第八話 「手紙」
※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります
子供が広場で遊ぶ声。石畳に並ぶ露店の喧噪。慈善の配給所で忙しなく動くシスターたち。
彼らの日常を見守り包むように、暖かな日光が天から降り注いでいた。
王立魔導大学より北側に位置する市民街を、俺は散策していた。祖国から持ってきた地味で簡素な服は、この国でも珍しくない格好だ。
制服は学生寮に置いてきた。ここではそれだけで目立ってしまいそうだからだ。必要最低限の金を持っているぐらいで、あとはメモ用の紙と硬質のペンをひとつずつ。散策というには語弊があるが、まあそこはいいだろう。
講義がひとつも無い日は、こうして都市を歩き回っている。単純な興味としてもそうだが、今後恋人たちを招いた場合を見越してのことだ。旅費等を考えれば気軽には来られないが、そういった機会が無いとも限らない。
そして何より、こうした日常の光景こそ、手紙の内容を新鮮にする種のようだ。
『君の笑顔は、子供らの笑い声のように純真だ』と書けばどうか。あるいは『困窮する者を助ける手のように、君の手もまた温かい』と。
歩きだしてから一時間ほど経ったか。ベンチに腰を下ろし、紙を取り出す。これまでの光景を脳裏に思い出しながら、心の内から溢れ出すものを綴っていく。
『童心を忘れない純真さを讃えたぺキッシュ。俺は今、王都の北側にある市民街にてこの手紙を綴っている。子供たちも、太陽に腹を向けて談笑している。国は違えども、一昔前の俺たちのような楽しみ方をするものなのだね』
『スリムン。ここは露店までもが活気に満ち満ちていて、人々の声音は明るく、君の弟妹達と同じくらいによく響く。君とともに来ていれば、商売に携わる君のことだ、俺とはまた違った視点でこの街の空気と賑わいを楽しむのだろう。そして俺は、どの店の、どの露店に並べられた宝石群よりも、隣で楽しむ君に目を奪われるのだろうね』
『レイダ。この市民街でも酒屋は散見され、祖国にはない酒類ばかりだ。君と来られたのなら、昼夜を通して店を渡り歩いたことだろう。ほどよく火照った君の瞳がありありと目に浮かぶ。気になったものをいくつか見繕い、そのうちの一つを手紙とともに送らせてくれ。ソムリエとしての意見や感想を聞かせてくれると嬉しい』
『ファティス。この国の街々には一風変わった空気が流れている。瑞々しく弾けるような果実を思わせる祖国の活気に対して、ここでは乾燥させた果実の香りが鼻を衝くような穏やかな賑わいだ。この景色を目の当たりにすれば、君の眩いばかりの瞳もまた――』
しまった。目に留まった情景を言葉にして記録するだけのはずが、気づけば恋人たちへの言葉に変わってしまっている。これでは紙面があっという間に埋まってしまう。もう少し自重して、要点だけを抽出しなければ。
紙は店で購入すればいいが、嵩張るのは面倒だ。今日は鞄すら持ってきていない。
紐も買えばいいか。束ねて運ぶぐらいなら事足りる。
それにしても、やはり。似通ってきたな。
内容そのものは悪くない。しかし、先週も同様の表現を用いた気がする。
毎週一度、月に四度の手紙を七名それぞれに。
近況報告の面も含めて、俺から言い出したことではあるが、三ヶ月も経つと自らの語彙に悩まされる日々が増えてきた。
『誠意』や『信頼』、『愛』といった語彙が散見され、美辞麗句と指摘されようと否定はできない。もちろん、大切なことだとは思う。だがこれでは、読む側も退屈してしまうのではないか。
俺が彼女たちへ向ける真心が、凡庸な語で霞んでしまうのではないか。
これは来週に向けてのものだ。既に書き上げて送った今週の手紙にしても、まだまだ推敲の余地はあった。あんな出来で良かったのかと、今も思う。
一人一人へ筆を走らせた内容を組み替えて、送ることもできる。だが、彼女たちは互いに手紙を共有しており、そのような姑息は通じない。それに、結局は問題を先延ばしにしているだけだ。
何より、こういったところで手を抜きたくはない。
俺自身の語彙力や表現力を、鍛え研ぎ澄ましていかなければならない。
そのため、こうして市井に足を向けることが多い。学生寮や大学内だけでは表現の幅が限定的なものに留まってしまう。
