第七話 「占い師」
※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります
閲覧の際には、上記の旨をご理解のうえ、読欲をお満たしください。
いつの世も、人は他人の声を探す。
たわいのない会話をもって、他者との繋がりを求める。そこに需要を見出すのは、どの業種にしても例外はない。
特に、予言や助言を求めるのはこの商売ならではだ。
「ありがとうございました! これで期限までに間に合います!」
「お役に立てて良かったです」
教材を抱え込むようにして、そそくさと扉から出ていった女子生徒を見送り、丸机の上に置かれたものへ私は手を伸ばした。
紋章や王冠、何代目かの君主の横顔が彫られている硬貨は合計で八サリング。これだけで、平均的な労働者なら三日分、最低賃金の労働者ならば一週間相当の給料に値する。
たかが一単位の、それも数ある評価要因の一つでしかない課題の提出のために、庶民が汗水垂らして稼ぐ額をここの生徒は容易に支払う。
日用品を購入するように躊躇いが無い。ザックスファードに通っている生徒なだけに一般人とは金銭感覚が大いに乖離している。
だからこそ、私が稼げているんだがな。
「次の方、どうぞ」
王立ザックスファード大学の敷地には、中央本館から少し距離を隔てたところに大学公認のクラブハウスがある。
旧備品庫として存在しているこの部屋には、簡素な丸机と椅子が数個ほど残されている。大部分は新しくできた備品庫に移っており、平時はそうそう人が来ない。
ゆえに、拠点の一つとして活用させてもらっている。
「よろしくお願いします」
入室してきた体格の良い男子生徒は、少々の警戒を瞳に滲ませて腰を下ろした。
ヴェールや頭巾を用いて素顔を隠し、全身をすっぽりと覆うローブ姿の私は、そりゃあ怪訝な目で見られて当然だ。一度目の利用者には大体同じような反応をされるから慣れっこだ。
「貴方のことは何とお呼びすればよいのですか?」
「占い師、で構いません。一応はブソコーと名乗っています」
アルカンジュ家の令嬢たる私は、今はブソコー・ソルグリッソという占い師だ。
金に困っているわけではない。この国での後々の商売に向けて、将来的な顧客の雰囲気を肌感覚で知っておきたかった。西方とは風土も文化も異なるここでは、客とのやり取りひとつとっても変わってくる。
「ブソコー?」
「テキトーに付けた偽名なので、お気になさらず。貴方の欲していることは別にありましょう?」
「それは、そうですね」
口調は丁寧な物言いを意識しており、声は通常より低くしている。今のところはこれといった問題はない。だが、もうそろそろ変声機を導入してみてもいいかもしれない。正体がバレて教員などに目をつけられると色々と面倒だ。
まだ黎明期にある分野の機器だが、使用してみないことには何とも言えないしな。今度市街を回って物色してみるとしよう。
「さて、ご用件は?」
「ええと、」
始めたばかりの頃は、学生寮の空き室などを利用していたが、最近はもっぱら大学内で活動している。ここ以外にも、図書館の書庫の奥や使用されていない階段下のスペース、特定の学部棟の最上階に、ほとんど使われない小部屋など人目につかない場所を日によって移動している。
「卒業後の進路について、私は、」
悩みのない人間はいない……例外もいるが。この国の王女とか、第一王女殿下とか。
とりあえずやってみると、想定より早く軌道に乗っている。活動範囲は大学内に留め、学業から日々の悩みまで幅広い相談を受け付けているぐらいだが、最近は連日のように客が来る。
宿題が終わらない、隣の席の子が冷たい、恋文の返事が来ない。学生の素朴な問題ばかりで退屈を誘われる面もある。とはいえ、手を抜くつもりはない。こういったところから潜在的な需要の発掘に繋がるのだから。それに、上流階級の人間を把握しておくのにこの商売はそれなりに便利だ。
「~~ということでして。父からは既に了承を得ているのですが、」
見栄えとしてタロットや星占いは披露するが、形だけで本格的な占術はしていない。こういうのは雰囲気さえ構築してしまえば案外なんとかなる。
「今になって少しばかり早計だったのかな、と思いまして」
王都に限れば、有名から駆け出しまで占い師はそれなりに居る。最近では魔法を用いたパフォーマンスに偏重した者や、サーカス団に雇用される者まで出てきたという。
宣伝に力を注ぐ者も少なくないが、私はしていない。起業者は私で従業員も私しかいないからね。
「そうなのですね。ふむふむ、なるほど~」
目の前の男子は、簡潔に言えば実家を継ぐことに不安を覚えているそうだ。それほど深刻に捉えているわけではなく、『少し聞いてみよう』ぐらいの感覚だろう。
それほど期待を寄せられない方が、こっちとしてもやりやすい。
「それでは、占ってみましょうか」
タロットカードを取り出し、全体をよく混ぜる。
混ぜ終わったカードの山を、向かいの男子生徒に数回ほど分けてもらう。
そして、山の中からカードを引いてもらう。
「はい、出ましたね」
星のカード、正位置。なんだっけな、このカード。確か…………まあいいか、テキトーで。
「これによると、心配は杞憂だと示しています。まずは焦らず、自分を信じることが大切です。少し立ち止まって、本当にやりたいことや理想を再確認してみると、おのずと未来は開けてくるでしょう」
「…………ありがとうございます。なんだか自信が持てました」
