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LUCK -9999  作者: シェイフォン
第2章 リーメンダーク内戦
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7話 葛藤

今回は主要キャラ未登場です。

「報告します! 先鋒隊500名が、あの石で作られた迷路に入ったきり連絡が取れません!」


 連絡将校からの報告に私――リーメンダーク軍亜人混合師団将軍、デザイア=クランク=ドメアは奥歯を噛み締める。


「あの霧さえなければこんな事態にならないものを」


 そして瞳孔が限界にまで見開き、さらに体中の毛が逆立つのを感じた。


「将軍……」


 私の怒りが伝わったのだろう、連絡将校が2、3歩後ずさる。


「それにしても何故コルギドールの亜人達は反乱など起こしたのだ? おかげで陛下の苦労が水の泡だ」


「デザイア将軍は陛下によって見出されていましたね」


 連絡将校の言葉に私は頷いて。


「そうだ、マルス陛下の恩によって半亜人である私を取り立てて下さった」


 半亜人とは亜人と人間のハーフであり、そのどっちつかずな様子から人間と亜人の両方から忌み嫌われており、その待遇は亜人よりもさらに酷い。


 が、リーメンダークという国は他国に比べるとまだ半亜人に対する風当たりが柔らかい。


 私は高級軍人とその奴隷から生まれた娼婦の子だったが、陛下にその実力を認められて一軍を任させられる将になった。


 もちろん当時は相当反発されたが陛下が押し切り、そして私もその期待に応えるように多大な働きを見せたため、今では誰も後ろ指をさせない状況になっている。


 しかも陛下はそれだけに留まらずに亜人の立場を上げるための方針を掲げ、保守派の大臣と日々暗闘していた。


 コルギドールの面々は陛下の苦労を理解しているのか。


 お前達のせいで陛下は窮地に立たされ、その王の座を追われかけているのだぞ。


 だから何としてでも反乱軍を早期に鎮圧させなければならないのだが、それをこの先にある石と霧の迷路が行く手を阻む。


 あの石と霧の迷路を通っていると徐々に方向感覚が狂い出して同じ道を行ったり来たりし、ついには遭難してしまうらしい。


 なのでそれを壊すための工作部隊を送り込むのだが、敵の抵抗があって難しいうえに壊す端から直されるので芳しい成果は挙げられていない。


 空を飛べる鳥人を偵察に向かわせてもあの石の迷路中を漂う霧が邪魔をし、さらに長く滞在していると霧に乗じた敵兵によって撃ち落されてしまう。


「早く鎮圧せねばならんのに」


 国から1か月以内に反乱軍を鎮圧しろという命令に私はすぐさま名乗りを挙げた。


 この亜人達の反乱を人間の手で抑えられたら、将来亜人達の立場が酷くなると容易に予想がついたからだ。


 まあ、それでも私達1万の軍は後ろに控えている5万という人間の軍によって監視され、武器や防具そして食料の全てを向こうに抑えられている状況だが。


「こう私が手をこまねいている間にもマルス陛下の立場は刻一刻と厳しくなっているんだ……」


 私がそう愚痴を吐いていると。


「報告します! 後方に控えているリーメンダーク軍の監察官が将軍に面会を求めています!」


 大方この遅々として進まない状況に苛立っているのだろう。


 やれやれ、また小言を言われるのか。


 私は肩を竦めてため息を吐き出した後、すぐに参ると伝えた。




「いったいどうなっている! お前達はずっとそこで待機しておるではないか!」


 枯れ木のような痩せぎすの監督官は唾は吐き散らしながらそう喚く。


「……申し訳ありません。あの迷路の攻略法を探しているのですが、良い方法が見つからず。立ち往生しているのが現状です」


「ならばさっさと探せば良いではないか!」


 それが出来たら誰も苦労しない。


 私はその言葉をありったけの精神力を込めて押し込め、代替案を提示する。


