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LUCK -9999  作者: シェイフォン
3章 決戦に向けて
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12話 新たな関係

さすがにこの場面をラブコメにすることは出来ませんでした。

 俺はショコラと共に食堂で休憩がてらおやつを食べていた。


 本当ならまだ食べる時間ではないのだが、ショコラの視線に耐えきれなくなった俺は切り上げて少し話し合うつもりだった。


 美味しい物を食べれば気分も和やかに、そして口も饒舌になるのはどこの世界でも同じだったので俺は昨日から仕込んでいたクッキーで、種類もチョコやバニラと豊富なのだが、生憎と効果が薄いように思える。


「……じー」


 普段なら一も二も無くお菓子に飛びつくショコラが、今日に限っては身動きもせずに俺の一挙一足を観察していた。


 少し前かがみになって大きな瞳で見つめてくる様子は時が経つにつれプレッシャーの方が高くなっていき、ついにはクッキーの味すら分からなくなってしまった。


「ショコラ? 食べたらどうだ」


 ショコラの鬼気迫る気配に俺は懐柔しようと目の前のクッキーを勧めるのだが、ショコラは聞こえていないかのように瞳を俺から動かさない。


「……一体どうしたんだよ」


 俺は今日何度目かになるかわからない溜息を吐いた。


 


 結局ショコラはクッキーに手を付けなかったので俺がすべて処理することになってしまい、今日のお昼が入るかどうか不安になるという結果に終わってしまう。


「凄く疲れてしまった」


 おやつを食べるだけなのに疲れるって一体何だろう?


