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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第六話  「組織の名は」

※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります


 



 王都といえども、人の寄り付かない場所はある。旧市街の北端には錆びた心臓と呼ばれる魔導動力炉の残骸。南端の貧民街外れにある霧の墓場。そして、私が足を踏み入れる地下水路だ。


 都市の生活排水は、浄化作用を持つ特殊な鉱石を通して排出される。その廃石や汚泥が溜まるこの場所は、淀んだ魔力が瘴気のように強烈だ。防護魔法なしに長く留まれば、吐き気を催すほど体調に異変が起こる。まともな人間は作業員すら寄り付かず、人の手を離れた邸宅のごとく老朽化が進み廃墟も同然だ。


 数か月前までは、そのような認識だった。



「……問題なし」


 都市の西端にある、人の手を離れた石階段を降りきると、身体に纏わりつくような重たい湿気が私を迎えた。汚水と苔と石灰の混じった土の臭いが鼻を衝く。


 頭上を見上げると、低く連なる石造りのアーチが目に入る。堅牢だが、圧迫感がある。古い蒸気パイプなのか、魔法的な動力炉からのものか、煤けた真鍮の管が天井近くを複雑に絡み合って走っていた。壁には等間隔で黒く錆びた鉄のフックが打ち込まれており、そこに油の染みたランタンが吊るされている。場所によっては、青白く光る粘菌のようなものが見え、それが僅かな燐光となって足元を照らしている。


 足下を流れる水路は、場所によって深さが違う。石畳が水没しているところもあれば、人の背丈ほどの煉瓦の壁に挟まれ、水が轟々と流れる箇所もある。壁面には、何百年も前のものかと思える儀式的な封印のような跡とは別に、荒っぽい手つきで描かれた落書きのようなものが刻まれている。



「見つかればいいが」


 王城で耳にした情報が、私をこの迷宮へ連れてきた。『アメリア様に関した集会を行っている者達がいる』と。真偽を調べるべく世話係および学生の本分を本日は休暇とした。


 主人の敵対勢力が、王都の地下に潜んでいるとなれば無関心ではいられない。足元で燻る火種は早急に対処した方がいい。まだ可能性の段階ではあるが、実在を前提に捜索した方がいい。不穏分子は早期発見の後に排除だ。



 私の代わりに派遣されている者達だけでは一抹の不安があった。だが、アーク君に任せておけば何とか対応してくれるだろう。手加減をしていたとはいえ、彼は私に一撃を与えた。自らを犠牲にしてまで目的を達成しようとする姿勢は、信頼に値する。


 ただの手合わせであれほどの気迫を見せてくれるとは思いもしなかった。まさか……ガーウェンディッシュとの修練は日常的に熾烈なのか。異様な成長速度にも納得はいが、それほどまでに追い込むのは何故だ。そういう癖……なのだろうか。二人して? 



 現在時刻は昼時のころ。アメリア様は今頃楽しそうに食事を取られておいでだろう。育ち盛りらしく口いっぱいに頬張る姿を想像すれば、温かな気持ちが胸に広がる。しかし、浸っている場合でもない。



 これは勅命ではなく任務でもない。私個人が独断で行動している。何かしらの成果は持ち帰りたいものだ。


 装いも相応にしている。常の制服ではなく市民街で購入した安物の服に、全身を覆い隠すかのような黒のローブ姿だ。組織の尻尾を掴めれば良し、万が一、不覚にも囲まれるようなことになろうと問題は無い。ただ武力で制圧するだけだ。肝心なのは、そもそも尻尾を掴めるのかどうか。


 たとえ今日一日で発見できなかったとしても何度だって試みるつもりではある。


 改まって、決意を胸に刻んでいた時だった。足音が背後から落ちてきた。


「初めての方、ですか」


 声に、振り返る。


 そこには、私と同様、全身をローブで覆った者がいた。ただし、私が黒なのに対して相手はくすんだ白だ。フードを目深に被っており、かつ口元を質素なスカーフで隠している。


 何者だ、などと困惑はしない。ただ、遭遇するにはあまりに早すぎないか。


「ええ、初めてです」


 平静に努めて返し、一瞥する。辛うじて見えるのは鼻と頬ぐらいで、これでは性別も年齢も分からない。相手は私の口元が見えるぐらいだろう。視覚情報にさほどの差はない。


「実に喜ばしい。また、一人の同志と出会えました。この巡り合わせに、感謝いたします」


 祈りを捧げるかのごとく両手を重ねる彼、または彼女の声音に眉を顰める。覇気のこもった男のように聞こえれば、しわがれた老人のようにも聞こえてくる。一言ごとに人格が入れ替わっているようでいて、耳穴に不快感が募る。


