表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/88

第九話  「ノーラの日常」(5)

 


 そうだ、もうあれから一か月なんだ。



「アメリア君が魔導工学科から持ち出した装置のことだろうか」

「良かったです。通じたそうで」


 ニッコリと笑んだ女に、私も思い当たることがあった。

 今日から一カ月前。殿下は、ガーウェンディッシュとエルミナさんを連れて、今回と同じくあの噴水と池の近くで、魔法記号の紋様が刻まれた石材のような機械を起動させた。


 私にとって、忘れもしない事件だ。

 規模は段違いとはいえ、あれもまた、突風が逆巻いて水の塊が生まれていた。

 私はそれによって吹き飛ばされ、池に叩きつけられた。被害はあったけれど、あれがきっかけなって、なけなしの勇気を奮い殿下と友達になれた。


「魔導科学の産物であろうと、魔力と魔法式は必須。姫殿下は今回と同様の魔法を扱った、と?」


 あの場にはいなかったオルテンさんが推測交じりに尋ねると、ガーウェンディッシュは目だけで肯定した。

 そういうことだったんだ。だから殿下は隣からちょっと見ただけですらすら言えたんだ。以前に経験があったために。


 ナークさんたちはあの日のことを誰も知らない、だからか沈黙してしまった。


「しかし、今回は結果が異なるように思えるが」

「あの時発生したものは、第一王女殿下の放った装置を中心にしてこそ起こり得た。言うなれば、魔力の凝縮や循環を支える器がありました。しかし、今回は無かった」

「容器の無いエネルギーは、行き場を失い、暴発という形で消失した」

「アメリア王女殿下の魔力は、他者とは一線を画します。ただ詠唱しただけでも、その身に秘められたエネルギーの顕現は私達の想像を優に超えます。ドリル・ホールでの一件にて一端を垣間見た先生であれば、この理屈にも頷いてもらえるかと」


 つまりは、殿下が発動したから魔法式に書かれてある通りの結果にはならず、別の現象が起こったということ。


 何事も規格外の殿下らしいけれど、それって恐ろしい事なんじゃ。発生する騒動がどれも大きなものになっているのか分かった気がするわ。


 恐らく、ナークさんたちは自分達の想定を上回る事態へ発展してしまったことに気づき、だからこそ必死になって掛けられた疑いを振り払おうとしていた。元の作戦通り容疑者として最有力になる私に押し付けたうえで、無関係を装って逃げ切ろうと考えた。


「僅かなりの疑問は残るが、大筋に問題はない。十分に頷ける仮説だ」

「待ってください。ドリル・ホールの事件については私も存じております。ですが、それが今回と何の関係が」

「あら、ごめんなさい。ここまでは魔法の誤発動についての説明だったの。これから争点について述べていくわ」


 既に、この場は銀髪女によって支配されていた。

 嫌味たらしく口元を歪めるガーウェンディッシュは、こういうときは頼りになる。


「今回使用された魔法は想定通りに行使されませんでしたが、そもそもとして、これをエステルハージさんが知っていたかどうか。この点がはっきりすれば彼女の容疑は晴れるかと思います」