 本末転倒になってしまっている気がして俺は首を捻る。


 そしてそのまま俺は食堂を出ようとしたとき。


「あ、あの!」


「どうした、ショコラ?」


 ショコラの上擦った声音が聞こえたので俺は足を止めて振りかえる。


 そこには顔を真っ赤にさせながらも決意の色を浮かべ、尻尾を左右に揺らしているショコラが目に入った。


「これは何かありそうだな」


 ショコラが何か大事なことを伝えると感じた俺は手近な場所にあった椅子に腰かけてショコラを見上げる。


「コウイチ……冗談って好きかしら?」


「冗談か……」


 震える声音で尋ねてきたショコラの問いに俺は少し視線を上げて考え込み、出た答えが。


「時と場合による。公式な場でも行き過ぎない限り冗談は歓迎だ」


 難しい話が延々と続くと脳による思考が麻痺し、場が硬直してくる。


 その時にクスリと笑わせるユーモアが入ると新風が吹きこんで気分が大分楽になるので好きだな。


「そう、じゃあ……」


 ショコラはここで1つ深呼吸を行って気持ちを落ち着けた後、口を開いた。


「コウイチ、もし私がコウイチが好きだと言えば笑ってくれる」


「……」


 少なくとも笑い飛ばすことは出来ないな。


 今のショコラは普段の気さくなお姉さんでもなく冷徹な殺人機械でもない。


 おそらくショコラ自身も知らなかった一面が出ていた。


「……ど、どうかな」


 ショコラは怯えるように身を竦ませ、遠慮しがちに尋ねてくる。


 この場合において沈黙は駄目だろう。


 今のショコラの精神状況だと何か言わない限り悪い方向悪い方向へと物事を進めさせてしまう。


「突然だな」


 なので俺は立ち上がって語りかけるような調子で口火を切った。


「う、うん……驚いた?」


 ショコラの質問に俺は肩を竦めて。


「少しはな」


「アハハ、迷惑だった?」


「いや、全然。むしろ嬉しかった」


「どうして?」


 ショコラの疑問に俺は頬をかきながら。


「そうだな……理由はたくさんあるが、やはりショコラが俺を異性として見てくれていたことかな」


 こう言っては失礼だが、ここまでの俺とショコラの関係というのは、どう好意的に見ても何もわからない弟に教える姉のようなイメージだった。


「フフフ、確かに言われてみればそうかもしれない」


 ここでショコラは今日始めて自然な笑みを浮かべる。


 普段の笑みとは違って見えたのはショコラが心の底から笑ったからだろう。


「で、コウイチ。あなたの返事を聞かせてもらっていいかな?」


 しばらくの間ニコニコとしていたが、急に表情を切り替えてそう尋ねてくる。


「コウイチのことだからもう答えが出ていると思うけど、私はそれを言葉にしてほしい」


 さすがショコラだな。


 色々ありながらも俺がこの世界において最も長く接してきただけのことがある。


 調子を取り戻したショコラは今、俺が何を考え、そしてどう答えるかすでに分かっているのだろう。


「なあショコラ、確認していいか?」


 なので俺は覚悟を確認するために歩を進めながらそう聞くとショコラは躊躇なく頷く。


「ショコラ。俺がどう答えようとこれから先、今までの関係ではいかなくなる」


「そうね、少なくともこれから気さくに接することは出来ないわ」


 俺とショコラの関係。


 それは世界に無知な弟に優しく教える姉のようなもの。


 どんな時でもお互いを見捨てず、手を取り合える仲だ。


 しかし……


「これが家族の距離だ」


 俺はショコラの手が届く位置で止まる。


 例え親しげであろうとも常に一線はひかれており、そこから先は越えることなどありえない。


 手を取ることは出来るが、それ以上近づくことができない。


 目も届く範囲におり、触れ合うこともできるが密着することができない関係。


 それが家族の絆というものだろう。


 事実、ベルフェゴールも必要以上に屋敷の住人たちの過去を詮索しようとしなかった。


「ショコラ、引き返すのなら今の内だぞ。今なら笑い話で済ませ、昨日と変わらない関係が明日も続く」


 ここから先は家族の域を超える。


 互いの体が近くにあるため、拳を振り上げて相手を害することもできる距離となる。


 いうなれば雪山のハリネズミ。


 ここから試行錯誤を繰り返してお互いにとって程よい位置を決めることとなる。


 それはとても辛い作業だろう。


 近すぎるために醜い部分も目に映り、遠すぎるために相手の心を知ることができない。


「それでも良いのか?」


 こんなはずではなかった。


 そんな後悔をしてしまう時が来るかもしれない。


「言っておくが、俺はショコラが考えている程人間が出来ていないぞ」


 最後通牒。


 そう言わんばかりの言葉を突きつけるが、ショコラの瞳は微塵も揺るがない。


 それどころか自然体の柔らかい笑みを浮かべて両腕を広げる。


「……」


 俺はショコラの姿に不覚にも言葉を失う。


 普段は意識していなかったが、よくショコラを観察すると新しい魅力が映る。太陽光を浴びて反射する白銀色の髪や傷一つない白磁の肌。スラリとした肢体だが、出るところは出ている均整のとれた体つき。健康的にも拘らず着ているメイド服がギャップを生み出し、俺を何とも言えない気分にさせる。


 俺の葛藤を理解しているのかいないのか、ショコラは再度蠱惑的な言葉を繰り返した。


「分かっているわよ、コウイチはまだまだ未熟。だけど、私はそんなコウイチが……好き」


「そうか」


 クックックッ。


 2人しかいない広い食堂に俺の喉を鳴らす音が響く。


「なら、ショコラ。俺の答えも分かっているよな」


 俺は鏡写しのようにショコラと同じく笑みを浮かべて両腕を広げた。


 両手を広げて相対する俺とショコラ。


 その距離は2歩分。


「コウイチ、私はコウイチと共に歩きたい」


 ショコラの言葉に俺は僅かに頷いた後、返答として口を開いて。


「ショコラ、俺はショコラと共に未来を見たい」


 そしてお互いが示し合わせたように同時に一歩足を踏み出し。


「「共にいよう」」


 俺とショコラの距離が零となった。

小説を執筆している時が今の私にとって最高の娯楽であり息抜きになっています。

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