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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第九話  「ノーラの日常」

※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります


 



 嫌なことがあっても、良いことが上回ればいい。その日は気分よく終えられる。


 親から聞かされた格言のようなものを、私は思い出していた。



 魔導大学の栄華を照らす恒星が昇り始めて数時間。普段の賑わいが鳴りを潜める敷地では、普段は気にも留めない足音が注目されているようだった。


 早めに登校した私は、ある一室を訪れていた。


 王立魔導大学の西側、実技演習場から少し距離を隔てたところにある、大学公認のクラブハウス。その中で存在している旧備品庫と呼ばれる部屋に、私は来ていた。

 噂を聞きつけて、というか盗み聞きして確かめたくなった。


 元々置かれていた備品の数々は、既に新しい備品庫へ移動が終わっており、簡素な丸机と椅子が数個置いてあるぐらいの物寂しい空間が存在していた。平時はそうそう人が来ない。


 だからこそ、この人、占い師さんは活動拠点にしている。


「あ、あの! ここに来れば願いを叶えてくれると聞いたのですが!」


 緊張を隠せずガッチガチになり、声が上ずった私は、そう言って入室した。

 都市のどこにでも売ってあるようなヴェールや頭巾で顔を覆った占い師さんも、私を見てビックリしたみたいだった。こ、声が大きすぎたかも。

 灰の空間に浮かび上がるような黒のローブ姿は、窓から差し込む光も伴って神秘的な雰囲気だわ。


 どうぞ、と低い声に促されて、着席する。

 分かってはいたけど、女性だった。なんだか誰かの声に似てるような気がする。多分彼女もここの生徒なんだから当然よね。廊下ですれ違っていたりするのかな。


「占い師さんのことは、噂で聞いて、」


 昨日、大学終わりに迎えの馬車へ向かう道で、女子生徒たちが話しているのを聞いた。


『未来が見えるんだって! 当たるんだって!』

『タロットで恋愛運がズバリだったのよ!』


 盗み聞きするつもりはなかったけど、彼女たちが結構大きい声を出していたから、聞こえてきただけ。ちょっと後ろから近づいて、会話が聞こえるぐらいまでの距離に近づいてたら、聞こえてきただけだから。


 この大学には、占い師がいる。

 最近、あくまでも噂として校内に流れていたようで、学業から人生相談まで、幅広い相談を受け付けている。

 何でも、こちらの心を見透かしたように話をするという。

 相談をした人たちの満足度は高いらしく、何度も通ってる人までいるとか。


 場所は定かではない。中央本館の誰も寄り付かない空き教室、図書館のどこか、ある学部の棟や学生寮の人けのない場所など、とにかく人目につかないところで密かに行っている。


「占いなんて、どうせインチキに決まってるわ」


 そう思っていた。どれも、尾ひれがついたようなデマとさえ思っていた。

 憶測ばかりの会話だったから、半信半疑というよりは全然信じていなかった。

 所詮は噂、面白がって広めた人達がいただけと思っていた。


 そんな人がいるのなら、もっと騒ぎになってるはずだから。

 アメリア殿下が噂を知らなかった。この時点で、私はテキトーに流された嘘の情報だと決めつけていた。面白いことには首を突っ込まずにはいられないあの人なら、そういった噂には鼻を突き出してでも嗅ぎつけるはず。それでもって、自分で探しまわる。けれど、殿下は聞いたこともないと言っていた。『私も探してみよ~』とも言っていた。


 こんな噂を、鵜呑みにする必要はない。

 でも、噂は噂。きちんと確かめてから真偽を判断しようと思った。私も相談に乗って欲しいからとか、そんなことは全然思っていなかった。本当ならちょっとだけ話を聞いてもらおうとか、それぐらいの気持ちだった。


 人の少ない時間に活動しているらしいため、早朝を狙って探し回った。

 中央本館、図書館、と回ってきて、三つ目のここでようやく出逢えた。

 別に必死になって探していたわけじゃないけれど、見つけたときは鼓動が早まった。


「ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょう?」


 室内の雰囲気や二人だけの空間にいるためか、問いかけは随分と大きく聞こえた。

 思っていたより早く本題に入るのね。こういうのって、雑談とかはしないの?

