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LUCK -9999  作者: シェイフォン
第2章 リーメンダーク内戦
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5話 悪魔の罠

「ふふふ……亜人共め、我ら人間の恐ろしさを見せてやる」


 わし――バルギ=マートピア=カテナは目前に聳え立つ城壁を見てそうほくそ笑む。


 日頃から鍛錬を欠かさんかったこともあり、わしは30年下の20の小童程度では後れを取らんほど鍛えられておる。


 コルギドールが反乱を起こしたと聞いた時、わしはしめたと思った。


 何せあの街は亜人を多数召抱えていることを除けば、とても良い金づるだったからだ。


 まだ小規模ながらあの街から収められる税金は国内でも有数の高さを誇っているんじゃ。


 聞くところによるとあの街に住む唯一の人間であるタカハラとやらががその資金源らしい。


 わしはその人間に何度も好待遇で迎えるからこっちに来るよう何度も使者を送ったのだが、タカハラは理由を付けてその申し出を断っていた。


 おそらくタカハラはあの犬の亜人を始めとした奴らに監禁されているのだろう。


 いくら奴らがいないところで翻意を促してもタカハラは首を振らない。


 1つの動作で良いんじゃ。


 ここから出たいという申し出に頷いてさえくれれば、わしはすぐに軍隊でも差し向けてタカハラを救いに参ったであろう。


 だが、結局タカハラはその申し出に頷かなかった。


 おそらく『もし出ていけば殺す』と、亜人の恐怖が精神の奥まで刷り込まれてしまい、頷くことが出来ない状況なのだと考える。


 全く、本当に亜人は欲深い。


 良い物を囲い込み、独占しようとするのはまさしく獣そのもの。


 ゆえに、そんな状況を憂いたウェスパニアの実力者がタカハラを救いだそうと計画を立てたのだが、何と奴らは神人である魔族を引っ張り出し、ウェスパニアに住む子供を攫っていきおった。


 これは許せん。


 亜人はどうでも良いとして、未来ある子供達を攫うとは何事か。


 だが、これで敵の正体が分かった。


 タカハラはあの魔族の差し金によってコルギドールに居続けろと深い暗示をかけられているのだ。


 だからこちらの誘いに乗ってくれなかったのだ。


 これが亜人だけならわし直属の兵隊だけで良かったのだが、魔族がいるのなら別。


 魔族の幻術によって士気の低い亜人は使い物にならないだろうから、国の救助が必要だ。


 そのわけで周辺の貴族や国王に直訴したところ、何と総勢1万という兵が集まった。


 女子供を含めたコルギドールの全住民の数でも5000程度であることを鑑みると、もはや勝負にならないだろう。


 が、わしは喜ぶ将校をよそにそっと唇を噛む。


 国王も周辺貴族もこの戦が終われば、兵の貸与を口実にタカハラを差し出せと命令してくるであろう。


 そういうわけにはいかない。


 タカハラは金の卵の様な存在だ。


 例え国王相手でも渡すわけにはいかん。


 なのでわしは近くの側近を呼び寄せる。


「……コルギドールを陥落させると同時にタカハラを秘密裏に救い出せ」


 わしの命令を聞いた側近を見ながら一つ頷く。


 これで大丈夫だ。


 国王には、タカハラは行方不明だと伝えておこう。


 そしてタカハラはわしの屋敷の地下にある場所でその力を存分に振るってもらう予定じゃ。


 そしてその金で……


 わしはタカハラを得た後のことを考えると、枯れた野心が芽生えて力がみなぎるのを感じた。




「カテナ伯爵! コルギドールが見えてまいりました!」


 側近の報告を聞いた私は知らず笑みを浮かべる。


「ようやく敵の本拠地に辿り着けたな」


 ここまでの道のりは予想より辛かった。


 亜人どもは魔族の他にもエルフや巨人族をも擁しているから、一筋縄ではいかんだろうと予想していたのじゃが、正直ここまでとは思わんかった。


 夜営中、魔族に惑わされた兵が錯乱し、同士討ちの他に銅鑼や鉦を打ち鳴らして我らの安眠を妨害してきおるのは予想が付いておった。


 エルフの魔術による霧によって視界不良へ陥り、進行速度が遅くなって夜営の回数が増えたことも許容範囲。


 が、至る箇所に巨人が作り上げた土壁や塹壕が存在し、亜人がそれを楯に抵抗してくるのはさすがのわしも参った。


 夜営時には同士討ちや夜討ち、そして騒音によって悩まされ続けるので疲労は減るどころか溜まり、移動中、霧に乗じて敵が襲いかかってくる危険性から行軍速度が遅くなり、そして士気が上がらないので余計に土壁や塹壕を崩すのに時間がかかり、さらに夜営の回数が増えるという悪循環に悩まされ続けた。