人生相談なんてものは、それっぽい前向きな言葉を掛けてやれば大抵満足してくれる。相手の欲している言葉をどのようにして汲み取って返すかが重要だが、商売人としての嗅覚が備わっている私には容易い。
話し相手の顔色や口調、態度や挙動などを読み取れば、大概は上手くいくんだ。
一人につき大体十分から十五分程度。訪問者はおおよそ十人前後で、それなりに稼がせてもらっている。
基本的には、どのような相手であれ値段は一律にしている。偶に私の気分で増減したりする。
内容は、大まかに三つに分けられる。
将来の不安や現状の不満に関する、人生相談。
講義における課題提出や日々の勉強など、学業面。
色恋や家族友人との距離感といった、人間関係。
立ち上がり会釈して去っていった男子生徒は、人生相談だった。
「次の方ー」
「は~い、よろしくお願いしま~す」
甘ったるい声音で紙を差し出してくる女子生徒。予約してくれた客だ。
常連であり、これまでも何度か話している。
「今日も来てくれたのですね」
「だ~って、ここに来た方が早く終わるから~」
こういった客には、あらかじめ一枚の紙を渡している。端的に言えば事前記入書だ。
毎回内容を聞いてから答えるのは時間がかかる。前もって相談事を記述してもらい、それを前提に話を展開する。
裏では他人の陰口で友人と盛り上がっていそうなこの女子生徒を例にすると。
【学業:授業で提出する論文の書き方が分かりません。先生に相談すると怒られます】
講義名や文の内容は大雑把ながらも記述されており、私はここから読み解いていく。
これは……揚力を制御する魔法の式だな。私の専攻ではないから計算式や用語は分からないが、着目すべきはそこではない。
「構文とか意味わからなくて~~」
両眼に魔力を集めて紙を一瞥し、得意気に笑む。
「……書き方が分からないとありますが、本当は『怒られるのが怖い』ではありませんか?」
それまでニコニコ顔を張り付けていた相談者は、途端に顔を赤らめてそっぽを向いた。
「は~~あ。何で、言い当ててくれるんですか」
私が着実に客を増やしている要因はこれだ。対人経験とともに【破見】を用いている。
本来の用途は、商談時における遠回しの文言や隠された落とし穴を見極める魔法だったが、普段使いも可能だ。こうして紙に書かせてきたのは、相談者の真意を浮き彫りにするため。
「あの先生、私に目をつけてるんですよ~」
目の前の女子生徒のように、全員が全員、素直に記述してくるわけではない。そこを見抜いて相手に動揺と期待を持たせるのが腕の見せ所だ。
魔法を通して浮きあがってきた言葉に、推論を交えて言い当てるようにして告げる。高確率で相談者は驚愕と警戒、そして信用の念を抱くようになる。
「私のために~なんて言ってるけど、ストレスを私に当ててるだけ…………気持ち悪い、きもちわるい。ほーんと、キーモチーワルーイ」
口では言いつつも、にやけているじゃないか。まぁ、それもそうだろうな。彼女は、その教師と婚約しているのだから。
以前、彼女に恋愛相談を持ち込まれたときに私が見抜いた。動揺のままにボロボロと白状していく女子生徒はそれなりに面白かったな。
関係性は公言していないらしく、当人たち以外には私しか知らないだろう。
「素直になられては? 貴方に相談されれば、彼も喜んで教えてくれると思いますよ」
「べっつに~、そういうんじゃないけど~~……たまには見返したいじゃない?」
この少女の動機は手に取るようにわかる。要は婚約者に幻滅されたくないんだ。
「貴方がすべきことは、論文の構文よりもまず教師の好む引用を入れておくことでしょう」
「ありがと~」
女子生徒はスッキリとした顔つきで帰っていった。慕っている男性のもとへこれから向かうのかもしれない。
このような学業関連の相談が最も楽だ。教師の意図を含ませた文章に指差して『ここの文書と構文に着目してみましょう、何か隠されているかもしれません』などと伝える。
前提として、講義を受けていた相談者の方が授業理解度は高いのだから、私は解答へのきっかけになる箇所を見つけさせれば事足りる。この大学は学生の性質からして大半は優秀な者ばかりだ。
今の女子みたく本心を隠して記入してくる者は多いが、中には素直に書いてくる学生もいる。
そのときは別段気にすることなく相談内容に当たればよく、こっちも楽だ。わざわざ破見を使わなくて済むのだからな。
私の客にはリピーターが多い。新規開拓なんて自分からせずとも、噂を聞きつけた生徒がじわじわと増えていく。
【人間関係:気になるあの子】
『隣の席の人が可愛いです。どうすれば仲良くなれますか?』
「お菓子はどうでしょう? ソルハイト東店のラッペンチョコレートなら効果もあるかと」
「ありがとうございます! 本物の占い師だ!」
……いや、常識だと思うが。
感激した男子生徒は、大喜びで扉を出ていった。
そして、少しの休憩を挟んでいると、閉めていた備品庫の扉がそーっと静かに開いた。
「あ、あの! ここに来れば願いを叶えてくれると聞いたのですが!」
入室してきたのは、一人の同級生。
青みがかった黒髪は肩にかかるほどの長さで切り揃えられており、天の瞬きを反射する湖畔のような水色の瞳をした少女だ。
私の顔見知りであり共通の友人もいる。この国において多大な影響力を持つ問題児とはまた別方面のトラブル性質を備えている少女。令嬢らしからぬ令嬢。
ノーラ=エステルハージが、若干の緊張を頬に纏わせていた。
これはまた、上客になりそうな人物が来てくれたな。




