№1 漆黒の魔王
ヒュルルル――。
風の音が彼ら達を呼び覚ました。
夕暮れに二つの大きな影――。
いや、集団と言ったらいいのだろう。
7時のチャイムが鳴り、校庭には集団以外、誰もいなかった。
「おいおいおい、待たせてんじゃねーよ」
片方の、ピアスだらけの顔に金髪の男が言った。目つきは鋭く、イラついていた。
その灰色の制服を着た集団の反対側には、漆黒の制服を着た集団がいた。
肩に金属バットをのせ、クチャクチャとガムを噛んでいる。
「悪ぃーな。この前の借り、返してやるよ」
漆黒の髪・目・制服という姿のリーダー格の男が言った。その姿は、悪魔のようだった。
「ぶっ殺してやるよ。行くぞ、テメェら!」
灰色の集団は一気に押し寄せてきた。
リーダーの男の横に不良とは思えない、眼鏡の男がいた。
「奴ら、結構鈍いね」
「俊、お前は下がってろ。頭脳派は引っ込め」
はいはいと俊と言われる男は、背を向け、引っ込んでいった。
「さて、8分・・・いや5分で片付けるか」
男は、灰色の集団に突っ込んでいった。
* * * *
――5分後。
景色が一変した。
灰色の集団はみな倒れ、男はケガ一つなく立っていた。
「虫ケラめ」
そう吐き捨て、見下した。
西秋高校。
漆黒の魔王として、恐れられている番長・神田朔夜は2年制ながらにして西秋を支配している。
この辺りは、不良が多くて有名な場所として知られている。
「ちょっと、何やってるんですかっ!」
すると、突然少女の高い声が聞こえた。
朔夜は、その少女の方を見た。
少女は、校庭を走り、朔夜のもとまでやって来た。
「はぁ・・はぁ・・。ケンカはいけませんよっ」
息を切らしながらも、注意した。
少女の胸元には、生徒会のバッヂがついていた。
朔夜は、無視して背を向けた。
「ちょっと、聞いてるんですかっ?」
「――うぜぇ」
朔夜は、振り返ると、ガッと少女の胸ぐらを掴んだ。
服がめくり上がったが、少女はキッと睨んだ。
「二度と近寄るな」
「やめてくれるんですか?」
朔夜は、もう片方の腕を振り上げ、殴る体勢をしていた。
しかし、少女は泣きそうな顔をすることなく、ずっと朔夜を見ていた。
朔夜は呆れて、少女を放り投げると、校庭から去って行った。
「待ってっ!」
朔夜は立ち止まった。
「そんなに良い子ちゃんがいいのか?」
「違います。任務です。」
「は?」
「詳しくは言えませんが・・・生徒会副会長としての仕事なんですっ」
「――フッ。バカだな」
そして、また歩き始めた。
「ケンカは外でやってくださいっっ!!」
背後から、少女の叫ぶ声が聞こえた。
* * * *
翌日。
朔夜は、俊と屋上でサボッていた。
朔夜は爆睡、俊はお菓子を食べながらパソコンをしていた。
すると、突然屋上のドアが勢いよく開いた。
その音で朔夜は、目を覚ました。
現れたのは、昨日の例の少女。
少女はフェンスに頭を何度もぶつけ始めた。
「おいおい、あの子ヤバイよ」
俊が鼻で笑った。
すると、少女はフェンスを登り始めた。
「わ、自殺。」
俊が目を丸めた。
朔夜は、まさかと思い、起き上がると少女の所へ行き、腕を引っ張った。
「きゃっ」
少女はバランスを崩し、朔夜にぶつかり、朔夜は尻餅をついた。
「――て。お前――」
「あなたはっ」
少女は、急いで朔夜から離れた。
「自殺か」
「はい?何言ってるんですか。フェンスに頭をぶつけた時、バッヂを落としたから取りに――」
朔夜は、呆れてため息を吐いた。
「でも、何で頭?」
「聞いてくださいっ。新中央高校の不良達が西秋の生徒をケガさせたんです。何か、悔しくて――」
「お前、真面目だな」
「いえ、私のバカ兄弟も不良なので、仲間がケガさせられたりしたら腹が立つんです。」
「そうか。じゃぁ、新中央潰すか」
「え?」
朔夜は平然とした顔で言った。
「俺もアイツら嫌いだしな。ここは一つ、いくつか同盟組んで潰すか。お前、バカ兄弟に頼んでくれ」 「お前じゃありません。桃野美桜です。」
少女・美桜はニッコリと笑った。
「やれやれ」
ずっと、横で聞いていた俊はため息を吐いた。