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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第六話  「組織の名は」(4)

 


「アメリア様ばぁんざぁい!! 第一王女殿下に栄光あれぇぇ!!」



 魔力を迸らせる拳を、私は再三にわたって突き上げた。

 勝鬨のごとく呼応する眼前の人々は、もはや騎士団のように錯覚してくるものだった。


「エレクトラさんは熱量が凄まじいですなぁ」

「幹部候補としても申し分ない気迫だよね」

「儂らもうかうかしてはおられぬようじゃ」

「何を言いますか。皆さんのアメリア様に対する想いも見て取れました」


 褒めたたえてくれるコロさんにニュートさんにグラさん。彼らも、同志の名に恥じない並々ならぬ気を拳に纏わせていた。



 ……この集団は革命の発端ではないな。一周目における地下水路は、大勢が一堂に会する場所ではなかった。布で防げる程度の環境ではなかった。



 アメリア様の素晴らしさ、偉大性から卓越性まで理解している者ばかりだ。


 アメリア様に良からぬ下心を抱く奴がいれば排除するつもりだったが、不純な動機を持つ者は見当たらない。皆が皆、直属の家臣のような精神性を根底に宿している。



 そうだ。こんなに良い人たちが、愚かな行為に走るとは思えない!


 彼らには、私の正体は明かせないな。世話係などと知れ渡れば、嫉妬が興じて彼らとの絆が途絶えてしまいそうだ。

 いや、待て待て。絆なんてものは感じていない……そう、せいぜい同志としての結束ぐらいだ。


「皆さんも随分と仲を深められたそうですね」

「Dさん……貴方のおかげで私は理想郷に辿り着けました。感謝を申し上げます」

「いえ、エレクトラさんほどの方であれば、いずれ出会えたことでしょう。これはアメリア様のお導きなのです」

「……はい!」


 何て良い人なんだ、Dさん。それに他の三名にリーダーのコアンさんまで。このような湿気の滞留する地下でなくとも、王都の中心で活動すればいいと思うのだが。


「それにしても、アメリア様って本当に素晴らしい御方ね」

「まるで天から遣わされた、この世を平定するために生を受けたような方だ」

「儂らは今、幸福な時代を過ごせているのじゃな。先にも後にも、これほど恵まれた時代などありはせぬ」


 わかる。その通り。凄くわかるぞ。お三方の言葉には一言一句同意する。正史では王国が滅んでしまったが。


「泥を厭わず、束縛を嫌い、己が信念を貫かれる。あの方は、既に王の資質を備えられております」

「Dさん、貴方と出会えたことが、今日の何よりの幸運でした」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 彼女だけではない。ここに集いし人々は、全員が話のわかる人ばかり。