「無意味です。知らない、とさえ言ってしまえば彼女は無罪になるわけですか? 論理展開が滅茶苦茶です。そんなの、知らない振りをしていればいいだけではないですか」

「少し落ち着いてくださる? 『知らないとさえ言ってしまえば~』なんて、私は言っていないわよ?」

「語弊がありました。私が言いたいのは、」

「わかっているわ。だからそこも含めて説明するから、お行儀良く耳を傾けてはくれないかしら」


 ひえー、バチバチにやり合ってるわ。でも、やっぱりガーウェンディッシュの方が堂々としてるわ。何というか、格みたいなのが全然違う感じがする。


「ただし、エステルハージさんが本当に知らなかったとしたら、容疑は決定的になるわよ。あなた達は、わざわざアリバイ工作なんてしでかしたのだから」


 模範的貴族の言葉に、ナークさんはそれでも食って掛かろうとして、自分達の無罪を主張していた。



 なんだか難しい話になってきたわ。とりあえず、テキトーに頷いて進展を見守っていよう。

 ガーウェンディッシュの口調には、耳がムズムズする。いつも『貴方』だの『お馬鹿さん』だの『ポンコツ』と呼ぶ女が、こういう時はだけはファミリネームで呼ぶのね。

 外面は良くするんだから。ちょっと嬉しかったけど。



「ナークさん。聞いてもいいかしら? 仮に、この魔法を正しく発動できたとして。これは第三から第一のどこに分類されるかしら?」

「……魔法式からして、これなら第二階梯魔法と呼べるでしょう」

「たとえ苦手であったとしても、上流階級の者なら少々の努力を重ねれば使えるようになると思うわ。貴方たち三人、誰でもね」

「それは言いがかりではないですか? この大学に在籍している人なら誰だってできるはずです。それこそ、エステルハージさんにだって」


 水魔法は、水を用いた操作性から制御に重点の置かれたもの。その難易度は、第二階梯の中でもやや下位寄りと判断される。


「魔法式はどうやら転写魔法で描かれているわ。便利よね、これ。自分の筆跡を隠せるもの」

「だから私と? それだって第二の中では容易な部類です。エステルハージさんが魔法式を忘れないように写した。何も不自然なことではないと思います」

「そうね。その可能性もあるわ」

「それなら、私だって断定はできません」

「貴方でなくとも、貴方の友人である三人の中で、誰かが出来るかもしれないわね」

「何故私達に限定するんですか。エステルハージさんがいるでしょう」


 転写は、文字の一つ一つを別の紙などに写し取る魔法。手で書き取るよりも早く、それでいて間違いのない文章を形成できる。


 狼の縄張り争いのように、ナークさんは銀毛の眩しい令嬢へ噛みつく。反論ができなくなれば、罪を認めるしかなくなる。その焦りに急き立てられるように、諦めない様子だった。


 そして、満足そうに頷いたガーウェンディッシュは、


「できないわよ、その子。第二がまるっきり使えないから」

「え?」


 一瞬、空気が止まった。

 それまで、投げかけられた言葉は何だろうと言い返す姿勢を崩さなかったナークさんは、わかりやすく目を丸くした。


 その様子を楽しむように、大袈裟に足音を鳴らして近づいてきたガーウェンディッシュは、私の隣に立って肩に手を置いてきた。


「ほんの一時間前まで、私、この子に教えてあげていたの。第三階梯の魔法式を」

「それは、いくらなんでも嘘ですよ。その人を庇うための詭弁ですね。第三階梯なんて、初等部の、少なくとも中等教育を受けた人なら誰だってできます」


 からかうような令嬢の眼差しに、ナークさんは鼻で笑った。

 それでさえ柔らかく受け止めた銀髪女は、ふいに私を見た。


「ねえ、エステルハージさん。第三階梯の水魔法に必要な三つの要素って何?」

「え? ええとね、第一起点を始めに、集束の定理を用いて、螺旋駆動の法則に乗せる……で合ってるわよね?」

「正解よ、自信を持ちなさい」


 急に何よ。これぐらいなら私だってわかる、そこまで馬鹿にされたくはないわ。


「集束の定理で集めた水は、螺旋駆動の法則にどのように乗せればいいかしら?」

「水量を決めたあとは、詠唱に合わせた速度で魔力を流す。そうすれば水が出るわ」


 自信満々に、答えた。ただし、周囲の反応は想像とは違った。


「嘘でしょう……」

「あの人、ふざけてないわよね……」

「本気で言っているわ……」


 ナークさんたちが、まるで見たことのない生き物を見たような目つきで私に視線を注いだ。


 え? 何で、何でそんな顔になるの?


「はぁ。ほんの一時間前に教えたことが、何でもう忘れているのよ」

「え!? 何か間違った!?」


 私の回答に、ガーウェンディッシュまで呆れていた。


「集束の定理までは合っているわ。ただ、駆動について『詠唱に合わせて魔力を流す』必要はないの。他の魔法では適切な部分もあるけれど。仮に、貴方の言った通りに行えば、回転の間隔や速度が定まらず、魔力がスムーズに水へと変換されない。空中で滞留したり、乱れた蒸気が発生するだけで、それはすぐに無くなるわ」

「だから私、いつも水にならないんだ」

「魔力を安定して変換するための精密な道筋。それを頭と感覚どちらでも掴めていないのよ」


 ほえー、なるほどぉ。わかったような、わからないような。

 とりあえず、私の認識だと満足に魔法が使えないってことね。


「ね? こんな具合よ。頭に設計図を組み立てられない理由から、転写魔法も当然不可能」

「…………今、この時だけは出来ない振りをして、」

「あるかもしれないわね。こんな得意気に間違えるなら、だけど」

「スイット家のご令嬢。残念ながらその可能性は低い。エステルハージ君は魔法式をよく間違える。私も常々不思議に思っていたが、ようやく理解した……生徒にこのような言い方はしたくないが、基礎が未熟だ。土台がぐらついている」


