


 我は立ち上がり、用意してあった甲冑を装着する。


「屈辱です。まさかここまで亜人どもが反抗するとは」


 バサラがそう呟く様子は滑稽でしかない。


 このまま予想通りに滅びるのであればとっくの昔に亜人は滅びておる。


 これは人間にも言えることだが、生に執着する執念など馬鹿にできないものだ。


 そんなことを考えておると伝令兵が息を切らしながら報告を始める。


「へ、陛下! 使用人の服を着た者を中心とした一団がこちらに接近しております!」


「!? もう来たのですか!」


 バサラが思わず叫んでしまったのは我の首を狙う集団が来るのが少々早かったが故だ。


 我の予想を上回る進撃に舌を巻くも、これが母君率いる軍だということで納得する。


「早く用意をしろ! 魔道士を配置につかせて待機だ!」


 しかし、このままだと我の策が発動する前に終わってしまうので、我は周りに檄を飛ばして準備を急がせた。




「……来たか」


 殺気を放つ者が近づく気配によって瞑目していた我の眼を開かせる。


 ここから見るとかの一団は使用人服を着た者を無傷で我の下へ届けようと必死で血道を築いておった。


「おそらく彼女が銀狼だな」


 亜人連合軍において最強と謳われ、亜人達の精神的拠り所になっておる存在。


 噂によると例え神人だろうが銀狼の餌食となるらしい。


 なるほど、そう畏怖される理由も戦いを見ているとわかるものよ。


 こちらの兵はこぞって銀狼に向かっているはずなのだが、傷一つ付けられず逆に屠っておる。


「ダグラス!!」


 銀狼は我の姿を目に止めたのか、そう叫んで一直線へ向かってきよる。


「ショコラ様への道を開けろ!」


 すでに大なり小なり傷をつけられ、まともな者など1人もいない中、向こうの一団は最後の力を振り絞って我と銀狼の間に立ち塞がる兵を片付けたわ。


 あと10m。


 片手にナイフを持ち、瞳に闘志を宿らせた銀狼が迫ってくる。


 あと5m。


 周りの兵は全て銀狼によって消されてしまう。


 あと3m。


 ナイフを逆手に持ち変えて我に向かって飛びかかった瞬間――


「今だ! 我ごと攻撃せよ!」


 その言葉を合図に全方位から矢と魔法が降り注いでくる。


「ぐ、ぬ……」


 矢はこの甲冑に通らず、魔法も生身に届くことはないのだがそれでも苦しいものを感じる。


 体のあちこちが矢による打ち身と火と風魔法による爆風やら熱によって我の体も痛めつけられおったわ。


「……これで我の勝ちじゃ」


 我をも巻き込んだ攻撃が一段落を終えたのを感じた我は矢と炎によって黒焦げのハリネズミとなった銀狼の残骸を見下ろしながらそう呟く。


「ダグラス陛下が勝ったぞーー!!」


 周りに控えていた兵達も状況を理解したのか、その歓声が周りへと広がっていく。


 我の兵が勝利に湧き、亜人どもが絶望によって武器を落とす様子を眺めながら我は考える。


 向こうの勝利条件は分かっていた。


 数で劣勢な向こうは消耗戦を仕掛けられると負けてしまうので、取る道は大将の首を取る短期決戦。


 ゆえに最も戦闘力の高い銀狼が我の首を狙いに来ることは分かり切っていたので、そこに罠を仕掛ければ良かった。


 そしてその狙いは見事に当たり、こうして我は立って銀狼は地にひれ伏した。


 向こうは精神的支柱である銀狼を失い、勝利する機会を見失った。


 後は我の勝利を宣言するだけだろう。


 銀狼、我が討ち取った――そう声高に唱えれば向こうは疲労と絶望から全面壊走が始まる。


 だから我は手を挙げて勝利を打ち上げようとしたのだが。


「--ん?」


 無数の矢に打ち抜かれ、焼け焦げている銀狼は身長が2mもあったかと考える。


 しかもよく見ると銀狼は使用人の服でなく、黒装束に身を包んでいる。


 何故だ? どういうことか?


