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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第五話  「手合わせと依頼」

※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります


 



「はあぁぁぁあ、もう、まったく。アメリアったら」

「お疲れ様」


 昼休み。平穏な日差しがテーブルを包む中、僕はセレヴィと食事を終えていた。

 何度目になるかわからない小さなため息をつきながら、口元にナプキンを当てていた。



 市販のレモンを魔力操作のみでジュースを精製する講義だったという。各々が評価項目を満たすために精密なコントロールを心掛ける中、アメリアは勢いよく絞り上げて周囲に果汁をまき散らしたらしい。それでいて、散乱したそれらをかき集めるように魔力を通し、評価項目の全てを満たすようになった。



「比較的平和だったんだ」

「そもそも周りに飛び散らせる意味はないのよ」


 確かにそうだ。作れればいいんだから、速度なんて気にすることじゃないし。


「もう少し慎みを持って欲しいわ」


 それはどうだろうね。仮に、アメリアが謙虚だとか遠慮だとか覚えたら、それはもう別人だと思う。僕に限らずセレヴィだって、どう接していいかわからなくなるんじゃないかな。


「午後も小さいトラブルで終わればいいけれど」


 彼女の言葉に、小さく吹き出しそうになる。

 前提がすでにおかしいんだけど、トラブルは避けられないものと考えているあたり、よほどアメリアの行動力に毒されている。


「午後は何を取っているの?」

「今日は午後の授業ないんだ」

「あら、そうだったの? 先に帰宅する?」

「ううん、待っているよ」

「構わないけれど……時間、結構あるわよ?」


 若干遠慮がちに、それでいて嬉しそうに口元を綻ばせた婚約者は、相変わらず所作の全てに完璧と愛嬌の両立する存在だった。


 高名な画家を呼び寄せるべきだよね、やっぱり。華麗なる名声や地位まで含めて、セレヴィの功績を後世に残すべきだと思う。


「大丈夫、これから人と会うから。身体も動かすと思うから」

「へえ、誰と? オルテン?」

「エルミナさん」


 その名を告げた瞬間、セレヴィの表情が固まる。


「…………エルミナさん? え、何で? 二人って接点なんて……まさかまた私に内緒で!!」


 苦笑しながら首を振る。


「いや、違うんだ。昨日の夜に連絡が届いたんだよ。『手合わせを願いたい』って」

「……どういうこと? 手合わせ、って建前じゃないの?」

「それも、会ってみないと分からない」


 セレヴィが戸惑うのも理解できる。何であの人が突然連絡をしてきたのか、僕自身よくわかっていない。


「セーレヴィ! 次の教室行こう!」

「あ、アメリア。いつの間に……ちょ、ちょっと待ちなさい。まだ話を、エルミナさんにだって」


 ひょいっと現れたアメリアは、太陽のように明るい表情なのに突然湧いて出てくる。アメリアがいるということは、当然あの人もいる。話題に挙げていた人が。


 腕を引かれるが抵抗するセレヴィに、エルミナさんは丁寧に頭を下げた。


「それでは、ガーウェンディッシュ様。アメリア様をお願いします」


 一分の隙も無い丁寧な所作で告げられると、セレヴィは渋い顔を浮かべながらも、それ以上の追及を諦めてアメリアに引きずられるように場を後にした。何度も振り返って視線を送ってくるセレヴィに、小さく手を振る。


 不安げなのも可愛いけれど、少しは信用して欲しいな……いや、僕前科あったね。セレヴィを蚊帳の外にしてアメリアと対面したし。後で洗いざらい伝えよう。余計な誤解を生まないために。


 屋内に消えていく彼女たちを見送って、僕は立ち上がった。


「アークシス・ハルデン様。突然のご連絡になり申し訳ございません」


 主が去るのを見届けた後、エルミナさんは恭しく一礼した。


 陰では王国最高の騎士と噂される彼女は、暗灰の瞳をもって僕を見据えてきた。内巻きにウェーブがかった黒髪に、均整の取れた体格。一目見た時から、ただならない人だとは思っていた。


 アメリアに絶対の忠誠を誓う人が、一時とはいえ主の元を離れるなど、本来ならあってはならない。しかし、職務を差し置いてでも時間を作る必要があった。

 覚悟めいた行動には、貴族の端くれとして応える義務がある。


「構いません。それで、手合わせとは、」

「まずは、場所を変えてもよろしいでしょうか。演習場を確保しております」

「わかりました」




 エルミナさんに導かれるまま、魔法訓練用の施設――ドリル・ホールへ。

 数ヶ月前に、アメリアが空へ飛ばした、あの施設だ。


 あの時から特に変化はない。飛行や浮遊魔法などを用いないと届かないほど高い天井に、数個の教室がすっぽりと入りそうな広々とした空間、それでいて支柱の少ない構造は、生徒の魔法訓練に最適だ。