 あ、でも他にもお客さんが待ってるのかも。あまり時間をかけていたら他の人に迷惑だわ。


「ええと、その、」


 目線を下げてしまい、もじもじする。占い師のお姉さんは、じっと見つめるように、私の言葉を待った。目元なんて見えないから、じっと見てるのかどうかわからないけれど。

 まさか本当にいるとは思っていなくて、勢いでそのまま突撃した。舞い上がって準備も何もできていない。


「本当に、何でも、叶えてくれるんですか?」


 何か会話しなければと思い、つい質問してしまった。

 何でも、なんて噂でだって聞いてないのに。


「何でも、とはいきません。私は人の身であり、できることには限界があります」

「あ、そ、そうですよね。あ、でも、私のは、そんなに、そんなに大仰なことじゃないんです。ただ、人間関係で」


 当然の返答に、背中に冷や汗が浮かぶ。とりあえず思いついたことを口にして、場をつなごうとしていた。

 占いなんて今までしてこなかったから、全然手順がわからない。


「ご安心ください。人生相談や学業、対人関係について、普段から対応しておりますので」

「そうですか……! あの、それでですね、相談というのが」


 占い師さんはゆったりとした声音で、私の緊張を解くように伝えてくれた。そのおかげもあり、ちょっとずついつも通りの調子に戻ってきた気がした。


「友達に、いえ、私は友人だと思ってる人に関してなんですけど」


 一呼吸おいて、ある人物を思い浮かべる。白銀の髪にエメラルドグリーンの瞳、周囲から完璧令嬢などと言われている同級生のことを。


「もっと、仲良くなりたいというか、仲良くなって欲しいというか」


 歯切れの悪い言い方になってるわ。もっとちゃんと言わないと。


「その人に、名前できちんと呼んで欲しいんです。家名じゃなくて、私の名前を」

「なるほど、深刻な悩みですね」


 そして、私は押し黙った。占い師さんの言葉を待った。

 そして、占い師さんも黙った。

 え……これってまだ何か言うべきなの? 『仲良くなりたい』ってだけだと、答えてくれないの?


 十秒ぐらい沈黙が続いたところで、ヴェールの奥から発せられた。


「それでしたら、こう尋ねてみては? 『私のことは、名前で呼んでね』と」

「それができる人だったら、苦労はしませんよ!」


 少しだけ腰を浮かして言い返した私に、お姉さんは少しだけ首をかしげる。

 あれ。この人、わかっていなさそう。もっと何か言った方がいいのかな。


「コミュニケーションって、すごく難しいじゃないですか。相手がどう思ってるとか。こっちの言葉で傷つかないかなとか、色々と考えるじゃないですか」


 一周目の私は、何とか友達を作りたいと思って、とにかく元気に挨拶したり、話しかけたりした。それでも、ちょっとだけ話せたと思ったら離れていくような人が大半で、なかなか家に招待することもできなかった。


 何か変なことを言ってしまったのか。それも分からないままで、いつしか裏で笑われたこともあった。何気ない言葉で背中を切り刻んでくる同級生や教師ばかりだった。


 ああしていれば、こうしていれば。

 何度もそう思い返しては自分を責め、他者との関わりに臆してしまい、結局は惨めな学生生活で終えてしまった。


 そんなこんなで、実体験を基にした、説得力の伴った口ぶりだった。


 対面している人は、目元をこすっているようだった。


「占い師さん? どうかしましたか?」

「いえ、目にゴミが…………風が強くなってきたのかもしれませんね」

「ここ室内ですよ?」


 風なんて吹いてたかしら。窓も締まってるし、全く感じなかったけど。


「ファーストネームでなくとも、親しみが込められていればいいのでは?」

「そうおっしゃる人がいるのもわかります。けれど、私は、友達にはノーラって呼んで欲しいんです!」


 友人同士は家名で呼び合うことはない。公の場ならまだしも、プライベートで過ごすときにはお互いを対等と認めていることの証として、きちんとファーストネームで呼ぶ。


 お父様はそう言って、繰り返し教えてくれた。

 私も、そう思う。友達とは、価値観や距離感は当然のこととして、お互いを信頼していられること。たまにふざけ合いながら、ちょっとした言い合いをしても、お互いを尊敬して接することができる。


