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LUCK -9999  作者: シェイフォン
最終章 憎しみの果てに
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7話 デザイアの心境

「右翼! 少し下がれ! 左翼は突出した中央を補佐だ!」


 私――デザイアはひっきりなしにやってくる伝令兵に対してそう命令を下す。


 その選択は常に最善の手を打っているはずなのだが、戦況は一向に思わしくない状態だ。


 私が髪を逆立てる原因は。


「デザイア副将軍! 左翼が横腹を突かれそうです! 至急兵を送って下さい!」


「ああ、もう! 兵の数が違い過ぎる!」


 息を切らしてやってきた連絡将校の言葉に私は歯噛みせざるを得なかった。


 50万対80万。


 向こうの方が兵力が多いがゆえに、取ってくる兵法は左右を翼のように広げて包み込む鶴翼の陣。


 古来から生き残って来た陣ゆえにそれを打ち崩す方法も少なく、ましてやこちらの兵数が少ないので何ら有効な手段を打てていない。


 このままでは近いうちに我らは包囲されて圧殺されてしまうだろう。


 何とか対策を打たなければ。


 私は思考をフル回転させてこの劣勢を挽回できる手段を考えていると。


「そんなに熱くなる必要はないぞデザイア」


 マルス様は私の肩に手を置いてニコニコと笑いかけてくる。


「余らの役目はショコラとベルフェゴール率いる中央部隊をダグラスの元へ送り込む時間を稼げば良いのじゃ。ゆえに勝つ必要はないぞ」


 確かにマルス様の仰る通りなのですが懸念が1つあります。


「このままだとダグラスの元へ辿り着く前に我らは終わってしまいます」


 向こうもそれを承知しているのか中央の壁が特に厚く、ファラウェン率いる精鋭であっても未だに打ち崩していない。


 こうしている間にも我らの陣形は中央に寄せられて密集度が高くなっていた。


 おかげで相手方の魔道士の範囲攻撃による損害が上がってきている。


「ふむ、それは困るな」


 マルス様はようやく我らの置かれた窮地について理解したのか顎に手を置いて唸りました。


「デザイアよ、この状況をひっくり返すにはどうすれば良い?」


 マルス様の問いかけに私は。


「右翼でも左翼でも構いませんから、どちらか一方に風穴を開ければ挽回できます」


「なるほどな……」


 その言葉を聞いたマルス様は1分、2分と沈黙した後に顔を上げて。


「デザイアよ、向こうはギアウッド殿がここにいないことを知っておるのか?」


「いえ、おそらく知らないでしょう。何せベルフェゴール殿が徹底的に情報を封鎖しましたので」


「そうかそうか。それなら使える」


 マルス様は笑いながら2、3度頷き、そして口調を変えました。


「まだ損害の少ない右翼に左翼の半分を移動させろ」


「ま、マルス様! それは!」


 マルス様の命令に私は血相を変えて反対します。


 何せそんなことをすれば脇腹を突かれて分断されるのが目に見えるからです。


 が、マルス様の言葉には続きがありました。


「そして、左翼の兵を移動させる際にギアウッド殿が現れることを声高に宣伝し、用意してあった木の人形を大至急組み立てて左翼へ移動させろ」


「木の人形ですか?」


 確かに備品としてそんなものがあった気がしますが、あれはバラバラだったので何に使うのか分かりません。


 するとマルス様は茶目っ気たっぷりに笑いながら。


「何、あれはコウイチ殿が作ったギアウッド殿の体型を模した組み立て式の人形じゃ。そして防具を装備させると本物と見間違うほどに精巧な出来じゃよ」


 なるほど。


 つまり巨人族であるギアウッド殿が参戦したと錯覚させて向こうを足止めしようという魂胆ですか。


 確かに理に叶っているのですが、懸念事項が1つ。


「向こうは都合良く引っ掛かってくれるでしょうか。普通ギアウッド殿のような戦略クラスなら右翼に集めて一点突破が常識です」


 敵陣を突破するには最高兵力をぶつける。


 これが兵法の通りです。


 しかし、マルス様は私の不安を吹き飛ばすかのように大笑いして。


「ハッハッハ、その心配は無用じゃ。確かに兵法からすればそれが定石じゃが、デザイアは彼我の戦力差を見逃しておる」


「――っ! なるほど!」


 マルス様の言葉によって私は真に理解します。


 同数の兵力なら陣を突き破られたら敗北が決まりますが、こちらは劣勢なので突破したところで囲まれて終わる可能性が高い。


 つまり突破=敗北の図式が成り立たないため、向こうは迷うでしょう。


 その迷っている隙に右翼へ集中させた我が兵は陣を突破して引き返す。


 それだけで多くの時間を稼ぐことが出来る。


「さすがマルス様です」


 私ならここまで知恵を働かせることなど出来なかったでしょう。


 そういえばマルス様はチェスにおいても相手の呼吸を乱すのが抜群に上手かった。


 なので初戦や2回戦目はあっさりと負けることが多いのですが、数を重ねていくうちにマルス様は無敗に近くになります。


 逆に私は理詰めなので戦歴に関係なく勝ち負けを繰り返していました。


 思えば私はマルス様のためにいるのでしょうね。


 マルス様が相手の呼吸を読み取るまで私が時間を稼ぐ。


 その連携によって私とマルス様は共に戦って参りました。


(マルス様、これからも傍に馳せ参じます)


 例えマルス様がクオーターであってもその信念は微塵も揺るがない。


 そんなことを考えていると。


「? デザイア?」


「い、いえ! 何も!」


 マルス様は首を傾げてこちらを覗き込んでいましたので、私は慌てて何でもないと言うように首を振りました。

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