相も変わらず人々へ天の恵みをもたらす存在を見上げ、周囲を見回す。
ザックスファードの生徒は、見当たらない。これまでも見かけなかった。俺のように上手く紛れ込んでいるのかもしれないが、その可能性は低いだろう。令息や令嬢からすれば、手間をかけてまで来るような場所ではない。
会員制クラブや私的なレセプション、郊外の専用施設を用いた乗馬やフェンシングといった高級スポーツなど、彼らには階級に適した過ごし方がある。
本来であれば、俺もそちらへ参加した方がいいのは確かだ。
父親は中央大国とのコネクションも期待して送り出したのだろう。しかし、生憎、俺はそういったことは得意ではない。
専攻の者とは、大学ではそれなりに付き合いはあるものの、それ以上は無い。何度か酒の席に呼ばれたことはあるが、それっきりだ。
俺としても都合が良かった。あいつらの話は面白みに欠けていた。
学問の話ならばともかく、決まって話す事柄と言えば、政治や家柄、異性に関した話題だった。
『宰相の次の政策は我が領地に不利に働く』『第一王女殿下がまた事件を起こした』といったことから、次に出てくるのは家柄の誇りだ。
自分の家の歴史上の武勇伝や、先祖が残した魔法の偉業を自慢したり、他家の評判を探ったり。
『社交シーズンで会った○○家の令嬢は、美貌だけでなく魔力も高そうだ』『どこの令嬢を花嫁に迎えるのが最も家のためになるか』などといった、結婚相手と令嬢の評判。
俺からすれば、どれもそれほど関心を惹かれることはない。
この国の政策は、祖国にも少なからず影響はあるだろう。だが、俺や恋人たちが平穏に暮らしていけるのであれば、ヴァルモン王国がどうなろうと知ったことではない。
他人の家の苦労話や自慢を意気揚々と聞かされる身にもなって欲しい。どうでもいいんだ、こっちは。
そして、七名の素晴らしい女性たちがいる俺には、今更この国で異性を探す必要もない。
俺がそのことを告げると、奴らは面白がるように言及してきた。
知り合う過程や関係性の発展まで追及され、中にはアプローチの享受を求める者まで出てきた。それくらいならと口頭でいくつか教えたが、活用できたのかまではわからない。
面倒だったのは、酒の席で色目を使ってきた女子がいたことだ。俺には将来を誓った女性たちがいる旨を叩きつけるようにして払った。だが、その子を好いていたらしい、どこかの子息が、それを聞きつけて言いがかりをつけてきた。事なきは得たが危うく揉め事に発展しかけたこの件を口実に、大抵の誘いは断るようにしている。
それに、奴らは面白い話を俺から聞いているくせに、奴ら自身は面白い話は聞かせてくれない。そんな集まりに足を向けたところで退屈が優ってしまう。
未来の妻たちの自慢話を一度聞かせてやったが、それ以降は誘われなくなった。
自分たちの自慢話はいくらでもするくせして、俺が恋人たちについて一時間話したぐらいで音を上げた。まだまだ序章に過ぎなかったというのに、失礼な奴らだったな。
輪から外れられたのは、ねがったりかなったりだ。元々、都市国家のそれなりに力のある家柄というだけで、俺自体に力があるわけではない。彼らと話の馬が合わなかった。
親に嘆かわしく思われようと仕方がない。だから後継者なんてものは、俺以外の誰か、異母兄弟の誰かにしておけばいいと言っているのだが。
そんなこんなで、現在の交友関係は限りなく狭い。
王女殿下を筆頭に、大貴族の令嬢や敵対勢力の一角である姫君、その他第一王女を通して知り合った者たち数名。
一見すれば、十分にも思える。というか、もうこれでいいだろ。
あまり関わりたくない、巻き込まないで欲しいと強く願う人物がいるが、肩書だけならば上等すぎる面々だ。
王女殿下に出逢ってから数週間は大変だった。
爆発に火柱にわけのわからない発明品に。三日に一度は何かしらの騒動に直面させられた。
最近では上手く避けられているのか、巻き込まれることは少ない。危機に対する俺の察知能力が向上したのかもしれない。させられた、と言った方が正しいが。
こういった市街で出会うこともないはずだ。
そう呑気に構えていた時だった。
「あれー、ジャミじゃーん。何してるのー?」
背後から、唐突に声をかけられた。伸びるような声音を多用する口調は、振り向かなくとも誰だかわかってしまった。