 それでも食い下がろうとしたナークさんに、模範令嬢は即応した。そして、同調するように教師が補足した。


「ありがとうございます、先生。これで私の言いたいことが、ナークさんたちにわかってもらえるでしょう」


 ついに、ナークさんは口を噤んだ。身体が揺れ、足元が揺れ。指先が震え出した。

 それを見やって、ガーウェンディッシュは締めくくるように告げた。


「ノーラ=エステルハージに、それらの魔法は無理よ。そもそも思いつくはずがない」


 そう。エルミナさんが私を犯人じゃないと理解してくれた要因が、そこにある。


『貴方がこのような魔法式を、扱えるわけがない』。


 馬鹿にされるようで悔しいけど、その通り。第二階梯を基準とした技術は、基礎すらおぼつかない私には不可能だ。


 言ってしまえば、一般市民と同程度の魔法理解度。そんな人間が、紙に書かれた魔法を読み解けるはずもない。それを扱うことなどもってのほか。四則演算のできない者が、因数分解なんてできないように。


「魔法式の記された紙切れは、この子のものではないわ。転写魔法なんて、この子にできるはずがないもの」

「嘘よ、そんなの……第三をまともに使えない令嬢なんているの?」

「この歳でできない人なんて……」

「どうやって大学に入れたのかしら……」

「ねえ、恥を晒されてる気がするんだけど!?」


 声を張り上げた私を無視して、銀髪の演者は優美な指先で前髪を軽く払い、犯人を見据えた。


「ナークさん。貴方は見誤ったのよ。この子の知性を、把握していなかった」

「貴方本当に私の味方なの!? フォローしてくれてるんだよね!?」


 締めくくるようにして告げたガーウェンディッシュに、膝から崩れ落ちて床に突っ伏したナークさんは、ようやく敗北を認めた。

 私は、助けてくれたはずの女に詰め寄るようにしていた。






 ひとまず、私の容疑は無事に解消された。


「はー。これで私は、晴れて無罪というわけね」

「貴方、こんな解決でも前向きなのね」


 ガーウェンディッシュが何故か慄いてたけど、犯人にさせられそうだったのよ、私。

 まあ、二人と教師のおかげなんだけど。


「ありがとう、二人とも。証言してくれて」

「お気になさらず。この程度のこと、姫殿下が起こす騒動に較べれば些事ですので」

「これぐらい構わないわ……さっきは言いすぎたわ。ごめんなさい」

「いいよ、助けてくれたんだから」


 誇るわけでもない二人に、私は薄く微笑んだ。

 ガーウェンディッシュって、そういうところあるのよね。別にいいけど、こうやってちゃんと謝ってくれるから。

 殿下ってすごいわよね。この二人を振り回せるのだから。



 それはそうと。ひとつ、私もケジメをつけておかないといけないわ。


「グレイン・オルテン様。あの日の無礼につきまして、改めて謝罪いたします」


 教師に連れられてナークさんたちが退出するのを横目で流し見て、同級生の青年に、私は向き直った。


「誠に、申し訳ございませんでした」


 片膝をつくように膝を曲げ、胸下へ右手を添える。瞼を閉じて、前髪を垂らす。

 貴族社会における、誠心誠意を込めた謝罪の証。


 過去を引きずるような溝は、残してはならない。動機は分からないにしても、彼は自分を擁護してくれた。不利を厭わずに助けてくれた人物に、これ以上の非礼はあってはならない。


