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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第十二話  「準備」(4)

 



「これで、大体決まったんだね」

「それじゃあ三人ともよろしく!」

「アメリア、貴方もやるのよ。私達に丸投げなんてさせないわ」


 何はともあれ、話は収まった。総括の俺とガーウェンディッシュをアークが補佐し、企画の進行具合を主催の姫殿下が都度確認し、時には提案を行う。既に場所は確定しているため、あとは事前準備ぐらいだ。


 午後の紅茶の差配やダンスと音楽の手配は姫殿下とガーウェンディッシュが担当し、俺とアークはボードゲームの選定の他、場所の区画と警備の連携、該当箇所の防護魔法の停止、動線とエスコート計画などを進める。ところどころ姫殿下やヴァルキュロスに相談する必要があるな。


 招待客のリストの管理などは手間ではないが、緊急時の対応プロトコルが肝心だ。これについてはどれだけ対策を練ったところで姫殿下の抑止になり得るとは言い難い。被害を抑えることを軸に考えた方がいいだろう。


 不本意ではあるが、銀髪女とはこれから顔を合わせる日が多くなりそうだ。

 まあ、アークと事に当たれるわけだからな、十分に楽しめそうだ。


「準備だけなら三日もあれば十分だな」

「参加者の中だと、グレインは誰と会ったことない?」

「南方からの留学生二人とだな。あとの面子は、少しぐらいなら話はしたことがある」

「顔見知りぐらいか……グレイン、時間があるなら僕たち男子組だけでも先に顔合わせしておく? 僕は皆とそれなりに話したことはあるから」

「あ、それいいじゃーん! そうだよ! 先にやっておこう!」


 口を挟んできた姫殿下は、閃いたとばかりに立ち上がった。


「女子会と男子会をしよう! 全員でいきなり会うより、男子と女子だけでも先に仲良くなった方が良いと思う」


 珍しく、姫殿下の言い分に頷けた。突然集められるよりは、同性だけでも見知っておくべきだろう。これも事前準備の一環になりそうだ。


「そう、それじゃあメンバーは決まってるわね。私とエルミナさん、リファーナさん、それとイヴェリアさんで」

「え、わたしは? ノーラとリュソーもいないよ?」

「貴方たちが集まるとろくなことにならないもの。親睦会当日だけでいいわ」

「えーー、みんなでやろーよー」


 お菓子をねだる子供のように、姫殿下はガーウェンディッシュの袖を引っ張り揺らしだした。


 それを横目に、俺は男子会について思索していた。


 不穏因子が一名と不詳の者が一名。こちらについては特に問題は無いはずだ。女子に較べれば問題を起こしそうな奴は少ない。アークの話では、ジャミールとかいう奴も好青年だとは聞いているからな。


「わかったわ。それなら、こうしましょう。女子は二回に分けて集まるの。一度目は私とアメリア、エルミナさんにリファーナさん、そしてイヴェリアさん。二度目はポンコツとリュソーさんで」

「それただ分けただけじゃん。みんなで集まろうよ、み・ん・な!」

「ちょ、こら。袖を引っ張らないで! こんのアホ、リア! やめなさい!」


 じゃれあう二人を見やり、微笑を浮かべて止めに入ろうとするアーク。それに追従するヴァルキュロス。それらを背景に俺は一点を見つめ、親睦会とは別の事柄に思考を移す。





 目覚めてから一年と少々。未来の惨禍に直面しないよう打ち立てた生存計画は、順調だ。

 慢心せず、怠らず。着実に生き延びる道を整備している。


 国外への避難、国内での潜伏、第二次革命への対策。三本の柱の中で、避難と潜伏の目途は立ってきた。


 オルテン家の人脈を生かして東西南北の国々へ根を伸ばしたことで、避難先の候補は二十に及ぶ。それに加え国内では身を隠せる場所を十五近く選定しており、それぞれ準備に着手している。

 進捗で見れば、一つ目及び二つ目は五割に達している。順調どころか想定以上に早い。


 他二つに比べれば鈍足のように映る三つ目だが、こちらも丁寧に進めている。

 市民革命であった第二次は、大多数が低所得者や労働者階級によって構成されていた。王都の人口は三百万人、そのうちの九割近くが暴動を起こしたことで、都は凄惨な様相に変わり果てた。


