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LUCK -9999  作者: シェイフォン
最終章 憎しみの果てに
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8話 1つの決着

「どうやら後ろが持ち直したらしいな」


 俺――ソルトは戦場の機微を敏感に読み取ってそう呟く。


「とりあえずは一安心――と、言いたいところだが生憎と全然壁を打ち破られていねえ」


 時間が出来たことは喜ばしいが、状況は全然変わっていない。


 帝国の陣営を破っても破っても次から次へと補充されるので全然進みやあしていねえ。


「指揮官が相当有能なんだろうな」


 思い浮かべるのは帝国軍の元帥であるグエン。


 あいつが執る指揮を一度見たことがあるが、それはもう見事なものだった。


 おそらくこの大陸において最も優れた大将だろうな。


 と、俺はここでファラウェンを見る。


 この王女様は兵法の心得が無いにしても、それを補うほどの執念を発している。


「……」


 自分の立場を分かっているのだろう。


 全くの無言で食い入るように前線を見つめ、声を発する時は俺や他の参謀による進言の言葉を繰り返すだけ。


 自分は兵の士気を向上させるためだけの存在だと割り切っている。


 こちらもグエンとは違った意味で名将だな。


「将軍、俺はちょっと前線に向かうぜ」


 このまま見惚れていても仕方ないので俺はファラウェンにそう進言する。


「前線? いったい何しに?」


 案の定尋ねてきたので俺は淀みなく答える。


「我々は奮闘しているが、指揮官のグエンが優秀なのでイマイチ攻め切れねえ。だからちょっと無力化してくるぜ」


「つまり指揮官に直接攻撃すると?」


 ファラウェンの問いかけに頷く。


 このままだと俺達はジリ貧だ。


 ならば一か八かの本陣特攻によって勝機を作るべきだろう。


「それは有効かもしれないけど、一体どうやって攻めるの? 言っておくけど決死隊を組んだ所で辿りつけずに途中で全滅するのがオチよ」


 ファラウェンの言葉通り、グエンまでの道のりには十重二十重の防衛陣が敷かれているのでこれを突破するのは容易じゃねえ、が。


「それは地上からの場合だ」


 人間は空を飛べねえので空中に陣を敷いていねえ。


 ならばそこから攻めれば良い。


「あんた馬鹿? 空から攻めても雷の魔法で撃ち落とされるのが関の山よ」


 ファラウェンが呆れ調子の様子で呟く。


 まあな、俺もそんな印象を抱いていたが、コウイチが作ってくれた物を見ていけると確信したぜ。


 よく分からねえが、雷というのは上から下に流れるものだから、コウイチが作った『びにーる』に金属の紐を地面に垂らして電気を逃がすと問題はないらしい。


 もちろん装着すると飛ぶ際の邪魔になるので、傘を模して作っている。


 この大型のなら鳥人の2、30人ぐらいは余裕で入れそうだったな。


「私はあまり信用できないのだけど」


 まあ、ファラウェンはこの発明に懐疑的だったな。


「とにかく、これしか手段はねえ。俺はグエンの元に突っ込んでくるから」


 こうしている間にも時間はどんどん削られていく、だから俺はもう話を切り上げようとすると。


「止めても無駄なようね。まあ、良いわ。好きなだけやってらっしゃい」


「恩に着る」


 ファラウェンは渋々ながらも納得してくれたみたいで良かったぜ。


「ああ、そうそう」


 俺は身を翻して去ろうとすると、ファラウェンからそう呼びとめられる。


「なん――っ!」


 俺は燻しげながら振り返ると、そこにはファラウェンの顔のドアップがあったぜ。


 こうして見るとファラウェンは本当に女神のような美しさを持っているなと感じた瞬間、唇に何か柔らかい感触を感じた。


 それがファラウェンの口付けだと気付いたのは、彼女が離れてからだったな。


「知ってる? 鷺の接吻は神の祝福があるとされているの」


 ニッコリと妖艶な微笑んだファラウェンはそう囁く。


「これであなたはもう死なないわ。思いっきりやって生きて帰ってらっしゃい」


「……おいおい、俺は思春期のガキか?」


 一連の行動でドギマギしてしまった自分に対して猛烈な自己嫌悪が襲って来てしまったぜ。




「少し不安でしょうが我慢して下さい」


 戦場の上空――俺を抱え上げている元近衛のホークがそう忠告してくる。


 確かにホークの言う通り、俺は空なんて飛んだ経験が無いから地面に足が付いていないと焦燥感が湧き上がってくるぜ。


