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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第七話  「占い師」(3)

 



 バタバタ、と斜め右手側の階段から忙しなく駆け降りてくる音が二つ。

 咄嗟に踵を返して右の突き当たりの角を曲がり、走ってきた道を覗き見る。


「貴方をより愚かな行動に導いた占い師は、ここね」


 先ほどまでいた部屋の前に、乱れた呼気で扉を睨むセレヴィーナ嬢がいた。


「いい、加減、名前、で呼び、なさい、」


 数秒遅れて、ノーラが追いついた。あの石を大切そうに握りしめた手で、膝に手をついて荒々しい息遣いだ。


「貴方の会った占い師、名前は?」

「はぁ、う゛、う゛ぇ……え? 知らない、わよ。聞いて、ないんだから」

「名前も知らない人から購入したの? ……はぁ、救いようがないわ」


 相変わらず辛辣だな、あの令嬢は。


「そんなことより、早く、呼びなさ、」

「嫌よ面倒くさい。そのセンスのない石にでも呼んでもらいなさい」

「うううううう……そんな力ないわよ!」

「そうなの? そのパワーストーン君は貴方の友達ではなくて?」

「ば、バカにするんじゃないわよ!!」

「馬鹿にはしてないわ。嘲っているだけよ」

「同じじゃない!!」


 相変わらず仲の悪い、いや、むしろ良いよな、あれ。


「この、この! 観念して、呼びなさ、い!」

「ちょ、こ、こら。やめなさい! 鬱陶しいわ!」


 出ていった時よりボロボロになったノーラが涙目になって石を押し付けるが、セレヴィーナ嬢は鬱陶しそうに手で払いのけた。

 それでもしつこく迫るノーラに、令嬢は思わず頭をはたいた。


「い、いだ! いだぁ! 叩かなくてもいいじゃない! 暴力女!」

「だったら押し付けてくるのをやめなさいよ!」


 暴力はよくないぞセレヴィーナ嬢。あの子もあの子だけどな。


「なんでぇ!? パワーストーンなのに……パワーなのにぃぃ!!」

「変なものに頼っているから、貴方はいつまでもポンコツなのよ」

「う゛ぇええ゛えわ゛あああんん゛んん!!」


 セレヴィーナ嬢、正論は良くないな。あの子も泣いてしまったじゃないか。品の欠片もない叫び声が廊下に響き渡っているよ。


 これまでも何度か鳴き声を耳にはしてはいるが、今日は一段と凄いな。


 模範的令嬢は、動物的令嬢を放置して、室内へ足を踏み入れた。


「いないわね……貴方、まさか嘘ついたの? 私の気を引くために」

「違うもん! ここで買ったの! 嘘じゃない、嘘じゃない! 本当だもん!」

「はぁ…………この様子だと、逃げられたかしら。それとも、この子の虚言かしら」

「六十、六十サリング! わ゛ぁぁあん!!!」


「うるさいわね。その占い師がどこに行ったか見当はつかないの?」

「わああがんないいいいい」

「はぁ、役に立たないわね」

「う゛ぇえ゛わ゛あん゛ん゛!!」


 セレヴィーナ嬢……少し言葉が過ぎないか? ちょっとは手心とか、良心とかさ。

 あるだろ? そういうの。私が言えたことじゃないけど。



 それにしても……早い。早すぎるな。あの子が元気よく駆け出してから、まだ五分と経っていない。


 セレヴィーナ嬢が始めからノーラを不審に思っていたとしても、それなりのやり取りはあったはずなんだ。こんなに早く私を探しに来るか? 妙だな、違和感しかない。


「先生方のおっしゃっていた占い師は、まだ遠くへは行っていない。と見るべきかしら、けれど、どこへ行ったのかがわからないと」


 ……そういうことか。あの令嬢は教員どもに任されていたんだ。大学内で密かに横行している占いの調査を。そうか、それなら辻褄が合うな。


 今までの客は口を固くしていたんだな。懇意にしている占い師の摘発を危惧してか、または利用者である自分達に影響を及ぼすと考慮してか。


 活動場所を一つに絞らないでよかったよ…………いや、待てよ。だとしても、セレヴィーナ嬢が辿り着くのは迅速すぎないか。


 何か策を講じたな。一体どんなことを。


「貴方、泣いてないで答えて頂戴。その人の装いは、どんなだった?」

「ひう、ふぐ……え? ええっと、たしか、ローブを着ていて、ヴェールとかで素顔が見えなくて、」

「ローブは何色? ヴェールの模様は?」

「灰色、と模様はわかんない。部屋のなか、暗かったから」

「……脱ぎ捨てられていると見た方が良さそうね。痕跡を残すとも思えないし、そのまま着て逃げた……? まだ近くにいるのかしら。捕まえるにはもう少し上等な餌が要るようね」


 ノーラは囮役だったのか? 計画を知っているようには見えなかったが。

 明日には返すつもりとはいえ、ノーラはただ金を取られただけになる…………おいおいおい、まさか、酷いな。


 推測にしかならないが、つまりこういうことか。

 セレヴィーナ嬢は知り合いにでも頼んで情報を撒き、それを信じた生徒が占い師を発見するのを待っていた。


 犯人の私物から匂いを覚えさせた犬を放つように、学生たちに仕込んでいたのかもな。

 あの令嬢はただ座して待っていればいい。学生たちが情報を収集してくるのだから。


 噂を聞きつけて、とあの子は言っていたな。私は噂を広めるように言った覚えはない。どおりで新規の客が最近急増していたわけだ。



 そして、運悪くノーラがその役目を背負った。本人が意図しないところで。腹芸のできないノーラが作戦を伝えられているはずがないだろうし。事情を知らない人間には私も客だと思い込んでいた。あの子がそうだったが、純粋に占ってもらおうとしたからだ。もしかすれば、他にも何名か同様の客がいたのかもな。



