死に戻りなんて聞いてない
「え、どゆこと?」
さっきまで、自らを《ツクヨミ》と名乗る神様に、《契約の部屋》とか言う真っ白な空間で、色々説明を受けていたってのに。
目覚めたのは、“見覚えのある病院のベット”の上だった。
これ、子供の時に入院してた病院だよな・・・?
「あ、ミズキちゃん目が覚めたのね。先生呼んでくるからね。ちょっと待っててね」
ミズキちゃん・・・あの看護師は鈴木さんだ。ちょっとおっちょこちょいなとこがあるけど、いつも屈託のない笑顔で接してくれて、他の子供達からも人気だった。
親が病室に来ない8歳児の私に、とてもとても良くしてくれた優しい看護師さん・・・。
小児病棟ってやつは、部外者は基本的に患者の親以外の入室ができない閉ざされた空間だ。
色々な面倒ごと、いや、トラブルや危険を避けるためなのだろうが、ウチのような家庭の子供は、誰も訪れる人が無く、寂しい思いをする事になるだろう。
35年の人生を終えた中田瑞樹は、今際の際に吸い込んだ空気を吐き出すように、今度は大きくため息をついた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今際の際にいる中田瑞樹(35)は、“見覚えの無い病院のベット”の上で、短く浅い呼吸を繰り返していた。
親元から離れて18年。必死に働いて働いて、入退院をくり返すうちにとうとう体を壊し、緊急搬送された病院で、ベットから身を起こすこともできなくなっていた。
3日もすると、意識がまだらになりいよいよとなっても、誰も瑞樹の元に訪れることはなかった。
下された診断結果は、過労による多臓器不全と、栄養失調による衰弱。
確かに、ICUに入るの前の食事がいつだったか何だったか思い出せないまま、最後は文字通り、ひとつ大きく息を吸い込んで、息を引き取った。
頬を伝う最後の一筋ですら何の意味もない生理的な涙に過ぎず、何の面白みも意義も見出せない、くだらない人生だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《然るに瑞樹の魂の器は、神々の諍いに巻き込まれ、疲弊し続けた結果、とうとう耐えきれなくなってその人生を閉じるに至った。責任の一旦は我々にある。どうか挽回の機会を与えてはくれまいか?》
瑞樹は、上下左右見渡す限り真っ白な部屋で、浮いているのか、立っているのか、座っているのか、寝そべっているのか、自分がどうゆう状態なのか、全くわからないまま、和風で豪奢な衣装を身に纏った、神気を放つ美しい人に頭を下げられていた。
ここは一体どこなのかしら?
《ここは契約の部屋。神と魂が約束を結ぶ空間だ》
どちら様かしら? やっぱり神様?
《我が名はツクヨミ。瑞樹の魂を修復する為こたび相見えることとなった》
聞いた事ある。超有名な神様じゃないですか。
何をされたのかいまいちよくわからないけど、これは、あれじゃないかしら?
《ついては、その生をやり直し、より良い人生を生きて欲しい。そのために必要な能力を3つ授けよう》
異世界転生キターーーーーー!!
【全言語翻訳】【亜空間収納】【錬金錬成術】の異世界転生セット・Bでお願いします!
私に戦闘や荒事は無理です。生まれ変わるのなら生産系の魔法使いになりたいです!
どんな世界でも、食うに困らない生活ができる、手に職系の能力をお願いします!
《【全言語翻訳】、そんな少々努力すれば習得できるような能力で良いのか? 神の与えるチートぞ? 自力では到底手にはいら無いような能力の方が“お得”では無いか?》
え、そうですか? そうゆうもん? 安易すぎたかしら?
でも、どんな言語の本も自由に読むことができるって素敵じゃないですか?
《それに【亜空間収納】に【錬金術】・・・申し訳ないが、現代日本にはそのような術は存在せぬ。もっと現実的な望みを頼む》
え、日本? 私、また日本に転生するんですか?
