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LUCK -9999  作者: シェイフォン
3章 決戦に向けて
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4話 泰然自若

今回はハクア視点です。



また、ファラウェンはハクアを20歳にまで成長させた姿をしています。

 ああ、お姉様。


 私――ハクアは尊敬していたお姉様から出た言葉にショックを隠し切ることができませんでした。


 誰に対しても分け隔てなく愛し、例え犯罪人であろうと慈悲の心を忘れなかったあの時の様子とは遠く離れています。


 私も故国を滅ぼし、両親を殺した帝国に対して少なくない恨みを覚えていましたが、復讐に囚われたお姉様を一目見ると、共感より悲しみの感情が勝ってしまうほど、今のお姉様は恐ろしいです。


 しかも姿形は慈愛に満ちたあの頃と変わっていないからこそ一層際立ちます。


「そこまでする理由を聞こうか」


 コウイチさんはお姉様の言葉に多少驚いたもののすぐに持ち直して聞き返します。


(成長しましたね、コウイチさん)


 その動じない様子を眺めた私はそんな感想を漏らします。


 最近コウイチさんは何か思うところがあったのか、以前と比べてずいぶん積極的です。


 まあ、それが時々おかしな所へ暴走して屋敷に変なものを持ち込もうとしますが、何か自分にできることはないかと日々模索しているように思えます。


 そして最近は芯が定まったのか、相手のどんな言葉に対しても動じずに応対できるようになりました。


『以前のコウイチとは比べ物にならんな』


 と、マルス陛下が苦笑気味にそう評していたのを覚えています。


「決まっているでしょう、そこまでして初めて死んだ者が報われるのです」


 コウイチさんのことに気を取られていましたが、お姉様の言葉によって私は現実へと引き戻されました。


「つまり死んだ者のためということか」


 コウイチさんの問い掛けにお姉様は頷きます。


「私が率いてきた鳥人達全員が何らかの形で肉親や友人を失っています。彼らを納得させるためには帝国の臣民の血が必要なのです」


「……そうか」


 コウイチさんは深く息を吐いて椅子にもたれ掛りました。


 そのまま1分、2分と経過します。


 私を含め、そろそろ何か言葉を発してもらいたいとコウイチさんを見た時、ようやくコウイチさんが口を開きました。


「アロウ、お前はどうしたい?」


「え!?」


 突然話題を振られたアロウはビクリと体を竦ませます。


「お前も帝国の臣民に対して血で贖ってもらいたいか?」


 コウイチさんの問い掛けにアロウはしばらく目を白黒させていましたが徐々に落ち着き、指を顎に当てて一言一言述べ始めました。


「俺は……そこまでする必要はないと思う」


 アロウのたどたどしい否定の言葉にお姉様の視線が鋭くなりましたが、コウイチさんが手を挙げてそれを止めるよう合図をします。


「俺も故国が滅び、父さんや母さん、そして妹と離ればなれになってしまった。最初は帝国の全てに対して憎悪していたけど、ここでコウイチやショコラ姉ちゃん、そしてハクアや屋敷の皆と過ごしているうちにそんな気持ちが薄れてきたんだ」


 アロウの言葉に私も知らず頷きます。


 私も最初の頃は心を閉ざし、アロウのすぐ後ろに付いていっていましたが、周りの暖かさに段々と心が安らぎ、そして以前よりかずっと自分を表に出すようになりました。


「ここで思ったんだ。もし帝国の民を皆殺しにするんだったら、向こうも俺と同じ様な憎しみに囚われる者が出てくるだろうし、何より抵抗によってこちらにも少なくない被害が出る。もちろん帝国の所業は許せないよ。けど、責めるべきは国であって民は関係ないと思う」


「ありがとう、アロウ」


 コウイチさんは今の答えに満足したのかにっこりと笑ってアロウを褒めました。


 そしてお姉様のほうに向きなおり。


「さて、ファラウェン。今のアロウの言葉をどう思った? 俺はアロウの言葉が正しいと思う。確かに帝国の行った所業に対して憎しみを覚えるのは当然だろう。もちろんそれを許せとは言わない。だが、憎しみはまた新たな憎しみを生む。こんな不毛な連鎖を生まないためにもここは耐えるべきなんだ」


 憎しみは憎しみしか生まない。


 コウイチさんの言い放った真理に私は深く納得しますが、お姉様はそういかなかったようです。


「……何も知らない者が偉そ――」


「アロウの両親も妹も消息不明だ」


 お姉様が歯軋りしながら呟く言葉にコウイチさんは言葉を被せます。


「ファラウェン、お前は次代の王として教育を受けてきたのだろう? その時なんて習った? 感情に任せて相手を滅ぼせという教えがあったのか?」


 いえ、そんな教えは習っていません。


 王というのはまず民を守るのが第一であり、そのために自国を拡げ、栄えさせる義務があるのですが、他国の民を殲滅というのは逆に自国を衰退させる要因となってしまいます。


 と、ここまで言い放ったコウイチさんは手に力を込めてゆっくりと立ち上がります。


「これ以上先は俺が話すことはないだろう」


「どういうことですか?」


 コウイチさんの不可解な言葉にお姉様が反応します。


「もしかして私達を受け入れないという意思表示ですか。もしそうならあなた達エクアリオン共和国も攻撃の対象となりますよ?」


 お姉様の脅迫とも取れる脅しにコウイチさんはゆっくりと首を振ります。


「違う、そうではない。ファラウェンの言葉通り、何も失ったことのない俺がどんな正論を吐こうがお前達は納得しないだろう。ならば俺は席を外すから残る5人で話し合って決めてほしい……出た結論が帝国の臣民皆殺しでも俺は受け入れよう」


 その言葉を最後にコウイチさんは会議室から出て行きました。

最近短い投稿が続いていますが、私的にはこれぐらいの方が無理なく執筆できます。

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