 はっ、やられた。まんまとやられたな。


 それにしても、なんて非道な。いたいけなあの子を利用してまで。

 人間の風上にも置けない女だ。どこが模範的なんだ。


 ともかく危なかったな。さっさとここから立ち去るか。反対側のトイレには向かえないが、着替える場所ならどこだってあるはず。


 ……痕跡を辿られないように、商売道具は全て処理しておくべきだな。

 この後のことが終わったら、しばらく占い業は停止だ。ほとぼりが冷める頃に再開すればいい。



「その格好、噂の占い師さん?」


 足音を立てないように、方向を転換した。瞬間、身体が硬直した。


 喜色満面の笑みだった。新しい玩具を与えられた子供のように、その子は目を輝かせていた。


「えー! 初めてみた! わたしを占ってください!」


 王女様、なんでこんなところに。


「あれ、セレヴィとノーラも! 二人ともー! こっちこっち!」

「アメリア?」

「殿下?」

「占い師さんなら、ここにいるよー!」

「「え!?」」


 最悪だ。


 王女様、アンタ本当に災厄だ。






 *






「それで、弁解はあるかしら?」

「ないね。商売に関して言い訳はしないよ」


 私は、旧備品庫の中心に、座らされていた。

 周りには王女様に二人の令嬢、そして入口前に立つ女の四名。


「貴方といい、ヴェルディックといい、アメリアとポンコツといい、何で問題ばかり起こすの?」

「待って、セレヴィ。わたしも含んだ?」

「私も入っていたわよね? 今回は私、被害者よ?」

「無自覚前科者どもは黙ってて」


 王女様の侍女……いやあ、恐ろしかったね、彼女。初めて出会った時から並々ならぬ実力者だとは見抜いていたけど、底が知れないな。

 私の身体能力ではセレヴィーナ嬢にもいずれ捕まっていただろうが、王女様の世話係は逃走の隙さえ与えてくれなかった。


 気づいたら組み伏せられていた。私だって、護身のためにそれなりの術はあるつもりだったのだが。


 というか、私に対してはいつだって警戒を怠らないな。

 一応は王女様の友人なんだけどね。初対面の印象があまり良いとは言えなかったけどさ。



 あの身のこなし、何かに活用できないかな。用心棒にでもなれば国の重役が多大な金額を払ってくれそうだが、王女様の護衛から離れるつもりはないだろうしな。


「リュソーさん! 私のお金、返して!!」

「そうかい。私は、君を友達だと思っていたのだがな…………」

「え、」

「金の切れ目が縁の切れ目。君と、もっと楽しい日々を送っていきたかったものだが、仕方ないな」

「そ、そんな。わ、私は別に、」

「言いくるめられたいの? だから騙されるのよ」


 悲壮な表情を浮かべる私に狼狽えだした少女を見やって、セレヴィーナ嬢は嘆息した。


 流石に押し通すのは難しいか。


「リュソー、返してあげなよ。友達って、お金じゃないでしょ?」


 その意見には頷けなくもないが、まさかこの王女に言われるとは思いもよらなかったな。

 ここまで言われてしまうとね。元々返却するつもりだったし。


「はした金だし、まあいいよ」

「わ、私たち、友達、ですよ、ね? 私のこと、名前で呼んでくれるもんね?」


 立ち上がって六十サリングを渡すと、恐る恐るといった様子で少女は尋ねてきた。


 何を言っているんだ、この子は。そんなこと言わなくてもわかるだろうに。


「よく話す顔見知りだと思っているよ。エステルハージさん」

「これ、これあげるから! 友達でいてよぉ!!」


 両手で受け取った金を、そのまま突き出して懇願してくるノーラ。


 王女様の言葉、聞いてなかったのか?


「それで。王女様は、なんであんなところに?」

「噂聞いて、探しに回ってただけだよん」


 なんだい、それは。もう少しまともな回答が返ってくるかと思ったが。

 満足気に腕を組んでいる令嬢の撒いた種を、彼女も植え付けられたのか。


「ふふん、私の策が見事にはまったようね」

「ね、ねえリュソーさん! 友達だよね!? 友達って言ってぇぇ!」


 自慢げにするセレヴィーナ嬢には、少々腹が立つな。だがまぁ、ノーラの鳴き声の所為か皮肉を言う気力も削がれた。


 たまには、負けておくことも大切か。私の増長が招いた要因だからね。


「で、殿下は私の友達、ですよね?」

「え? ノーラ違うの? わたしはそう思ってたんだけどな。悲しいよ」

「友達! 友人ですよね! 私は信じていました!」


 第一王女の返答に抱きつきにいこうとした少女、世話係が間に割り込んだ。

 ノーラは腕を回した相手を見上げて、プルプルと震え出した。殺気にも似た冷淡な瞳に、縮こまるように。


 この子は、いつ見ても飽きないな。




 それにしても、王女様は相変わらず予測ができないな……今度は彼女を占ってみようかな。



 どんな結果が出るだろう、少なからず興味がある。






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