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LUCK -9999  作者: シェイフォン
3章 決戦に向けて
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10話 おそらく最強

1時間で書きました。

「はあ~」


 お気に入りのチーズタルトを食べているのに私――ショコラはため息が出てしまう。


 原因は分かっている。


 それはコウイチのせいだ。


「最近全然構ってくれなくなったのよね」


 どうしてか最近コウイチは妙に張り切って色々なことに精を出している。


 以前は朝早くに起きた後朝食を作り、道具や薬を作る毎日を亜人王を襲名した後でも続けていたのだけど、今はそれ以外にマルスやベルフェゴール達と国の政策について話し合っている。


 私も気になって少し聞いていたのだけどサッパリ。


 風俗管理のため色街を国直轄で主導したり、排泄物を肥料に利用する云々だということが辛うじて理解した程度よ。


 マルスは非常に興味深いのか頻りに頷いて感心していたのが印象的だったわね。


「何かお困りですか?」


「ルクセンタール……」


 どこか優しげのある声音で尋ねて来るのは忙しい私の代わりに屋敷の管理を任されているルクセンタール。


「何でもないわよ。それよりもずいぶんと大きくなったわね」


 私は首を振ってこれ以上の詮索を避けるために話題をルクセンタールの赤子に移す。


「ええ、時々ですが少し動くんですよ」


 そう言いながら愛おしげにお腹を撫でる様子を見た私は将来ルクセンタールは良いお母さんになりそうと考えた。


「さて、私の赤ちゃんについての話題よりもショコラの悩みについてお話しましょうか」


 が、ルクセンタールはこれぐらいの話題逸らしには引っ掛からない。


 こう見えてもルクセンタールはマルスさえ手玉に取るベルフェゴールと対等に話し合えるだけの力量を持っているのよ。


「いや、何でもないわよ」


「いえいえ、ショコラにとっては大きな悩みでしょう」


 私は手を振りながら何も話したくないと意思表示するのだけど、ルクセンタールはニコニコ笑う裏で梃子でも動かない頑固さを秘めているのよねこれが。


 しばらく押し問答を繰り返した私達だけど、やはり私が根負けして全てを洗いざらい話すことになった。


 ……うう、ルクセンタール。あなたは卑怯よ。




「――と、いうことわけなのよ」


 気がつけば私は30分以上一方的に話していた。


「まあ、それは大変ですねえ」


 けど、ルクセンタールはその間嫌な顔一つせずに私の話に頷きながら相槌を打ってくれる。


 本当にルクセンタールは聞き上手ね。


 私もいつかルクセンタールの様な女性になりたいわ。


 そうしたらコウイチも――


「って! 何考えているのよ!」


 私は突然立ち上がってそう叫んでしまったけど、ルクセンタールは眉1つ動かさず、ただ微笑んでいたわ……本当にルクセンタールの様な器量が欲しい。


「うーん……話を整理するとショコラはコウイチさんの変わり具合に驚いているのよね」


 その通りなのでコクリと頷く。


「私も同感だわ。最近のコウイチさんは何か憑かれた様に頑張っている、このままだといつか緊張の糸が切れてしまいそうよ」


 ルクセンタールが溜息を吐きながらそう返してくれると、この懸念は私1人だけじゃなかったんだとホッとする。


「そうなのよ、コウイチは頑張り過ぎ。だからちょっとは休んでくれても良いんじゃないかと思うわ」


 やっぱりルクセンタールは私の味方だ。


 話す前は恥ずかしさもあって気が引けるけど、いざ語り始めると舌が饒舌になり始める。


 本当にルクセンタールは理想のお母さんだわ。


 このような人物がたくさんいれば大陸は平和になるのに……


 今までのうっ憤を晴らすかのようにコウイチに対する不満をぶちまけていると――


「話は聞かせてもらったわ!」


 甲高い声音と共に大陸に動乱を巻き起こす類の人物が出現したわね。


「ごめんなさい、用があるから私はもう行くわ」


 なので私はすぐさま立ち上がってこの場を去ろうとしたのだけど。


「待ちなさいよショコラちゃん。お姉さん悲しいわあ」


 全ての元凶――ベルフェゴールが私の肩を掴み、空いている手で自分の額を押さえながらヨヨヨと嘆く。


「ああ、何でみんな私に対してこんなに冷たいのかしら。こう見えてもお姉さんの精神は豆腐メンタルなのよ。ちょっとした刺激で壊れてしまうほど儚く繊細なの」


 あんたが繊細なら私達は一体何なのよ!