 名前で呼んでくれるまでは、こちらも相手のファミリネームで呼ぶ。

 私は、友人になる人の個性を見る。その人の家や家柄、家名と親密になるわけじゃない。

 だからこそ、私は名前を呼んで欲しい。お互いに名前で呼び合いたい。

 エステルハージ家における家訓といってもいいかもしれない。


 これに縛られたせいで、一周目では苦い思い出がたくさんできた。

 しかし、これだけは譲れない。譲りたくない、曲げたくない。信念と言い換えてもいい。

 意固地だと言われたっていい、貴族同士のつながりだとか、表面上の友人は求めたくはない。


「それで、もっと、仲良くというか、なんか、そういうのが欲しくて」


 過去は過去と、割り切れるわけじゃない。

 でも、それに引っ張られるのも違う。二周目の私は違うわ。

 まさかまさかで、アメリア殿下と友達になれて。殿下を通じて、色々な人と話せる機会が増えてきて。


 最近だと、留学生のリュソーさんとカードゲームまでしたわ。

 彼女とはもう、友人よ。名前で呼ばれてはないけれど、一緒に遊んだもの。お菓子とか巻き上げられちゃったとはいえ、それでも一緒に遊んだわ。親友、いえ、親友の一歩手前と言ってもいいかもね。


 あの不敵な笑みを浮かべる彼女にも、殿下みたいに名前で呼んで欲しいわ。まだ呼ばれたことなかったわよね……うんん? そうなると、親友の一歩手前とは言えないかも。


 殿下の企画で集まった人たちにも、呼ばれなかったわ。パン作りまでしたのに……あれ楽しかったなあ。もう一回、いえ、何度でも開いてくれないかな、殿下。

 あそこで知り合った人たちなら、頼めば呼んでくれそう。皆良い人そうだったもの。


 優等生ですけど? みたいな態度をした女を除いて。

 人をポンコツポンコツって……あんな嫌味な女のどこが模範的なのよ!


 パンの時だけじゃないわ。もう何度だって顔を合わせているのよ。五回以上顔を合わせていたら友達といってもいいでしょうに! 

 まったく、あのガーウェンディッシュときたら。


 けど、逆に考えれば。あの女でさえも名前で呼ばせることができたら。誰にだって読んでもらえる気がする。


「助言とかを頂けるだけでも、いいといいますか、」

「それでは、タロットで占ってみましょう」

「え、急ですね」


 ずっと机の上にあるからいつ使うんだろうって思ってたけど、いきなりすぎない?

 それとも、こういう流れが一般的なのかしら。


「おっ、と。これは。なんと申し上げればよいのでしょう」


 勝手に引かれた。って、え、え、貴方が引くの? こういうのって、占い師さんがバッてカードを裏面に並べて、相談者が選ぶものじゃないの?


「な、なにが、何を引いたんですか?」

「凄く、良くないものを」

「見たくない! 見たくないです!」


 何でよ! 私が引いたわけじゃないのに!

 頭を抱えるように両耳を軽く塞いだ私は、瞼に力を入れて言葉を待った。


「あー、これは駄目ですね。貴方は今、不幸のドン底にいます。このままですと、そうですね、そう遠くないうちに、首が飛んでしまうかも」

「く、くび、首が!!?」


 私また刎ねられるの!? まずいわ、首はまずいわ。

 まだ革命さえ起こってないのに、運命はそんなに私の首が欲しいの?

 でも、占い師さんのお姉さんは『かも』って言った。まだ確定していないわ!


「いつも、大変な目に遭っていますね。二、三日に一度はトラブルに巻き込まれているのでしょう?」

「いえ、毎日ですけど」


 最近はそうでもないわね。一時期は一日に五度も巻き込まれることも……いえ、私が起こしたのも二つか三つはあったかもしれない。

 今は毎日、大小の事件が一回で済んでるわ。比較的平和ね。


「…………そうでしたか。そんな不幸だらけで、怠惰で堕落した可哀想な貴方に、こちらをお見せしましょう」

「そこまで言われるんですか!?」


 怠けても堕ちてもいません! 