 何だ、この者は。いや、どこか機械じみた声をしている。これは、もしや。


「こちら、お使いください。未使用です」


 私の怪訝な目つきに当の本人は意に介さず、ローブの隙間から腕を伸ばしてきた。手の上には革製の紐で括られた首飾り。親指ほどの魔石が装飾としてぶら下がっていた。

 警戒を前面に醸し出しながら受け取る。


 逆さの台形に加工された石は、見覚えがあった。確か、一時期王都で騒動になった【スイッチボイス】と呼ばれる魔導具だ。『理想の声を手に入れる』という謳い文句とともに出回っていた。


 実態は、出鱈目な構文の魔方式が刻まれた商品であり、身に着けて話す度に高低音や雑音が伴い、使用者のみならず対話者すら振り回されるものだった。東から流れてきた粗悪品を、安価で仕入れた商人が誇大販売をしていたという経緯だ。時を置かずしてその商人は牢に叩き込まれた。


「すみません、ローブまでは用意していませんでした。あとは、布でも何でも口元を隠せるものがあればいいかと。そのままでも構いませんが」

「それなら、」


 私は左の袖口を細長く引きちぎり、口元を覆った。そして首飾りを着けると、対話者は驚いたように口元のスカーフに手を当てた。表情が見えないままだが、石像のように静止した。


「まあ、大胆」


 数秒の沈黙の後に、肩を揺らして笑った。声だけならば判断はつかなかったが、口調や挙動からして、女性だとわかる。


 まあ、確かに。少々勢いに任せたな。といっても、このローブは今日で廃棄するつもりだったのだが。


「確認をひとつ。第一王女殿下に関したことで、間違いありませんか?」

「はい。私達は、アメリア王女殿下のために集いし者たちです」


 幸先が良い。まさか、これほど早く出逢えるとは。


 このような場所、身元不詳、同志、巡り合わせ…………疑う余地もない。私の追っていた、存在の不確かだった組織の構成員だ。


 アメリア様のため、か。建前の裏側ではどのような企みを抱いているのか。

 今すぐにでも斬り捨ててしまいたいが、こらえよう。根城までは案内してもらわなくては。


 目的や背後関係を書類にまとめた後で殲滅してやる。私に知られた時点で、組織の命運は尽きたのだから。慢心はしない。出来過ぎているときこそ、慎重に。


「案内をお願いしても? 迷路のようで迷っていまして」

「ええ、もちろんです」


 頷いた彼女に道を譲り、あとをついていく。


 格式を滲ませる口調や態度、振る舞いは意識して抑えておこう。勘繰られると面倒だ。


 私の声音も、一呼吸ごとに変化する。くぐもったような、それでいてかすれるような、自分の声なのにむず痒く感じてくる。慣れるには時間がかかりそうだ。


「ここへの経緯を、お尋ねしても?」


 早速疑ってきたな。


「噂を耳にしました。半信半疑でしたが、本当に存在していたのですね」

「ふふ、貴方は運が良い。いえ、私の運も良かったのでしょうか。新たな同志が集会所に辿り着けない事態を回避できたのですから……皆さんも、快く歓迎してくれると思います」


 雑談もまた、駆け引きだ。こちらの正体を明かさずに、相手の情報を引き出す。迂闊な発言は優位性を損なうものだが、この女性は、全くと言っていいほど気にしていない。


 だからこそ、私の警戒は強まる一方だ。


「皆さん、ということは他にも?」

「本日は十四名が参加します。貴方を含めると、十五になりますね」

「毎回それだけの人数が集まるのですか?」

「残念ながら、十人に満たないときが多いです。都合の合わない方もいらっしゃいますので。しかし、皆さん意欲は高く、週に二度ほど行われる集いのどちらかには必ず参加されますね」