 数秒程の沈黙の後に、オルテンさんは口を開いた。


「謝意を認めます。これ以上の言及は不要です」

「寛大な処置に、感謝を申し上げます…………そういえば。いつから共謀してたの?」


 打って変わって口調を戻し、ガーウェンディッシュへ視線を寄せる。

 私の疑問に、二人は顔を見合わせた。


「結構前から。今朝もそのために早く来たのよ。令息様は、随分とあの令嬢にご執心だから」

「…………個人的かつ家の問題だ。スイット家には、オルテン家に害意を振り撒かれたことがあるからな」


 あ、だから私とあんなところで会ったんだ。この女、結構多忙なのね。教師陣からも頼み事されただし。


「でも、何で貴女まで? 何か嫌がらせでもされたの?」

「あの狸女、アークにしつこく唾をつけようとしていたのよ」


 私を知っていながらね、と辟易するように息を吐いた銀髪女は、以前からナークさんを煩わしく感じていた。単純な理由だけど、だからこそオルテンさんの提案に乗った。


 二人は秘密裏に手を組み、あれこれと画策していた。前々からナークさんやスイット家の情報を収集していたそうで、排除を目的に機会を窺っていたらしい。


「私が連れてきた四人目が言っていたわ。あの女達は、随分前からアメリアに近づこうとしていたと。威光や影響力とかではなく、仕返しのためにね」

「何で? 殿下に何かされたの?」

「アメリアの被害に遭わなかった学生が、この敷地にいるかしら?」

「あー、そういうこと」


 ぶらつく災害に再三にわたって巻き込まれ、矜持を傷つけられたとして我慢ならなかった。しかし、殿下は神出鬼没で狙いをつけられない。執念深く追い続けるのは多大な労力を要する。

 そこで彼女たちは、私に目をつけた。


「エステルハージ嬢の接触は、想定外だった」


 掴んだ情報が積み重なっていたそこへ、ターゲットと顔見知りの会話を目撃した。

 もしや何かあるのでは、と考え道でのすれ違いざまに私へ内容を聞いてきた。 


「姫殿下に一泡吹かせるつもりで考えた水魔法は、あの教師が挙げていた事例をどこかで見聞きし、着想を得たのだろう」


 私もろとも殿下を水浸しにするつもりだったのか、他に目的があったのか。もしかすると、どこか近くの建物や木々の陰から観察でもしていたのかもしれない。

 しかし、魔法は予想外の形で発生してしまい、教師まで駆けつけるほど事が大きくなってしまった。


 証拠はなく、アリバイ工作もして、抜かりはない。そう確信して白を切り、私に罪をなすりつけようとした。


 という推測を立てた二人は行動に移した。オルテンさんが私の擁護に回り、その間にガーウェンディッシュはナークさんたちを責め立てる材料を集めようとしていた。


 空き教室の扉付近で聞き耳を立てていた彼女は、スイット家次女の自信の源が、あの場にはいなかった生徒だとわかった。部屋から出てきた教師に接触し、私が容疑から外れる要素を手早く説明し、ひとつ提案した。構内放送でやってくる生徒を、数分だけ二人きりにさせて欲しいということを。

 どうやらあの先生は銀髪女に恩義があったらしいけれど、あくまでも公平性を前提にして快諾した。


 やっぱり。あの時、ちらっと見えたのは気の所為じゃなかったんだわ。


 待っていた女子生徒を捕まえたガーウェンディッシュは、何かしらの手段で問いただし、ナークさんたちのアリバイを崩す証言を得た。

 銀髪女の話だと、あの連れてこられた女子生徒はかつてガーウェンディッシュと対立して敗北し、以降は目の前の女に従順らしい。だからナークさんたちに関する情報を引き出せた。


 そして勝ち筋を見出し、堂々とあの場に現れた。そこからは、終始彼女の独壇場だった。


「聞いていて思ったんだけど、二人も私を利用してない?」

「あの女か私達か。結果的には助かったじゃない」


 それはそうだけど。お陰様でなんともなかったけれども。釈然としないわ。


「とばっちりが欲しかったの?」

「そんなの望まないわ」

「あら、そうなの? いつも首を突っ込むのに」


 ナークさんの思惑通りに進んだら最悪だった。

 退学処分にさせられていた。ふー、危なかった。また失敗を嘆いてみじめな思いをするところだった。


 まったく、ナークさんたちは駄目ね。殿下と相対するなら、根気強くならないと。

 私はもう慣れてしまったけど。いや、慣れてはないけど!


「思わぬ事態だったが、俺としては好都合だった」

「それで私に肩入れしてくれたんだ」


 薄く笑みを浮かべたオルテンさんは、小さくない達成感を得ていた。その瞳の奥には、どこか復讐に似た感情が垣間見えるようだった。


 王女殿下への大逆、不敬行為。これから二人はメディアにこのことを広く喧伝するように働きかけるつもりだという。メディアの目はスイット家に向く。そこへ更に、令息と令嬢が掴んだ他の悪事を付け加え、より打撃を与える。時間をかけてでも排除していく思惑を、淡々と語ってくれた。