 銀狼はここまで腕が長かっただろうか、何故亜人特有の獣の一部が見当たらないのであろうか。


 おかしい。


 確か遠目には銀狼の要素が確認できたはずなのに。


「だ……ダグラス……」


 そして、銀狼が最後の力を振り絞って仰向けになった瞬間我は全てを理解した。


 目の前の銀狼の瞳には憎悪や怒りなどの表情は全く浮かんでいない。


 それどころか母のような子を慈しむ暖かい色を浮かべるのは。


「ダグラス……愛しい我が子よ」


「っ! なんと!?」


 我は銀狼でなく、母君に手を挙げたという出来事に混乱していると、前方から叫び声が聞こえた。


「ダグラァァァァァァス!!」


 歓喜に浸る兵達の脇をすり抜けて余の下へ向かってくる相手こそ本物の銀狼。


 姿形こそ母君が真似たのと変わりないが、その疾走する速度や空気。そして何よりも全身から溢れ出す殺意が奴を本物だと訴えておる。


 なるほど。


 つまり母君は己の姿を銀狼へ見せかけると同時に本物の銀狼を幻術によって大人しくさせておったのか。


 我は咄嗟に周りを確認するのだが、突然の出来事で弓矢部隊も魔道士部隊も準備が整っておらんかった。


「……そうか」


 ここに至って余は自身の敗北を悟る。


 並みの相手なら負けはせんが、相手はあの銀狼。


 戦闘に特化した狼族の申し子である銀狼相手では我の武勇も児戯に等しいだろう。


 事実、その数瞬後には銀狼が我の胸にナイフを突き立てておった。


「……何か言い残しておきたい言葉はある?」


 急速に意識が薄れゆく中、我は警告を込めて銀狼にこう言い残した。


「我を殺したところで安心するな……すぐに第二、第三の我が現れる」


 周りの兵のどよめきが聞こえる中、我は我と同じく瀕死の母君と目を合わす。


 母君も我も話せる状態でなかったがそれでも母君と意思を交わすことができた。


「母君、我は死ぬみたいだ」


「ええ、そうね」


「母君、我は地獄に堕ちるのだろうか」


「恐いの?」


「ああ、我の所業による報いを受けると思うとな」


 我の悲願が成就してから地獄に堕ちるのであれば何も思わんが、我は失敗してしまった。


 これから我の亡き世界では我の築いた功績も、成そうとした計画も闇に葬られてしまうだろう。


 いったい我は何のためにやったのか。


 何も残せず、ただ罰を受けるとなると我は消したはずの恐怖の感情が蘇ってくる。


 すると母君は我の心境を理解したのか安心させるように微笑みながら。


「大丈夫よ、私も一緒について行ってあげるから」


 母君は優しく諭す。


「ダグラスの責任は私の責任。ダグラスと一緒の罰を受けるよう神様と掛け合って見せるから」


 どうやら母君は最後の最後まで我の味方らしい。


 その昔を思い起こされる笑顔を見ていると恐怖の感情とともに復活した別の感情が我の身を包む。


「……泣いているの?」


 どうやら我は泣いていたようだ。


 ふむ、涙など何年振りであろうか。


「母君、どうして母君はそんなに我の味方をしてくれるのだろうか」


 我は過去母君に対して酷い仕打ちをしたはずなのに、母君は変わらず我を許してくれる。


 その質問に対して母君は躊躇いなくこう答えてくれた。


「母親はね、どんな時でも息子の味方なのよ。どれだけ遠くに行っても母親は息子を案ずるし、間違ってしまっても最後まで息子を止め続ける。そういうものなのよ」


「…………母上」

LUCK -9999も後3話で終わりです。

なのでもうしばらくお付き合い下さい。


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