 1つ1つは大したことはないが、3つあわさると絶大な脅威になることをほとほと実感してもうた。


 が、それももう終わり。


 後はあの深い塹壕と土壁、そして城壁を乗り越えればコルギドールへ辿り着く。


 報告によるとあの土壁は水分を含んでいるので崩すのは難しいとのこと。


 なあに、それなら力で押し切れば良かろう。


 こちらは8000ほどにまで減らしてしもうたのだが、ここさえ乗り切れば終わりだということは兵を含めた全員が知っておるのだろう。


 ここまでさんざんやられた恨み辛みもあり、全員瞳に狂気に近い感情を有しておる。


 あの敵が出陣するために掘られた2か所の入り口から突撃すればあっという間にけりが付く。


 例え罠が隠されておろうとも、この圧倒的な数の差ではどうにもならんじゃろう。


 わしは大きな声を張り上げて。


「皆の者! よくぞここまで耐えきった! だが! この苦難も今日で終わる! 憎き亜人の総本山であるコルギドールは目の前じゃ! そして! あの城壁に一番槍を付けたものには向こう10年間遊んで暮らせるだけの褒美を取らせよう!」


 タカハラさえ手に入ればそれぐらい安い物。


 わしは熱狂している兵を前にそんなことを考えたのじゃ。











 ここは両端が切り立った崖なので側面からの攻撃を心配することなく、前方の敵に集中できる。


 ここを突破されれば後はコルギドールまで阻む物は何もない。


 詰まるところ、私が立っているこの場所が最終防衛地点だった。


「予定通り、敵は一目散に後ろのコルギドールを目指しているわね」


「ああ、ショコラ。見ての通り、まるで餓えた獣の様だぜ」


 ソルトの軽口に私は眼前の光景を見ながら頷く。


 前々から建造されていたそれは屋敷を覆う壁とはいかないまでも、高さも堅さも相応のものだった。


 もしかするとベルフェゴールはこの戦闘を想定していたのではないだろうか。


 そんな予測が頭をかすめた。


「そろそろ敵が城壁に張り付いてきたな」


 ソルトの言葉で思索から帰った私は眼前の光景に注目する。


 土壁による迷路と高く聳え立つ城壁があろうとも敵の数は私達の20倍近いので、数の暴力に押され気味である。


 城壁を守っている亜人達が矢を射かけたり石などを落としているけど、正直焼け石に水だろう。


 開始からわずか30分で城壁には無数の掛け梯子が取り付けられてしまった。


「そろそろ良いわね」


 見る限り向こうは少数の護衛のみを残し、残りの全兵力をこっちに差し向けている。


 敵は完全にベルフェゴールの術中に嵌った。


 向こうはご丁寧にも左右にある2つの入口から突入してきている。


 完全に血が上り、そして欲に目がくらんでいる人間には分からないでしょうけど、上から見れば2つの入り口から入った兵隊は中で合流していないのよ。


 出入り口が2つであっても陣は1つだと思うでしょうがその実、陣は2つあるのよ。


 真ん中に堂々と立っている城門を境にして兵は分断させられている。


崖    壁門壁   崖

崖陣陣陣壁 壁陣陣陣崖


 という風に並んでいるわ。


 そして門からはあの後ろの方でふんぞり返っている領主へ繋がる道が出来上がっている。


 まあ、空から見渡せる鳥人がいればこの事態に気付くんでしょうけど、ここまで数の差があるのだから偵察など必要なく、むしろ謀反を起こされたら困るとかで連れてこなかったし。


「火矢、準備!」


 ソルトがそう号令を掛ける。


 あの土壁には水の他に油も染み込ませているのよ。


 もしあんな混雑している中で火を掛ければどうなるのでしょうね。


「行って来るわ」


 私がそうソルトに言うと。


「部隊の皆は銀狼の邪魔をしないよう言い含めてある」


 へえ、変なところで気が効くじゃない。


 表情に出ていたのかソルトはニヤリと笑いながら。


「誰もお前を止める者はいない。思いっきり暴れてこい」


 私の背中にそんなことを言い放ってきた。


人間にとって天敵だと思える存在であるベルフェゴールだけは敵に回したくありませんね。

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