 性格の悪い笑顔を浮かべる二人は、陰湿そのものだった。

 貴族同士なんてこんなものなんだけれど、なんだか室内が湿気を帯びてきそうね。


 こういうときは全員がカラッと笑えそうなことを言ってみるべきかしら。


「なあーんだぁ。オルテンさん、てっきり私に惚れてるのかと」

「は?」


 えええ、すっごい睨まれたわ。ちょっとした冗談だったのに。


 照れもしないし微笑みもしない。殺意まで宿しそうな目つきになった。


「あら、いいじゃない。令息様はまだ婚約はされていないのでしょう? この際、見合いでもしてみたら? 私が仲人を務めるわよ?」

「はあ?? 俺にも選択権はあるんだが」

「どういう意味ですか!」

「確かにこの人は、ポンコツ令嬢は、女生徒と言えますが、」

「一応も何も女の子です! 人間です! というかまたポンコツって言いましたよね! 呟いても聞こえてますよ!」

「そんなこと言いましたか? ポンコツハージさんの聞き間違いでは?」

「言った! 言った! 今言った!」

「うるさいわね……貴方って静かなときはないの?」

「これ私が悪いの!?」


 ぐぬぬ、この人達に口喧嘩では勝てないわ。

 勝てないなら、懐柔を試みるべきかしら。


 あ、閃いたわ! 二人をお茶にでも誘おう! オルテンさんにはお詫びも兼ねて、ついでにガーウェンディッシュとも親睦を深める! 名案よ、名案だわ!


「ねえ、この後お茶でもどう? 私達、殿下を通じて知り合ったのだから、たまには、」

「すまないが、この後は用事だ」

「私も今出来たわ。用事が」

「嘘よ! オルテンさん、さっき用事なんてないって言ってたわ! 貴方はもっとちゃんとした言い訳を考えなさいよ、ガーウェンディッシュ!」

「うるさいな、このポンコツ」

「同感だわ。ポンコツ令嬢」

「ねえ゛え゛、良いじゃなあ゛い! 私も話したいこと沢山あるから! 毒とか盛ったりしないわ!」

「毒より危険なものが隣に座ることを考えると、ね」

「椅子が突然爆発するかもしれないしな」

「ならないわよ!!」


 結局、今後の立ち回り含めての打ち合わせを理由に、二人は首を縦に振ってくれなかった。

 お茶会で話せばいいじゃない、という提案は、即座に却下された。私が情報を漏らす可能性を考えてのことだ。

 そんなに口軽くは無いわよ、たぶん。


 まあ、いいわ。近いうちに二人から誘ってくれる約束を取り付けた。これならいつでも……近いうちって、いつかしら。まさか一年後とかじゃないわよね? 


 こうして、朝から大忙しだった、ドタバタした大学での一日が終わった。

 丁度良く、迎えの馬車が来てくれていた。





 *





 嫌なことがあっても、良いことが上回れば、その日は気分よく終えられる。


 今日の私は、まさしくその通りだった。



「たっだいまー!」

「おかえりなさいませ。ノーラ様」

「お嬢様が帰られたぞー」

「詐欺に遭ったり、容疑者になったり、なんだかんだあったけど。今日も良い日だったわ!」

「お前は何をしてきたんだ、ノーラ!」


 機嫌良く声を張り上げてエステルハージの邸宅に帰ってきた私を、使用人たちに温かく出迎えてくれた。リビングには両親の姿もあった。


「ノーラ様。本日も良き日であったようですな」

「そうなのー、聞いて爺や! また友達ができたわ! リファーナさんって言って、南方から来られた方なの。綺麗で上品な人よ」

「おおーいいじゃないか。対照的な友人とは、得難く有り難い存在だ。大切にしなさい」

「うん!」


 少し含みがあったと思うけど、お父様も嬉しそうだからいっか!


「爺やは嬉しゅうございます。ノーラ様にまたもご友人ができるなんて」

「もう~。爺やは泣き過ぎー」

「これだけ聞くと娘が馬鹿にされているようにしか聞こえんな」

「あら、いいじゃない。あの子のペースで増やせていければ」

「リファーナさんやオルテンさん、あのガーウェンディッシュとも少しは仲良くなれたわ。前進よ前進!」

「まあ、本当かどうかは私達に判断できないがな」


 快活に拳を掲げる私に、父は訝しげな目を向けて、髭を撫でていた。


「お父様は疑いすぎよ!」

「そうは言うが、アメリア殿下と友人になったと言いながら、一度だって連れてこないじゃないか。私は疑っているぞ」


「それは、仕方ないじゃない。王族の方をご招待するのは、色々と、準備が」


 言ってることは本当だけど、実際はただ私が断れる恐怖に怖気づいてしまっているだけだ。


 よし! 今度、殿下を家に招待してみせるわ!!



 決意を胸にして今日を振り返ると、充足が全身を満たした気がした。


 気持ちよくベッドに入れそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