 私はそんな言葉が喉まで出かかったけど全精力を込めて呑み込む。


 言ったところでのらりくらりとかわされてこちらの疲労が溜まるばかりだ。


「ベル、少し自重しなさい」


 ルクセンタールが呆れながらそう諭すとベルフェゴールは嘘泣きを辞める。


「ショコラは本気で悩んでいるの。茶化すのは失礼だわ」


 ルクセンタールは常に微笑みを浮かべているけど、ベルフェゴールだけはそれ以外の表情を浮かべるよ。


「ごめんなさいルク、ショコラちゃんがあまりに可愛くて」


 そしてベルフェゴールもルクセンタールだけはちゃんとした態度を取ることから、このように気を許し合う2人を私は羨ましく感じる。


「さて、ショコラちゃん。良い方法があるわよ」


 眩しい目で2人を見つめていた私はその言葉で我に帰った。


「ショコラちゃんはコウイチが好き。だけどその想いが伝えきれなくてもやもやしているのよね」


 ……は?


「な、な、何を言ってるのよベルフェゴール!?」


 ベルフェゴールの言葉の中に聞き逃せない単語が出てきたので私は慌てて否定する。


 私がコウイチが好き?


 冗談じゃない。


 何で私より弱い人間に対して恋愛感情を持たなくちゃならないのよ。


 私を倒せる程の力量を持っていなくちゃ少なくとも男としては見ないわね。


「コウイチはちょっと変わった変人。だから恋愛感情なんて微塵も持っていないわ」


 なので私は胸を張ってそう宣言したのだけど。


「ふーん……じゃあコウイチが別の女性と結婚しても構わないわね」


「んなあ!?」


 その言葉で私は完全なパニックへと陥ってしまったわ。


「コウイチはこの国の最高権力者よ。だから体だけの関係で良いからお付き合いになりたいという者は多いの」


 ベルフェゴールの言葉に私はどう返していいのか分からない。


 コウイチが別の女性とくっ付く?


 いや、確かに恋愛なんて人の自由だから誰と誰が付き合おうなんて構わないけど、何故かコウイチだけは誰かと付き合うなんて想像したくないわね。


 いや、何でコウイチだけ誰かと付き合っちゃ駄目なの?


 特別扱いしちゃ駄目でしょう。


 コウイチはあくまで少し親しい人間という立ち位置何だから別に関係ないんじゃ。


「……ベル、もう良いからどっかに行って頂戴」


「ごめんさいルク、真面目にやるから」


 ふと気が付くと、あの傲岸不遜なベルフェゴールがルクセンタールに平謝りをするという珍しい光景が繰り広げられていたわ。


「……コホン。気を取り直して」


 ベルフェゴールは仕切り直しとばかりに1つ咳払いをして。


「ショコラちゃん。騙されたとばかりに明日は私が言った通りの行動をしなさい」


「え? え?」


 突然の通告に私は視線を左右に揺らして戸惑ってしまう。


「今回はベルの言う通りにしたら良いわよ」


 ルクセンタールもベルフェゴールに追従する。


「ショコラももやもやとした想いを抱えたままじゃ嫌でしょう。この際だから思いっきり吐き出すと良いわよ」


「そうね、ショコラちゃんのためにお姉さん一肌脱いじゃうわ」


 前門の虎、後門に狼。


 悪魔のベルフェゴールと天使のルクセンタールに囲まれた私は頷くことしか出来なかったわ。

人間やればできます。

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