「改まって述べることではありませんが、私はアメリア様の世話係のみならず、護衛の任も兼ねております」

「アメリアについていくには、普通の人では務まりませんから。月並みな言葉ですが、凄いですよね。よほど信頼を寄せられているのだと思います」

「ありがとうございます。あの方は、私の全てと申し上げても過言ではありませんので」


 二十メートルほど隔てて向かい合う。ここには、僕ら以外に人影はない。どの講義でも使用されない空白時間を狙って使用許可を得たのだから。


「貴方の実力を、測らせてください。存分に振るっていただいて構いません」


 僅かに瞼を開いて、エルミナさんは告げた。戦闘態勢といっても、殺気や覇気といった特有の圧は感じられない。背筋を伸ばし、アメリアの背後で口数少なく控えている時と同様の構え。


 それなのに、対峙した時点で勝算は無いと悟った。


「……わかりました」


 実力や経験、他細かな要素を抜き出しても、この人を上回れる点が見当たらない。どれほどの異常気象にも泰然と受け入れる山脈の錯覚を覚える。


 強いて言えば魔力量は優っていそうだけれど、総量の多寡で戦いは決定しない。そもそも、エルミナさんがどれほど保有しているのかわからないのだから。


「ちなみに。私は身体強化が得意です」


 言われずとも、わかっていた。アメリアが引き起こしたあらゆる事件を通して散々見せられた。見せつけられたといってもいい。


「一応、始める前に。理由は聞かない方がいいですか?」

「終わった後に、お伝えするつもりです」


 つもり、とこの人は口にした。


 つまり、試されるということ。力量を見極められる以上の何か、その先の目的を教えてもらうには、彼女の評価基準を満たさなければならないらしい。


 通常の試験の何倍も緊張が漂う心地になる。


「……お眼鏡にかなうよう、頑張ります」


 意識的に呼吸を整えなくては。

 諸々の疑問は、一旦置いておこう。


 この人の素性は、あまり知らない。けれど、前々から興味はあった。


 戦闘における強者との差はどれほどあるのか。一年以上鍛錬を欠かさなかった自負を携えて現在の立ち位置を確かめておきたい、好奇心にも似た動機が内々に燻っていた。


 それに、彼女の誘いに応じたのは打算だって少なからずある。

 僕とセレヴィが打ち立てた生存計画には、アメリアだけではない、この人の協力だって必要になる。この数か月を経て更に強く感じていた。


 ここで全力を出さなくては、何かしらの信頼を損ねる。失ってしまう。それは避けたい。


「私からも一つ。こういったことは普段からされていらっしゃいますか?」

「セレヴィとしています。ここ最近は負けてばっかりですけど」


 一年以上、婚約者と切磋琢磨してきた。魔法を撃ち合い防ぎ合い。思考を巡らせ判断の瞬発力を研ぎ澄まし。こういった模擬試合は、両家の演習場で何度もしてきた。


 白状すれば、最近どころかここ半年は負け越している。始めは僕の方が戦績は良かったけれど、潜在能力が開花したセレヴィに追い抜かれていった。


 元々の血筋を鑑みても、よほどの才能が眠っていたんだと思う。だとしても異常な成長速度なんだけどね。一般市民は二つや三つ、大学の学生は十個ほど。先生たちだって得意と言える魔法は十五ぐらいが限界なのに、セレヴィは二十を扱える。しかも、いずれも高度な域まで鍛えている。


 歴代のガーウェンディッシュ家において最高と評されるセレヴィは、可愛いだけじゃない。

 強く気高く、恰好良い。


 だからこそ、負けてはいられない。


「お願いします」


 上着を脱ぎ向き合う。深呼吸して、見据える。



 一瞬の沈黙が、大気を支配した。硬質な床や支柱の呼吸が、聞こえてくるようだった。



 体内の魔力に意識を向ける。丹田を中心に全身を循環しているエネルギーを知覚する。

 銃身に見立てて突き出した右手には、深紫の香油を溶かしたような魔力が纏われていった。


 出し惜しみなんてしない。していられない。


「重力の縛鎖(グラビティ・シャックル)