 こんな人たちを疑っていたとは、私の眼も鈍っているな。

 理想郷は、確かにあったのだ。



「欲を申せばお近づきになりたいものじゃが、儂のような身分ではな。無論、常の言動から見て取るに分け隔てなく接してくださる方だとは思うておるが」

「何をおっしゃいます。我らは雑草。あの方はこの天井よりも高く尊き存在であるからこそ」

「それに私達が近づけなくても、あの人は御自ら手を差し伸べ、それで手を振ってくれるよ」


 その通り。一言一句同意する。誠なる共感をお三方にも捧げよう。それとグラさん、臆面もなく言えばアメリア様はへりくだられるより対等を好まれますよ。


「一度でいいから、アメリア様のお付きになってみたいなぁ。あの人に仕えられる方は、どれほどの幸せを享受しているんだろう」


 私、私です。正体を明かせず申し訳ないコロさん。とても幸福にございます。


「そういえば、アメリア様に仕えられている世話係の女性、本日はお見受けしませんでしたな」

「あの佇まいの美しい人? あの人綺麗よね」


 ……そうか、私は綺麗か、ふっふっふ。


「確か、ハルデン家のご子息が隣で話していたわね」

「おお、あの少年、いや青年か。彼は貴族とは思えぬ人格者でありますぞ」

「使用人からも慕われているようじゃ。見た目からして温和そうな方じゃからな」

「可愛らしい顔立ちをされていますよね」


 ふむ。この人達にもアーク君の良さは伝わっているようだ。

 信用に値する数少ない貴族だからな彼は。


 常々考えていたことだが、模範的貴族というなら、アーク君こそ私は相応しいと思う。


「彼の婚約者であるガーウェンディッシュの令嬢もまた、同様に評価されるべきでしょうな」

「同意するのじゃ。かの女性は、模範的の言葉に恥じない振る舞いをされておられる」


 チッ、あの女もか。

 ニュート殿にグラさん、あのような者に騙されてはいけない。腹の底では何を考えているのかわからないのだから。


「お二人とも、理想的な婚約者ですね」


 ……Dさん、それには同意しかねる。好青年にあの女はもったいない気がしてならない。

 もっと良い女性がいるはずだ……そう、それこそ、アメリア様に相応しいのはアーク君だと思う。

 やはり、ガーウェンディッシュは消すべきだろうか。


「本日はありがとうございました、エレクトラさん」

「コアンさん、私も嬉しかったです。今まで、この想いを共有できる人は少なかったですから」

「そうです。そうなのです。王女殿下への敬意を口にしただけで、ここの方々は、私含めて敬遠された過去があります。嘆かわしいことです」


 そうか、ここの方々は。皆、畏敬尊敬敬意称賛を口にしただけで遠巻きにされ、まるで異端かのように扱われてきたのか。


「もどかしいですよね。この国の誰よりも民の事を思われておられる方を支持して何故爪弾きにされてしまうのか」

「全くもってエレクトラさんの言う通り……ですが、それが万人の認識なのでしょう。偉人とは後世にて評価が下されるもの。その偉大さを見出せる者はいつの時代も少数派だ」

「アメリア王女殿下を讃えることの、何がおかしいのでしょう、王国に住まう者としては当然の在り方だと私は常々思います」

「そう! 私たちは皆、歯痒く辛い日々を過ごしてきました。しかし、内なる信念は……こうして結集しました。この集団を、この場を、制限できる者はいない。何者にも、壊せはしないのです」


 噛みしめるように告げるコアンさんに、私はフードの奥で微笑みを浮かべ、冷や汗を一滴ほど内心に落とした。


 すみません、取り締まるつもりで来ていました。武力も辞さないつもりでした。

 そんなことにならなかったので、心の底から良かったと思います。



「新参者として恐縮ですが、情報管理はもう少し意識されてみては? 彼女、私に明け透けに言っていましたよ」


 耳打ちするように彼へ近づき、私を連れてきたDさんに視線を向けて、こそっと告げる。コアンさんは、なんてことないといったように返答した。


「ああ、ご心配なく。彼女、人を見抜くのは得意なので」

「そういう問題ですか?」

「とは言われましても。これまで特に支障もありませんでしたから」


 私が容易に潜入できてしまっているのですが。いやまあ、私も志を共にする人間だったからいものの。

 何か、Dさんには他人を看破するような能力、魔法でも備わっているのか。


 そうだ、それよりも聞いておくべきことがある。


「公的機関に今まで一度も目をつけられなかったのですか? 集会行為に該当してしまいそうな気もするのですが」

「特には。仮に警察に睨まれようとも、どのようにして罰せられるでしょうか。私達は王族へ忠誠を捧げているだけなのですから」


 それは、そうだが。王国内で王家の人間を敬慕することは何らおかしなことではない。


 とはいえだ。この集会は果たして取り締まりの対象になるのだろうか。


 王女への礼賛は、通常は体制支持と見なされて問題にはならない。仮に、アメリア様が現国王陛下と政治的に対立している場合や、集会の内容が陛下や政府に対する非難を含むと疑われた場合は、政治的中立性の観点から集会条例違反で取り締まられる可能性がある。この点においては怯える必要はないだろう。