 三つ目とは、つまり市民どもに良い顔を見せ続けることだ。友好的な姿勢で手を指し伸べ、愛想笑いを浮かべて接する。一周目の処刑台に立たされた身としては甚だ腹立たしいが、生命と矜持を天秤にかければ、後者など投げ捨てるぐらいでなければならない。禍根を噛み砕き、口端から血を流そうとやるしかない。


 試験的な運用と称して東から取り寄せたゴミ処理魔道具の設置し、工業区画である北の市民街の環境を少しずつ改善する。労働者階級や低所得者層を対象とした低価格帯の食料品の販売や衛生用品の無償提供など、目に見える形での支援を数週間前から始めた。


 始めの数日は訝しまれていたが、効果が現れると市民どもは掌を返し出した。王都の北側では、まだまだ少ないがオルテンの名は良い方向に広まりだしている。


 ゆくゆくは水路の清掃や修繕に目を向けたいが、まずは一つ一つを確実な成果を上げていく。

 焦燥に駆られる段階ではない、下手に急いて計画の枝葉を疎かにするな。


 それに、王都の地下水路は香油事件を通して悪臭が立ち消え、既に大幅な改善がされている。

 突発的かつ偶発的な姫殿下の功績であり、俺はそこに乗っかるようにすればいい。


 このような施策を、大半の貴族は行わない。下に見ている人間を労働力として酷使することはあっても、市民の腹まで心配するのは数えるほどしかいない。それこそ、俺の眼前に居る同級生ぐらいだ。


 俺には、ところどころ穴があるとはいえ四年後までの記憶情報がある。

 それを活用して、オルテン家の地位を向上させた。地価が暴落する前に目立つ不動産や不要な宝飾品は静かに売却し、今後注目される魔石や価値を見出される土地を購入した。当然、流動性の高い外国通貨や持ち運びが容易な小型で高価な資産は着々と積み上げている。


 王都の排水魔導管の再建契約が、最近手にした中で大きなものだ。北側の区画では、長年の摩耗で管の破損が著しい。旧体制の貴族たちは『汚い仕事』だと鼻で笑い、その修繕契約を誰も欲しがらなかった。だが、奴らは気づかなかった。王都が存続する限り、水は流れ続け、汚水も湧き出る。


 俺は低利で多額の資金を融資し、その対価として魔導管使用量の一部徴収権を八十年間で契約した。修繕が完了すれば初期投資はあっという間に回収し、後は毎月王都の行政機構が安定した収益を保証してくれる。目につきやすい株券や鉱山とは異なる。戦争が起き、天候があれようとも人は水を使い、汚水を流す。この収入は、オルテン家が途絶えるまで続く、最も確実な流水資産だ。この点において、香油事件の発端である姫殿下には心の底から称賛したい。


 他にも様々な資産の形成に加え、社会的インフラにまで投資を欠かさない。

 現在のオルテン家は、そこらの貴族以上に資産を有しており、しかし目立ち過ぎない立ち位置にある。王立魔導大学に入学するまでの一年において、貴族社会での地位は確立した。

 次は革命側である市民とのつながりだ。


『貴族の反感を買わず、市民層にも好印象』。これが三本目の目指すところであり、重要だ。

 国内外に潜伏は可能だとしても、そもそも市民に受け入れられるような立場にあれば、俺が処刑台に立たされる理由はない。


 一周目の歴史をなぞるように、ガーウェンディッシュやエステルハージが処刑されるのを眺めていればいい。まあ、今の銀髪令嬢はその可能性が限りなく薄いが。そうなるとあのポンコツ令嬢ぐらいか、泣きわめくことになるのは。


「ねえーえー、ねえーーーえーー」

「わかった、わかったから! 抱きついて頭をこすりつけないで!」


 権力闘争の果てに対立派閥を打ち倒していったガーウェンディッシュ家は、国内の南部地帯を管理統括するようになった。正統後継者である令嬢は、都の南側の市民街に力を入れて市民の暮らしを支え、信頼を獲得している。メディアまで味方につけるようになり、名実ともに国の代表貴族だ。認めたくはないがな。その婚約者たるアークにしても、ハルデン家を通して東側へ市街地の活性化に一役買っている。


 そして、姫殿下は全ての街に足を向けられている。やたらと騒動を引き起こし、混乱に暇のない方ではあるが、その実市民からは良い評判ばかり耳にする。


 王都マスポールは日ごとに変化し、確実に破滅の足音から遠ざかっている。


「女子会は、大変そうだね」

「俺たちは気楽にやろう」


 アークに小さな頷きを返しながら、改めて思う。


 ガーウェンディッシュは、俺と同じ境遇なのではないか?