 照準を合わせて、放つ。


 対峙者周辺の空間が歪み、建物の軋む音が響く。

 地中から飛び出てきた鎖に手足を巻きつけられるように、生身のエルミナさんはその場に縫い留められていた。どころか、片膝をついた。巨大な鍋蓋で抑えつけられるように、その肉体には負荷がかかっていた。


 普段は冷淡にさえ見える表情が、わずかに変化が生じていた。唇をわずかに引き結び、目を微かに見開き。驚愕にも似た顔を浮かべていた。



 何で、地面に倒れないんだ。


 焦燥に駆られたのは僕の方だった。


 重力魔法は、効果が目に見えて現れる魔法だ。使用する際は、パターンが二つ。パンにジャムを塗るように薄く広げて満遍なく負荷をかけるか、岩を一点に積み上げるように狭く濃く発動するか。


 広範囲にすれば一箇所にかかる加重は薄くなるが、ドリル・ホールの半分を覆える。範囲を限定して質を高めれば、指定した場所へ注がれる力は強くなる。


 今は後者だ。瞬間的に発揮できる全力を、一点に集中させている。こねていたパン生地に全体重を乗せて押し込むように。発動前に対象者の身体を心配したが、あまりに甘かった。杞憂などといった表現すら憚れる。




「失礼いたしました。これほどとは思いもよらず」


 何で、平然と口を開けるんだ。


 彼女は、倒れない。それどころか、目線を上げて薄く笑みを浮かべた。



「敬意を表させていただきます」


 称賛と同時に、エルミナさんの全身から魔力が迸った。まるで、王家の所有する黄金のごとく鈍く発光した。


 地面に接していた膝が、離れる。前に傾けていた額を上げ、身体を起こしていく。段々と、立ち上がってくる。彼女の周囲を金の鱗粉が舞い、挙動に合わせて虚空を回る。


「ぐっ……!!」


 振り下ろした武器が盾で押し返される。全力を注いで加重しようと、返ってくるのは反発だ。

 無意識に歯を噛み合わせ両脚に力が入ろうと、元の姿勢に戻る彼女を止められない。

 パイプ菅から噴き出す水を両手で押さえつけても止められないように。大地から隆起する突起物に石畳が耐えられないように。


 この人は……自己の肉体強度を高めただけで、魔法を押し返している。地球の重力が十倍になろうと、容易に生活していけるんだ。



「はっ」


 気合いの一喝を発した彼女に重力は跳ね返され、その反動で僕は背中をのけぞらせた。


 いとも簡単に破られてしまった。動揺が瞳に滲んでいただろう、それでも立ち尽くしてはいられなかった。気づけば、目の前から消失していた。


 攻撃が来る。


「がっ……!」


 背中に衝撃が走り、息が詰まった。


 殴られたか蹴られたか。身を投げ出すように前に倒れ込む。即座に上体を起こし振り返る。

 影は無い。


 くっ、速すぎる! 


 無闇に腕を振り回したところで、意味はない。一蹴りで数十メートルの距離を詰めるエルミナさんに、僕の拳が当たるはずもない。


土塁障壁(ウォーダン)! ……ぅわ!!」


 四方を土の魔法で囲う。しかし、瞬きの内に全て破砕した。


 壁が拳に貫かれ、衝撃に僕の身体も数メートル吹っ飛んだ。


「く、」


 受け身を取り、体勢を立て直す。


 目線を上げようと、対峙者の断片すら捉えられない。視線を動かした先で、何かが残像のごとく見えるばかりだ。


 足音だけが、広大な空間に不気味に反芻していた。



 速い。目で追いきれない……こうなったら!


「重力の縛鎖! ……げぁ」


 なりふり構わず重力を発生させた。自分ごと巻き込む形で。


 重力魔法による圧力に、全身から軋むような音が聞こえた。


「む、」


 見えた。左斜め後ろ!


 彼女は近接戦闘しかしてこない。攻撃には接触を必要とする。


 突然重力が襲い掛かれば、エルミナさんといえど瞬間の動きは鈍くなるんだ。



「おぉっ!!」


 重力魔法を瞬時に解除し、身体をひねるように回した。


 右拳に集中させていた魔力を、振り抜いた。



「素晴らしい」


 確かに、叩き込んだ。山を殴ったような手応えがあった。


 閉じゆく瞼に映ったのは、暗灰の瞳だった。


 そして、意識が途絶えた。



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