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LUCK -9999  作者: シェイフォン
第2章 リーメンダーク内戦
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8話 マルス陛下

「目論見通り、リーメンダーク軍は石の迷路で立ち往生しているな」


 会議室に1人いる俺は挙げられている報告を読み終えた後そう零す。


「ふう……今回はLUCKを下げずに済みそうだな」


 あの自然を利用した策を思い付いていたおかげで、今回の戦は最低限の死傷者だけで済ませられるだろう。おかげでこれ以上LUCKが下がることも無い。


 俺は背もたれに体を預けながら安堵の息を漏らす。


「ん?」


 少しうとうとしていると扉の向こうから足音が聞こえた。


「コウイチ、予定通り連れてきたわよ」


 ここでショコラがノックと共に入室し、ちゃんと目的を果たしたことを伝えてくる。


「うん、分かった。ベルフェゴールと共にすぐに向かう」


 待たせるのは失礼だろう、だから俺は思考を中断して向かおうとすると。


「いや、向こうはコウイチに会いたいと駄々をこねたから連れてきたわ。だから今私の後ろにいる」


 ショコラが呆れ交じりに呟く様子からよほど煩かったのだろう、犬の耳がペタリと垂れているが、残念ながら俺はショコラのように苦笑できなかった。


「後の先を取りに来たか……」


 ショコラの体に争った形跡がないことから向こうは暴れず、素直に同行したのだろう。そして連れ去った相手の親玉にのこのこと会いに来るのは、何も知らない馬鹿かそれともこの事態を予想していた切れ者か。