 ただ、『地下で活動している』という点から警察や公的機関の監視対象になるリスクは少なからずある。秘密主義は社会秩序を乱す陰謀の温床と見なされがちだからだ。


 現状では取り締まられる可能性は僅かだろう。警察が積極的に家宅捜索や検挙に乗り出すとは考えづらい。実害が出ているわけでもないのだから。


 念のため、確認はしておくか。


「差し出がましいですが……正式な許可を取って公に活動されても良いのでは? 他者に迷惑をかけているわけでもないのですから」

「何度も申請しましたが、『異常者集団』だの言われて門前払いに終わっています」

「何ですかそれは。あまりにひどい対応です」


 その窓口の者こそ、アメリア様への不敬だろう。


 私の権限でそいつを排除するか無理やりにでも許可を…………職権乱用になるな。

 この組織では素性を隠した上での接触が大前提だ。下手に正体を明かすわけにもいかない。

 くそ、もどかしい。


 そうだ、何より聞いておくべきことがあった。


「今更ですが、名前は無いのですか?」

「あー……そのことなのですが、」


 すると、Dさんが割り込むようにして答えてくれた。


「色々考えたのですが、これといったものがなくて」

「候補もなく?」

「案は沢山出ました。【至上の存在を奉る裏結社】、【最高の王女に忠誠を捧げる連盟】、【太陽に首を垂れる麦畑隊】、【覇王アメリア様に命を尽くす会】など。ですが、ピタッとハマる名前がなくて」

「どれも良い、ですが」


 アメリア様を讃えるにはまだまだ長さが足りないが、長名だとかえって覚えづらいな。もう少し短くした方が良いだろう……口にしやすく、憶えやすく。三~五文字程度の頭文字で構成してみる、というのは。


「…………ただの一案としてですが。APOというのはどうでしょう?」


「A?」

「P?」

「O?」


 コアンさん、Dさん、コロさんが首をかしげ、ニュートさんやグラさんも同じようにしていると、周囲の人たちも話に加わってきた。


 これだけでは意味が伝わらないことは、わかっている。


「アメリア礼賛団体、Ameria Praise Organization。その頭文字で構成したものです」

「「「…………」」」


 水滴の落ちる音が、空間に響いた。


 そして、歓声が上がった。


「天才だ!」

「素晴らしい!」

「憶えやすい! 言いやすい!」

「エレクトラ殿。貴方は誠に尊敬に値する人物だ」

「じゃ、じゃが。敬称は必要ではないのかえ?」


 グラさんの疑問も当然だ。補足説明は欠かさないと。


「私もそう考えました。ですが、あの方は常日頃からこうおっしゃっているそうです。『敬称なんていらない』と」

「あ、私も聞いたことあります!」

「そういえば、ガーウェンディッシュの令嬢も、度々呼び捨てていましたな」

「ハルデン家の令息様も呼び捨てじゃった! この耳でしかと聞きましたのじゃ!」

「そうか、だからこその敬称の排除なんですね!」


 段々と彼らの声にも熱が帯びてきていた。


「天才じゃ!」

「素晴らしい! 素晴らしいですよ、これは!!」

「すごい発想力だねエレクトラさん!!」

「そんな、そんな。ただパッと浮かんできただけでして」


 ……私、泣いてもいいだろうか。滅茶苦茶に嬉しい。まさかこれほど歓待されるとは思いもよらなかった。


 実は、私が書き溜めている日記帳に温めていた名前だった。

 この名を冠した部隊を編成し組織出来たらいいな、と妄想から生まれ出たもので戯れに綴っていたのだが、次第に熟考を重ねていき、一ページ全部にアイデアを書き尽くした。

 そこから最もしっくりくる案を口にしたのだ。


 くぅぅぅぅぅぅ、うれっっしいいい!! 


「APO、これだけなら、たとえ誰かに勘繰られようと誤魔化せる!」

「その言い方ですと、何かやましいことをしているように聞こえますが」

「エレクトラさん、是非とも貴方にお願いしたい」


 コアンさんに勧められて、照れ臭さを覚えつつ私はローブ集団を見渡した。


 顔も性別も、年齢も定かではない異様な出で立ち。

 しかしながら、彼らと私の想いは、同じだ。



 掌に、ぐぐっと力を込める。


 そして、飛び上がるように。


 拳を突き上げた。



「APOの……幕開けです!」



「「「A・P・O!! A・P・O!!! A・P・O!!!!」」」




 今日一番の喝采が、熱量が、地下空間を揺らしていた。






 *






「それでねー。アークがちゃちゃっとやってくれて。ジャミが大変なことになって、」

「アーク君は、そんなことを」


 大反響の末に解散した後、私はスキップするように王都を駆け抜け、王城に帰ってきた。


 その後、ほどなくしてアメリア様もご帰還された。


 現在、私室で彼女の髪を梳いている。



 瑞々しい農産物のごとく厚みがありながらも、指を通せば何にも引っかからず、水が流れ落ちるように指間をすり抜けていく。しっとりとまとまる毛先を確かめると、日頃の献身が実感を伴って返ってくるようだった。