 同様の現象に見舞われ二度目の人生を歩んでいるのならば、一周目では考えられもしなかった行動原理にも説明がつく。むしろ、説得力しかない。


 無念や後悔から改心し、二の轍を踏まない。一周目の記憶を活用し未来を予知したような立ち回りで、かつて自身に害を為した敵対者を打倒していった。それでいて市民からの名声を集め、第二次革命の要因を排除する。

 ガーウェンディッシュの躍進は、一度目の記憶を活用したことによる成果だ。処刑を経験したとなれば、先ほどの姫殿下の言葉に対する反応にも頷ける。


 姫殿下と親しげに接する点からして、以前から不審に思っていた。あれほどまでに対立していたはずの人物に、擦り寄るような奴ではなかった。恐らくは、一度目の牢獄で聞き及んだのだろう、『アメリア第一王女殿下は処刑されない』と。俺もそのことは覚えていた。だからこそ、姫殿下を計画の一部、枝葉の一端として俺も組み込んでいるのだから。


 仮に、ここが一周目とは別の世界、例えば鏡で映し出されたような世界であるならば、これらの疑問は掻き消える。ガーウェンディッシュは真っ当に生きてきた貴族の令嬢、アークも肉体を鍛えることに目覚めただけの好青年、姫殿下は変わらずに問題児であり、ヴァルキュロスは沈黙を貫く侍女。


 だが、その可能性は低いだろう。

 ガーウェンディッシュの実績はこの一年と少しで急激に伸ばされた。アークの研鑽に磨きがかかるようになったのは同時期だ。

 こうして考えれば、何故今までその可能性に蓋をしていたのか。俺にしてはあまりに鈍かったな。まあ、わずかなりの疑問は残ってはいたためでもあるが。


「グレインはいつなら集まれそう? 三日後?」

「五日後はどうだ」

「そうしよっか。僕から他の三人に伝えておくよ」

「ヴェルディックは招かなくてもいいがな」

「そんなこと言わないでさ、仲良くなってみようよ」

「あっちがその気ならな」


 アークは、どうなんだ。一度目の記憶を持っているのか。


 記憶がなくとも説明はつく。ガーウェンディッシュに未来の事を相談され、それを鵜呑みにして協力している。アークなら令嬢に猫なで声で頼られれば簡単に首を縦に振るだろうしな。


 記憶があるなら、かえって問い正したい。クソ女との婚約を解消しないのか、とな。


 社交界から追放、家から勘当を言い渡された女の事を聞いた一周目の当時、俺は大いに喜んだ。一途に慕う婚約者がいながら他家の男に靡き、平然と悪行を重ねていた女など、さっさと見限れと何度も親友には忠告していた。しかし、お人好しの青年はそれでも信じていた。


 革命までの顛末しか知らないが、アークはどうなったのだろうか。生き延びたのか、それとも捕まったのか。国外脱出の話を持ち掛けたが頑なに拒否され、幾度も裏切られたはずの女を探すと言い残し別れた。その後の消息を掴む前に計画は頓挫し、俺は刃の露となった。


 どちらにせよこいつに対する信は変わらないが、思い切って尋ねてみてもいいか。


「グレイン、どうかした?」

「ん、ああいや。何でもない」


 同級生たちが和気藹々とする様を眺める。そこでふいに思いつく。



 そもそもとして、第二次革命は起こるのだろうか。


 姫殿下、ガーウェンディッシュ、アーク、そして俺。各々が市民との接触を図り、人々の環境を向上させている。もはや一周目とは別の道を歩んでおり、国民が蜂起する理由はあるのか。


 他貴族に対する不平不満はあるだろうが、表立って自分達の生活は良くなっている。革命や変革を求める動機が薄れているだろう。言うなれば改革を切望するぐらいで、武力行使に出る意味もない。


 まあ、惨事を回避できるのであれば願ってもないことだ。このまま平穏に未来を生きていけるのであれば。



 何にせよ、俺のやることは決まっている。


 革命が起きようと、王家が栄えようと。どう転ぼうと揺るがない計画を、更に昇華させる。


 準備は怠らないようにしないとな。





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