「おそらく後者だな」


 何せこれから来る人物はあの海千山千の怪物である重臣達を相手に亜人そして半亜人の保護政策を推薦させたという実績がある。


「念のため聞いておくがその人物は本物だろうな?」


 ここまで危ない橋を渡っておきながら実は偽物でした、なんてなると目も当てられない。


「ちゃんと本物よ。私の嗅覚を舐めないで頂戴」


 どうやらショコラは匂いで見分けたようだ。


「……何だそれは? まあ、実際ショコラが言うのだから間違いはないだろう」


 と、俺が呆れ混じりにそう呟くと。


「匂いとは失礼な言い方だな。これでも余は清潔好きなのだぞ」


 ショコラの言葉を聞き咎めたのだろう。


 ショコラの後ろから棘のある言葉と共に1人の人物が進み出る。


 その者は今から25年前に生まれたらしいのだが、目の前の人物はどう見ても中学生ぐらいにしか見えない。


 金色の髪と青い瞳が印象的な端正な顔立ちから、良い所のお坊ちゃんだと錯覚するのだが、それはすぐにその者から溢れ出る品格によって打ち消された。


「おお、そなたが亜人達の反乱のリーダー――コウイチか。余は一度会ってみたかったのじゃ」


 好奇心と喜びを混ぜた表情を浮かべてこちらに寄って来るのだが、その表情を額面通りに受け取るにはいかない。


「いえいえ、こちらこそ突然の無礼をお許し下さい」


「そんなに畏まらないでくれ。今の余は何の権力も持っておらんただの者、むしろこちらが頭を下げるべきなのじゃ」


 俺は跪いて臣下の礼を取ろうとすると、目の前の人物がそれを押し止めてきた。


「そなたも知っておると思うが、一応自己紹介しておこう。余の名はマルス。マルス=リーメンダーク=パラスギアじゃ」


 リーメンダーク国の王――マルスはそう高らかに宣言した。




「まずは礼を言わせてもらう、デザイア率いる軍の被害を最小限に済ませてくれて感謝する」


 ショコラが退出し、会議室には俺とマルスの2人だけとなった時にマルスがそう口火を切る。


「気にしなくても良い、犠牲は少ない方が良い」


 人間であろうと亜人であろうと殺せばLUCKが下がるので無闇に殺すわけにはいかないのだ。


 俺はありのままにそう述べたのだが、マルスは何がおかしいのかクククと笑いながら。


「言うは易し、行うは難し。簡単に言ってくれるがそれを実行するにはどれだけの苦労があったのか、そしてそのことを微塵にも感じさせぬとは皮の面が厚いのうそなた」


 実際に計画したのはベルフェゴールで、実行したのはショコラ達亜人なので俺はただここでボーっとし、一切苦労していない。


「先読みしすぎだ、俺は大したことをしていない」


 なので俺はそう手をヒラヒラさせて否定するのだが、マルスは全然信じてくれず、逆に感嘆の目を向けて。


「そうか、コウイチにはよほど優秀な同志がいたのか。うらやましいのお、余なんか唯一デザイアだけが心を許せる者だ」


「……それは大変だな」


「何、気にしなくとも良い。コウイチが余の知恵袋になってくれるのであれば百人力だ」


「ちょっと待て、いつからそんな話になった?」


 何故か俺はマルスの力になるという話に進んでいたので俺は慌てて止めるのだが。


「ん? 違うのか」


 そう純粋な疑問符を浮かべて首を傾げられると俺は続く言葉を失ってしまった。


「……とにかく――」


 このままだとマルスのペースに乗せられてしまうので俺は適当な返事を返して本題に入ろうとしたのだが。


「ありがとうコウイチよ!」


「なっ!? ちょっと止めろ! 俺は男に抱き付かれて喜ぶ趣味は無い!」


 喜色満面の笑みを浮かべたマルスが突然俺に抱きついてきたので、俺はしばらくマルスを引き離すのに時間を食ってしまった。


「……コホン、本題に入って良いか?」


 とりあえず俺は一つ咳払いをして話を戻そうとするのだが。


「うむ、主は家臣の言葉を聞かなければならぬからな」


 鷹揚に頷きながらマルスは変なことを呟く。


「だから俺はいつお前の家臣になった!?」


「そなたが先程否定しなかったであろう? 否定の反対は肯定じゃ。つまりコウイチは余の家臣であることを肯定したと捉えたのだが違うかな?」


 俺の先程の曖昧な言葉を盾に取って煙に巻こうとするマルス。


 実はこのやりとりはもう何回も続いている。


 俺が何か言おうとする度にマルスが変なことを言うので中々本題に入れていなかった。


 俺は内心歯噛みする。


 油断した。


 ショコラが押し負かされてここにマルスを連れて来てしまったことからもっと警戒するべきだった。


 幾多の権力争いを潜り抜けてきた猛者に対して外見だけで判断していたようだ。


 仕方ない。


 かなり痛いが、目の前にいるマルスという王族のカードは捨ててしまおう。


 俺はほぞを噛みながらショコラを呼ぼうとすると。


「あらあら、ショコラが言い包められたと聞いて急いで来てみればコウイチも見事にやられているわね」


 その声と共にドアが開いて誰かが入室してくる。


 そんな人を食ったような声音を持つ人物は俺の中ではただ1人。


「そなたがベルフェゴールか」


「その通りよ。一応解放軍の参謀を務めているわ」


 マルスの問いかけにベルフェゴールがゆっくりと頷いて答える。


 眼の錯覚かもしれないがこの時2人の間に火花が散った様な気がする。


「ふむ……その奇怪な容貌はまさしく国を滅亡へ導く悪魔じゃな」


 微笑を浮かべたマルスから放たれる辛辣な言葉にも関わらずベルフェゴールは笑みを崩さず。


「お褒め頂き光栄です、亡国の王」


 普段からは想像もつかない柔らかい口調で腰まで折ったお辞儀で返した。


 ベルフェゴールの言葉にマルスは多少唇を引き攣らせながら。


「そなたは冗談が上手いのお、さすがの余も大笑いしてしまったわ」


 マルスはそう言うが、実際は笑い声どころか笑みさえ浮かべていないのだが……


「まあ、冗談についてはまた今度にしようかしら。で、本題に入るわよ。マルス陛下、あなたは正式に私達に対して降伏を宣言して頂戴」


 ベルフェゴールの降伏勧告にマルスは腕を組んで考える振りを1分ほど続けた後、笑顔でこう言い放った。


「断る」


 ニコニコと。


 2人は笑っているはずなのに俺は何故かゾクリと寒気を感じた。

コウイチがマルスに言い包められた際の部分は少々強引過ぎたかなと反省しています。

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