《当然だ。我は日本の神なのだから》
あ、あ〜・・・そうゆう事。そうですか、日本ですか。剣と魔法の異世界転生では無いのですね。それは、ちょっと残念無念。いや、かなり、ガッカリ、しました。
《なんと! 期待させてしまったようで申し訳ない・・・》
あ、いえ、こっちの勝手な勘違いです! 神様が謝るような事じゃありません!
そっか、それじゃあ、えっと、チート、神様のチート・・・
そうだ! 【翻訳】の代わりに、頭良くしてください。勉強した事を絶対忘れないような。テストや試験で良い点取れるような。それなら言語の問題もクリアできるかも。
《ヨシヨシ。丁度良い眷属がいるぞ! では一つ目の能力は【兼知未然】答えのある問題なら未然に正解がわかる能力を授けよう!》
やった! ありがとうございます! では次は、次は健康。病気しない身体にしてください。
《それも可能だ。【薬事禁厭】あらゆる菌ウイルスに耐性があり無病息災。健全頑丈で丈夫な身体と、怪我の治りも早い血肉を授けよう。どうだ?》
ありがとうございます!
《さあ、最後の望みを述べよ》
ではその【薬事禁厭】を、新しい家族にもお願いできますか?
今度生まれ変わる人生では、普通の家族と普通に幸せになりたいのです。
《・・・スマヌ。我が契約できるのは、この部屋に在る魂だけと決まっている。神とて浮世の人間に干渉できぬ不自由な理の中にいるのだ》
そうなのですか・・・う〜んじゃあどうしようかな。
大好きな読書が思う存分できて、病気で苦しむことなく健康で日々を過ごせるなんて夢のよう。
もう十分な気がするな。
《誰も害する事のない願いの上に、他者の健康まで願うとは。何と欲の無い事よ》
そんな事ないですよ。随分なズルです。
この二つだけで、十分幸せに生きていけますよ。
《だがな、瑞樹がコチラの条件を満たせぬとなれば、日本にはしばらく神が存在しない期間ができてしまうのだ》
え? どうしてそうなるのですか?
《直接魂を癒し無事に輪廻の輪に還すのに我もこの場に留まるとなると、少なく見積もっても今生の生存期間を要するであろう。さするに今ある日本はこれから35年は、ひと柱欠けた状態で日々を過ごす事になる。それはあまりに過酷であろう。そのまま問題を無かった事にするには、やはり、無理を承知で伏して頼む。どうか世のため人のためにも、コチラの要求を受け入れてはくれまいか?》
そんなとんでもない! 神様に頭を下げられるようなことではありません! 良いんです。嬉しいです。ありがとうございます。すべて神様の良いようになさって下さい。よろしくお願いします!
《それはありがたい。それらの望みでは、ここで一番恩を返したい眷属の能力が発揮できぬままだったのだ》
恩を? 返す? 私に? 私、コチラのどなたかに知り合いがおりましたでしょうか?
《そうだとも。此奴が瑞樹の魂を拾い上げたおかげで、我々神の無体に気づく事ができたのだ。此奴にも随分な無茶をさせてしまった。どうか、此奴の為にも此奴の能力を受け取ってはくれまいか?》
ツクヨミが手をかざした先に、額に小さな角をつけた小鬼が現れた。
小鬼は嬉しそうに駆け寄ると、モジリと身体を捻って上目遣いに瑞樹を見た。
フフ。可愛い。
とんと覚えはありませんが、いただけるのでしたらなんでも。ありがたく頂戴いたします。
《良かった。最後の能力は【富籤冥加】自ら購入した宝くじは、必ずそのくじの最高当選金額が当たるほどの幸運を授ける》
え、な、なんて? 何の能力?
《それでは瑞樹、無事条件は整え契約は成された。いつ幾年も健やかに。より良い人生を生きよ。さらばだ》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神の別れの言葉を合図に、ミズキの身体が ポワッ と発光すると、次に目を開いたときには、記憶にある病院のベットの上だったというわけだ。
そして冒頭に戻る。
全てを察したミズキは絶叫した。
「死に戻りなんて聞いてないんですけど!?」