 最低でも二十人、多く見積もっても二十五人といったところか。週二回開催される。曜日は決まっているのだろうか…………不自然なまでに、開示してくれるな。


 鵜呑みにするつもりはないが、ここまで包み隠さないとなると、かえって虚言を弄しているように思えてしまう。彼女の意図が、いまいち読み取れない。


 今ここで出会っただけの人間に対して、あまりに距離の近い接し方だ。この首飾りひとつとっても、不審が目につく。普段から余分に持ち歩いているのか。粗悪品ゆえに壊れやすいとしても、易々と他人に譲り渡せるものなのか。


「この魔石は、身につけていないといけないのでしょうか?」

「申し訳ありませんが、これは参加条件でもありまして。顔を隠しているとはいえ、声で判別が出来てしまうことには。私達は、互いの詮索を禁則としています」

「そういうことでしたら、わかりました」

「私も始めは苦労しましたが、慣れると気楽ですよ」


 なるほど。声質による個人の特定を避けるべくあえて欠陥品を扱っているのか。たとえ街中ですれ違おうと仲間だと気づかれる心配もない。匿名性には特段気を遣っているようだ。こういった者たちは、むしろ積極的に顔を見せ合い結束を高めるようとするものだが。


 しかし、外部の人間を招き入れる際の対策が不十分ではないか。同志を装って潜入する私のような者がいたとして、彼女らはどのようにして判別しているのか。


「貴方を、何とお呼びすればいいのでしょう」

「Dとお呼びください。メンバー全員が、それぞれ自身で決めた呼び名を用いています。本名も当然禁止です」

「……それでしたら、私の事はエレクトラと呼んでください」


 ささっと思いつきを口にしたが、なかなか良いネーミングだ。どうせ一度きりの名なのだから深く考えずともいいだろう。


「その、こういっては何ですが。私のような新参者を案内していいのですか?」


 躊躇いがちに目線を下げ、問いかける。あえて警戒を持たせるような言い方を意識した。相手の反応を見てみたかったのだ。


「問題ありません。貴方は、そういった方ではないようですから」


 こちらを振り向きもせず、平然と答えた。声音や足取りに動揺の色は見て取れない。


「凄い自信ですね。私が危険人物だったら、どうします?」

「警戒よりも融和を。それが理念の一つです。どのような方でも、私達の熱量に感化されますから。たとえどれほどの時がかかろうとも、です」

「なる、ほど」


 曲者と仲間を見分ける手法によほど自信を持っているように見えたが、私は内心で呆れていた。警戒心すら途端に崩れ去りそうだった。


 来る者を拒まないだけか……ふふ、それなら用心などは必要ないな。自宅を訪れた者は、泥棒であろうと室内へ通すのだから。


 鼻で笑われるような自信を見せつけられた。先ほどのメンバー間における情報管理とは落差が激しい。不穏分子が紛れ込もうと、集団の結束は維持できると過信しているのか。楽観的寛容ともいえる。一個人がこの様子では、大した組織ではないのかもしれないな。


「私たちの活動は、罪を犯しているわけではありませんので」

「それなら、安心ですね」


 ぬけぬけとよく言えたものだ。これは疑いようもなく集会行為に当たる。


 集会やデモンストレーションは、ヴァルモン王国において禁止されていない。しかし、あくまでも許可制を前提としている。活動する際には、事前に警察や行政の許可を得ることが義務付けられている。


 地下でコソコソと行っている点から見ても、無許可での活動は疑いようがない。


 国の法規制が特に問題視している要件は、以下の三つ。政治的な目的、公の秩序の破壊、結社の禁止。どれかに抵触すれば、取り締まりの対象だ。


 果たして、どれに該当するのだろうか。


 まあ、なんでもいい。ひと月は様子を窺ったうえで、壊滅までの道を舗装してやろう。自惚れているわけではないが、私一人でも事は終わらせられる。



 こうして私達が難なく地下水路を歩けていられるのも、アメリア様の功績だ。目の前の彼女は、その組織は理解しているのだろうか。あの御方の偉大さを享受していることを自覚しているのか。していようとしていなかろうと構わない。我が主に害する者達は全て排除する。



 水滴の落ちる音、古い換気孔を通り抜ける風の唸りが、私と彼女の間に流れていた。





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