 頑張ってます! ただ上手くいかないだけで、頑張ってはいるんです! 


「幸運の上がるパワーストーンです」


 水滴が結晶化されたような宝石が印象的なネックレスが、私の眼前に吊るされた。




 簡単な説明を受けた私は、それを購入した。

 刻まれている魔法式の性質上、高くついてしまったけれど、私の足取りは軽かった。

 これなら、もしかしたら。

 宙を駆けることもできそうな脚で、目的の人物を探す。


「あら、貴方……な、何よ。その目つき」


 階段を駆け上がった先で、早速出会えた。今日もシニヨンにまとめた銀髪が目立つ模範的貴族は、どこかの教室へ向かっていたらしい。広大な敷地でこうも易々と遭遇できた。


 パワーストーンの力は本物だ。

 確信した私は、それを高々と突き出すようにした。


「さあ、私の名前を呼びなさい! 友人としてね!」


 高らかに告げて、光り輝く宝石を……それほど煌めいてはないわね。とにかく掲げた。


 沈黙が私達の間に流れた。


「何よ、それ」


 訝しげにするガーウェンディッシュに、私は手元の石を凝視した。


 あれ、そういえば。

 これって、どうやって使うの?

 魔力を込めるの? 何か詠唱が必要なのかしら。


「ち、ちょっと待って。待ちなさい。たぶん、魔力を込めれば」


 魔法の効果だけで、使い方までは聞いてない。あれ、言ってたかしら? 

 でも、大体こういう魔道具って、魔力を注げばいいはずよね。


 私の掌から淡い光が弾けるように流れていくと、宝石は鈍く輝いた。気がした。

 よし、これでいける!


「……何がしたいの。そのネックレスを見て欲しいの? 自分で作ったのかしら? まあ、貴方にしてはよく出来たんじゃない?」

「違う、そうじゃなくて」


 もう一度突き出すように掲げた。けど、反応は変わらない。

 あ、あれ? 何で、どういうこと。


「ほら、ほら! 私を名前で呼びなさい!」

「何で私がそんな労力を掛けないといけないのよ」

「労力なんていらないでしょ!?」

「はあ、もう行ってもいい? 私、用事が二つほどあるの」

「あ、ちょ、ちょっと! 何で、どうなって。使い方が、占い師さんに聞いてこないと」


 背を向けて歩き出したガーウェンディッシュは、途端に振り返った。

 翠瞳を、私に注いできた。


「貴方、占い師って、言った? どこにいるのか知っているの?」

「そんなことより、ほら、言・い・な・さい!」

「こんなことをしている場合ではないわ。こ、こら。押し付けないで。どこにいるのよ、その人は!」

「何で、何でぇ。どうするのこれぇ?」

「貴方、下から上がってきたわよね。この下には、確か……旧備品庫。そこね!」


「パワーストーンなのに! パワーなのにいい!」


 結局、泣き叫んでも魔道具はうんともすんとも言わなかった。

 そして、占い師はリュソーさんだと判明した。コソコソしてたところを、アメリア殿下が発見してくれて、私達に教えてくれた。


 最低な人ね! もう友達なんて言ってあげないから! 

 友人未満に格下げよ! 三日ぐらい経ったら元に戻してあげるわ!


 殿下はやっぱり殿下ね。私は信じていたわ! 


 感激のあまり抱きつこうとしたらエルミナさんに間に入られてしまい、肝を冷やした。

 いえ、生命の危機を、肌身で感じさせられたわ。


 ガーウェンディッシュは何なのかしら。あのプライドというか頑なに拒んでいるのは。

 私のこと嫌ってる? え、嫌われてないわよね?


 そういえば、何であんなところにいたのかしら。

 今日の午後に勉強を見てもらうから、その時に聞けばいっか。


 一時間目の予鈴が、遠くから鳴り響いていた。





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