「ただでさえ迷路が難解に加え、さらに霧まで出るともはや攻略には多大な時間と労苦が伴います。なのでここはこの道を迂回し、別の方法を探すというのは如何でしょうか」


 何もあれを通らなければならない道理はない。


 他の道もあるのだから、少し遠回りになるがそちらから進行すれば良いと考えるのだが。


「ならぬ! 他の道だと我々5万の大軍が移動できず、お前達に対する監視が薄れてしまう!」


 これの一点張りである。


 どうやら正規軍は私達に手綱をつけておかねば安心できないらしい。


 私は反旗を翻すことなど毛頭ないというのに。


「今の状況を分かっておるのか? 我が方では鎮圧に時間をかけられないんだぞ!」


 そんなことは言われなくとも分かっている。


 先の反乱軍はわずか500という寡兵で10000という大軍を打ち破ったという事実が広まり、各都市に住まう亜人たちが声を上げ始め、蜂起したり持ち場から逃亡が相次いでいるという状況だからだ。


 向こうはこうしている間にも亜人が増え続けている。


 つまりそれだけ国力が減少しているということであり、たとえ勝ったとしても国に大きな禍根を残してしまう。


 何せ亜人達が従事していた仕事は大部分が忌み嫌われる類のものなので、人間はやろうとしない。


 しかし、誰かがやらなければあらゆる場面に影響が出てしまう。


 特に軍隊や農作業などの肉体労働。


 この2つが深刻で、例え今回の反乱に参加した亜人の罪を全員免除すればすぐに取り戻せるのだが、そんな甘い処罰など上が絶対納得するはずがなく、元の国力に回復するまでは最低5年は掛かると試算されていた。


「もしかするとお前らはわざと遅らせているのではあるまいな?」


「いえ、まさかそのつもりでは」


 非常に不本意なことを言われたので私は顔を上げて抗議するのだが、聞き入れられない。


 むしろ傲慢な顔つきで。


「ならばさっさと攻めれば良いではないか。言っておくが我が軍には遊ばせておく余裕がないのだぞ」


 そうやって功を焦った結果、我が軍は先の先鋒を含む兵3000を失ったのだがな。


 私は心の中でそう反論する。


 被害など省みず数に任せてあの石の迷路に突撃していった結果、進むべき方向を見失ってしまった。


 先を進んでいたはずなのに霧を抜ければ何故か軍の後方にいたり、横道にそれた兵が帰ってこなかったりと訳のわからない状況の最中に近くの河から水を引き入れられたので我が軍は混乱の極致へと陥ってしまった。


 あの時はベルフェゴールとか名乗る老人の手引きで救われたものの、兵の内1000が行方不明になり、その後何度も投入した偵察兵も先鋒兵も帰ってこない。


 これでもまだ安いものだ。


 もしベルフェゴールの案内がなければ我が軍は私を含めて全員水死していただろう。


「全く、これだから亜人は信用ならん。それに対して人間は……」


 私のそのような葛藤など知らず、監察官は亜人に対する愚痴へと移る。


 この監察官は筋金入りの選民思想の持ち主で、このような非を口実に私達亜人を呼び、亜人が如何に愚鈍で、如何に人間が優れているのかを語り始める悪癖がある。


 私は監察官の戯言に時々相槌を打ちながら直立不動の姿勢でじっと耐えている。


 本当に、陛下のことさえなければお前など八つ裂きに……


「なんだその反抗的な目は! これだから穢れた血の者は――」


 耐えろ。


 耐えるんだ。


 感情のままに振る舞えば陛下に危害が及ぶ。


 私はどうなっても構わないが、罪が陛下にも及ぶのであれば動いてはならない。


 私はただ陛下のことだけを考えることによってこの場を乗り切った。

マルス陛下は多分次に登場予定です。

……デザイアがエレナ子爵と被って見えてしまうのは、作者の力量不足なのだろうか。


後、半亜人関係は後の話の伏線です。

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