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LUCK -9999  作者: シェイフォン
最終章 憎しみの果てに
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4話 正義とは

「……何故ハーフのダグラス殿が人間以外の種を憎むのか問いても良いかな?」


 純粋な人間なら弾圧することも理解できる。


 何せこの大陸の常識は人間こそが至高であり、それ以外は例え神人であろうとも下へ置く傾向だからだ。


 そんな風潮を受け入れて育ったのなら仕方ないだろう。


 が、ダグラスは違う。


 ダグラスは神人とはいえハーフなので、差別される者の苦しみは共感できるだろう。


「元リーメンダーク国の王であるマルスは亜人ないしハーフを救おうと動いていた」


 マルスはハーフよりひどいクオーターという立場だったので、彼らの苦しみを共感することが出来、何とかしようと必死で足掻いていた。


「ダグラス殿ならマルスの感情も理解できるだろう。何故マルスと共に動こうとしない?」


 マルスとダグラス。


 この2人が手と取り合えば、もっと早くかつ犠牲も少なく差別をなくせることが出来る。


 俺はその想いを込めてダグラスに聞いたのだが、ダグラスは何がおかしいのか手で顔を押さえて肩を震わせる。


「クックック、マルスは昔の我と同じ近眼だからな」


 ダグラスは続けて。


「マルスを含め、貴様等は目の前しか見えていない。今、この瞬間を救うことが出来ればそれで満足なのだろうな」


「どういうことだ?」


 俺が片眉をあげて問うと、ダグラスの代わりにベルフェゴールが答える。


「神人と亜人、そして人間の寿命はそれぞれ違うのよ」


 聞いた話によると神人は1000年以上で亜人は大体200~300年だが、人間は例外なく100年で死が訪れる。


 寿命だけでなく能力も上に行くほど絶望的な差があるのがこのイースペリア大陸だった。


 ベルフェゴールの言葉をダグラスが引き取る。


「万物は死を恐れる。その恐怖から遠ざけるために生命体は力を付け、繁殖し、敵を排除して自己を存続させた」


「つまり亜人や神人を滅ぼすのは自然の摂理だと?」


 どこの世界でも生存競争というのは起きているものだ。


 事実、人類学においてもネアンデルタール人や北京原人などの種は存在していたが、ホモ・サピエンスによって滅ぼされてしまった。


 そのことから鑑みても人間が神人や亜人を絶滅させることは間違っていないように聞こえる、が。


「自分達には言葉を使って意思疎通が出来る。だから共存できるのではないか?」


 コミュニケーションが取れない相手なら敵対もやむ無しだが、俺達は言葉を使うことが出来る。だからそんな過激な手段を取る必要などないではないかと述べる。


「コウイチよ、貴様は死の恐怖というのを甘く見ているな」


 しかし、ダグラスは一言で切り捨てる。


「想像してみると良い、自分は老いていく傍らで亜人や神人は同じ姿を保っている。もう足腰も立てない体にも拘らず隣人は元気に狩りをしている……その光景に貴様は耐えられるか?」


「……」


 俺が老人となっていく横でショコラの姿は変わらない。


 それどころか俺が死んだ後に誰か他の者と恋仲に陥る可能性もある。


 その未来を想像するだけで俺は何とも言えない恐怖の片鱗を感じてしまった。


「滅ぼさなければならないのだ」


 ダグラスは力を込めて言い放つ。


「将来、寿命は種族の違いによって悲しむ者を作らないためにも、ここで全てを平等にしておくのが正しい決断だ」


「……ダグラス殿は無間地獄に堕ちるぞ」


「それで悲しむ者がいなくなるのなら、我は喜んで地獄の業火に身も心も焼かれようぞ」


 ダグラスの言葉に全くの迷いなど無かった。


 この強烈な信念があるからこそダグラスはここまで帝国を導けたのだろう。


(ドラクロワ卿の言葉すら霞んでしまうな」


 ドラクロワはダグラスの所業を歴史の泡沫と説いたが、果たしてそれが正しいのか疑問を持ってしまう。俺から見るとダグラスは人間以外の種の撲滅を達成してしまうと錯覚してしまった。


「……同じことが繰り返されるわよ」


 ここでベルフェゴールが口を開く。


「うん、何用かな?」


 ダグラスがそう問いかけたのは、ベルフェゴールの様子が先程までの弱々しい雰囲気とは一線を画していたからだ。


「例え人間以外の種を滅ぼしたところで、今度はまた人間の中で同じような虐殺が繰り返されるわよ」


「そうはならん。我がそのことを考えておらんはずはなかろうが」


 そしたダグラスは撲滅後の人間の統治について語り出す。


 その政策は理に叶い、俺も思わず唸ってしまったほどなのだが、ベルフェゴールの表情は変わらない。


「ダグラス、あなたは致命的な間違いを犯しているのよ」


 ベルフェゴールは母親の様に優しく言葉を紡ぐ。


「その方針の出発点が恐怖から逃れるためだということ。けど、死からは、恐怖からは逃れられない。だからあなたの政策はすぐに破綻する」


「……」


 ダグラスすら黙らせるほど静かな闘志を宿らせながらベルフェゴールは続ける。


「ダグラス。死を、恐怖を、違いを受け入れなさい。何故ならそれらは影の様なもの。必死で逃げた所で影からは逃れられないのだから、いずれは追いつかれてしまうのよ」


 そして最後に柔らかく微笑んでこう締め括った。


「最愛の息子、ダグラス。あなたは間違っているのよ」


「…………そうか」


 長い長い沈黙の後、ダグラスは短く呟いて体を翻す。


「今更母親面されても困るだけだ」


 扉が閉まる直前、ダグラスがそう言い残した言葉が印象的だった。


 そして俺とベルフェゴールの2人だけになった時、ベルフェゴールが口を開く。


「コウイチのおかげよ」


 ベルフェゴールは語る。


「ダグラスが人間以外の撲滅に方向転換した時、私はどうすることも出来なかった。何故なら、先程コウイチが感じたようにダグラスの言葉に共感してしまったから」


 ベルフェゴールの言葉は懺悔の様な響きを持っている。


「そして私はどうしようもなくなって国を出奔。あてもなくフラフラと彷徨っていた所にショコラを見つけ、そしてこの屋敷に辿り着いたわ」


 目を閉じて語るベルフェゴールは僅かながら懐かしさを胸に抱いているようだった。


「マルスは私を何も変化していないと思っていたようだけど、実は私が一番変化したのよ。だって口で止められなかった最愛の息子に剣を向ける真似なんてここに来るまでは出来なかったから」


 そしてベルフェゴールはクスリと笑った後、表情を引き締めて俺を射抜く。


「大丈夫よコウイチ。エクアリオン共和国は必ず勝つ。息子の粗相は母である私が命に賭けても止めるから」


 ベルフェゴールの全身から発する気迫に俺はただ頷くことしか出来なかった。

次回は待機組――コウイチとルクセンタールそしてギアウッドが登場します。


まあ、嵐の前の静けさですね。

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