「全員! 配置についたな!」


 俺は浮足立つ味方に喝を入れる目的でそう声を出す。


 今、この場には俺の他にもメンバーがいる。


 そいつらは俺の様に国や故郷を失い、果ては肉親さえも失った天涯孤独の者達ばかりだ。


 つまり死んでも誰も悲しまない者ばかり。


 敵陣ど真ん中に特攻するのだから生存確率は限りなく低いだろう。


「まあ、それでも俺は生き延びてやるけどな」


 限りなく低いがゼロではない。


 ならせいぜい足掻かせてもらうとするか。


 と、ここで晴天にも拘らず空が光って雷鳴が鳴り響く。


 どうやら向こうが雷の魔法を使用したようだ。


 そして、その結果は。




「……無事なようだな」


 コウイチの読み通り雷は俺達に届くことなく、紐を通って地面へと流れて行った。


「さすがコウイチ様ですね」


 傘を持っていたイーグルがそう興奮するのも無理ないだろう。


 何せあの魔法によって鳥人族はやられてしまったのだから。


「さて、次はこちらの番だ! 全軍! 突撃!」


 こちらが高揚している今を見逃すわけにはいくまい。


 俺は声も高らかに宣言し、グエンのいるであろう陣地を指し示した。




「お初にお目を掛かります……と、言ったところか?」


「貴様……」


 目の前にいるグエンが憤怒によって目を血走らせながら低く唸りを上げる。


 雷の魔法を無力化させ、本陣特攻を成功させた俺達によって前衛司令部は混乱の渦へと陥っていた。


 怒号と悲鳴が巻き起こり、もはやグエンとその周辺は本来の役割を果たすことができない。


「さて、前口上なんてする暇はねえからサクッと決着を付けさせてもらうぜ」


 グダグダと話してグエンに逃げられたら目も当てられない結果となる。


 だからここは確実に仕留めさせてもらおう。


 俺は腰に差してあった剣を抜き取る。


 業は無名で、名のある鍛冶師に作ってもらったわけではないが、それは俺が傭兵団の団長だった頃から慣れ親しんできた相棒だ。


 柄の塗装の所々が剥げ落ち、刀身も無数の傷跡が走っている様子からおそらくこの一戦で限界だろう。


 だから最後の供養として帝国軍の元帥の血でも吸わせてやろうじゃないか。


「抜かせ! 陛下の一番槍と詠われるわしが小僧などに負けるものか!」


 グエンはそう叫びながら脇に置いてあった大剣――斬馬刀を構える。


 俺とグエン。


 戦いの火ぶたは俺が動いたことによって始まった。


 まず俺が鋭い突きを放つとグエンはその軌道を逸らせる。


「何故陛下の邪魔をする!」


 グエンは返す刀で袈裟切りに切りつけてきたので俺は下へと沈みこんだ。


「陛下の存在こそ至高であり! それ以外は陛下の言に従えばよい!」


 俺は足を狙おうとしたが、グエンの刀の軌道が変化して俺を襲いかかってくる。


「陛下こそ神だ!!」


 咄嗟に地面へ転がった俺に対して大上段から振り下ろしながらグエンは叫んだ。


「「……」」


 そして辺りに訪れる静寂。


「なら、俺も言わせてもらおう」


 俺は口を開く。


「グエンよ、俺はダグラスによって全てを奪われた」


 思い起こされるのは国が滅んだという報せが届いたこと。


 そこから常に人間から闇討ちを受け、愛する仲間が次々と消えていったこと。


 そしてファラウェンの様に変わり果ててしまう者を見たこと。


 それらの記憶が俺の中で次々と再生された。


「……お前にとっては心酔するものかもしれんが、俺からすれば憎しみの対象でしかない」


 俺はここ一拍置いて。


「悪いな、俺にとってはダグラスなんぞ唾棄すべき存在でしかない」 


「ふん、亜人などその程度だろうな」


 これ以上は言葉など不要だろう。


 俺とグエンの価値観が違いすぎるがゆえに、埋めることなどできやしない。


 そして、お互い獲物を構える。


 おそらく次で決まる。


 俺もグエンも戦場に身を置いてきた者同士なので終焉を肌で感じることが出来た。


「――っ!」


「おおおおおお!」


 俺が舌打ちをし、グエンが雄たけびを上げて刀を振り下ろした瞬間お互いの影が交差する。


 そしてそのまま1、2秒ほどの時が過ぎた時。


「……地獄で待っているぞ」


 喉をかっ切られたグエンは最後にそう呟き、地面にドウと倒れた。

違和感がありすぎたのでグエンのセリフを変えました。

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