2話 ハクアの憂鬱
とりあえずここまで出来たので一旦投稿
「……まあ、これが今の俺にできる精一杯のことだよな」
午後の会談が始まるまでまだ時間があったので俺は椅子に深くもたれかかる。
先日、イースペリア大陸の差別を無くすと誓ったのはいいものの、俺はここから出られないことを失念していた。
なのでこの屋敷にある庭に100人ぐらい入ることのできる建物を設置し、そこで政治や軍事やらを決めようと提案したのだが全員から却下されてしまう。
「屋敷にそんな異物を持ち込まないでちょうだい」
これはショコラの言葉だが、他の屋敷の住人からも異口同音に同じ趣旨のことを言われた記憶がある。
「おいおい、軍事の“ぐ”も知らないお坊ちゃんが何を口出すんだよ?」
ソルトは辛辣な言葉を吐き。
「ハッハッハ。その心意気は認めるが正直言ってコウイチは政治家にとってカモネギじゃ。だから政治に関わるのは止めておけ」
マルスも追撃とばかりにダメ押し。
「コウイチ、無能な働き者ってどうなるか知ってる?」
そして最後にショコラが止めを刺したので俺は2、3日ほどベッドにふて寝したくなったことを追記しておこう。
……まあ、その晩にショコラが腹が減ったから早く作れと毛布を引っぺがされ、仕方なく厨房に立ったけどな。
そんな俺だが、周りを信じさせるカリスマ性はあるらしいのでそれを生かし、新たにこの国へ流れ着いてきた亜人達とお目通りをして余計な野心を抱かさないことが俺の仕事となっている。
「あの~……」
「ん? どうしたハクア」
ここ数日の回想に耽っていた俺はハクアの遠慮しがちな言葉で我に返る。
薬の売り子そして怪我人の看護を経験したハクアは、アロウがホロリと涙を流すほど逞しくなり、どんな言いにくい事柄でも笑顔で堂々と聞いてくるので、今回のようにおずおずと聞いてくる様子に俺は違和感を覚える。
「次の会見は確か鳥人の方々ですよね」
ハクアの問いに俺は頷く。
午後の一番から始まるそれはここ数日において最も大きなものである。
何せ今までは村規模、多くて街規模でしかも単一集団である亜人の代表とでしか面会していないが、この次にあるのは複種族の亜人を擁し、さらに国を創れる規模の亜人の代表と会うのだ。
もし彼らを取り込むことができればエクアリオン共和国の国力は大幅に増加できるので、何としてでも成功させたいのが俺の本音。
「私はあまり会いたくないのだけど」
ハクアは手をそわそわさせて落ち着かないようだ。
今までも鳥人の代表と会ったことがあるのに、何故か今回に限ってハクアは不安げに瞳を揺らしている。
「酷い言い方だが、そこは諦めるしかないな」
絶対に成功させなければならない会見なのにマルスとベルフェゴールは不参加を表明し、それどころかハクアとアロウの2人を同伴させるよう進言してきた。
「なあに、始まれば分かるわよ」
ベルフェゴールはそう口元に笑みを浮かべるだけでこれ以上何も答えず、マルスも同様。
全く、本当に2人共性格が悪すぎる。
なので俺はハクアが何を恐れているのか分からない。
「仕方ない」
「何……っきゃ!?」
俺は一つ呟いた後、ハクアを引き寄せて頭を撫でる。
「大丈夫だ、何も心配しなくて良い」
ゆっくりと、シャボン玉を撫でるかの要領で優しく髪を梳くとハクアがだんだんと安心してきたようだ。徐々に強張っていた体の力が抜けていく。
「……ありがとうございます」
5、6分ほどそうしていただろうか。
やがてハクアは俺の胸を押して離れ、ニッコリとすべてを魅了してきた笑みを浮かべる。
「おかげで勇気が出ました、これで大丈夫です」
ハクアがそう述べるが、俺としては何がそんなにハクアを追い詰めるのかが分からない。
「なあ、ハク――」
なので俺は理由を聞こうと口を開いたのだが。
「遅れて悪い」
タイミングが良いのか悪いのか。鳥人用の正装に身を包んだアロウが入ってきた。
「アハハハハハハ! お兄ちゃん何その恰好?」
「う、煩いな! 俺も嫌だよこんな恰好」
アロウの格好にハクアが腹を抱えて笑ったのでアロウは顔を真っ赤にして反論する。
前面から見るとタキシードなのだが、鳥人の特徴である羽を出すために後ろは2枚重ねとなっている。別に特段変わったことのない正装なのだが、サイズが大きい。
これでは服を着ているというより服に着られているという表現が合っている。
俺は馬子にも衣装という言葉が似合いそうなアロウに一言。
「……ベルフェゴールに衣装を任せたのが失敗だったなアロウ」
あの小さい子供に異常な執着を持つベルフェゴールが何かを仕掛けないはずがない。
なので俺はアロウに自分の服は自分で選べと忠告したのだが、アロウは生返事を返して全然真剣に取り組まなかった。
その結果が今のこれだ。
アロウは重要な会見に臨むのに際し、変な格好での登場となってしまった。
ちなみにハクアに関してはベルフェゴールとルクセンタールを含めた3人で喧々諤々と決め合っていたのでこの場に相応しい純白のドレスに身を包んでいる。
「まあ、安心しろ。会見といっても30分程度で終わるから」
涙目で落ち込むアロウに俺はそう慰めるしか方法がなかった。
続きも出来るだけ早いうちに投稿します。