「それは、楽しい一日を送られましたね」


 アメリア様は今日一日を振り返るように語った。

 飾り気のない口調にもかかわらず、情景がありありと浮かぶようだった。


 私の代わりに派遣された者たちとアーク君との充実したひと時を過ごされ、道中で出会った南の留学生との遭遇、そして舞い降りてきた事件への奮闘…………アメリア様の日常は、今日も守られた。


 私が地下で音頭を取っている間に、地上ではそれなりの騒動が起こっていた。アメリア様が渦中に居合わせたため被害は最小限に収められたという。唯一無二の我が主は、今日も民のために才覚を振るわれたそうだ。


 アーク君も依頼を十分に果たしてくれたらしい。報酬は存分に払わせてもらおう。


「うん! それで、エルミナは?」


 髪の間に通していた指が、ふいに止まる。


「私、ですか?」

「良いことあったでしょ?」

「そう、見えますか?」

「うん」


 私は、どこかニヤついていただろうか。もしくは声色が普段より弾んでいたか。


 薄く笑むように、瞼を閉じた。


「そうですね、良いことがありました」

「どんなこと?」

「良いことです」

「ええー、わたしにも教えてよ!」

「いずれ、お伝えいたします」


 想像を大きく超えていた。良い意味で裏切られるほど、彼らは健全な活動をしていた。


 その日ごとに集まった人数だけで語り合う集団。会話には偶に労働環境の愚痴を漏らしていた。これだけ聞けば、酒場でとりとめのない話を展開しているようだ。半ば寄合所だな。



 今日の集会は突発的なものだったらしく、普段は早朝や夜間に集っているという。

 毎回出席したいものだ。アメリア様の素晴らしさを滔々と語り合いたい。

 世話係としての視点は一切漏らさないよう心掛け、公になっている事柄を中心に展開する。

 アメリア様は話題に事欠かない方だ。多少の制限を己に課したところで差し障りは無い。


 参加だけを目的にはしない。世に忍んで活動しているのがAPOの現状のため、監視及び舵取りもしていけるようにならなくては。こういった集団は、ふとした契機で誤った方角へ転がる危険性を孕んでいる。これから規模を拡大していくとなればなおのこと、私は組織内での発言権を高めておいた方がいい。




「ふーん。絶対だよ」


 焦らすように告げた私に、アメリア様は若干拗ねたように顔を背ける。可愛い。

 私としても教えてあげたいが、後々を考慮すると機会は吟味した方がいい。崇拝の対象を考え無しに連れて行ってしまえば……万が一にでも素顔が露呈したら、場は騒然となる。


 APOのメンバーが失礼を働くとは思えない。しかし、気絶者が出てくるかもしれない。


 侍従として、また組織の一構成員として、調整には最大限の注意を払わなければ。



 しかし、楽しいな。まさか自分が、あのような団体に属することになるとは。丁度良い機会だ、友人の一人や二人は得られるだろう。


 アメリア様はそのことを憂慮されていたからな……私はそれほど必要とはしていないのだが。



 ……友人、友達か。


 アメリア様を介した者は多いが、果たして親しい仲と言える者はどれだけいるのか。



 アーク君は同級生だが、友と呼ぶには少々の違和感を覚えるな。

 それ以外は……どれも知り合い程度の間柄だな。中には嫌悪を催す奴もちらほら。


 侍女仲間もいない、王城に勤める者達はあくまでも仕事の同僚だ。


 ……ま、まあ気にすることでもない。私はアメリア様に身も心も捧げた身だ。

 それに、作ろうと思えばいつでもできるはずだ。



 何はともあれ、次のAPOの集会が楽しみだ。




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