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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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第一話  「ふわっと膨らむ」(5)

 



 パン作りから一週間が経ち、私はハルデン家の邸宅を訪れていた。

 週に一回か二回、情報及び意見交換を含めて私たちはどちらかの邸宅にて紅茶を挟む。


 こういった交流に不審を抱かれない関係性だけれど、今の私は浮かれる気にはなれない。


「どうなんだろ。アメリアは」

「どっちなのかしらね」


 カップの紅茶は、国内の山間部で採れたものを使用している。標高や気候条件によって、さわやかな香りと渋みの少ない味わいが特徴的で私の好む茶葉のひとつ。


「今のところは様子を見ないと、何とも言えないかな」

「そう、よね」


 普段なら談笑を交えている私達でも、今回の議題については否が応でも目つきは固くなる。


「あれから数日までは、どこでも不満が上がっていたね。王都だけでなく地方まで。一時的なパンの流通に滞りがあって、制限もかかって。」

「原因はアメリア。報道各誌でも我先にと記事を放って怒りの矛先を向けていたわね。わざと煽り立てるようなものまで書いていた記者まで」

「けれど、最近は一変した」

「一つの商会が小麦の買い占めを画策していたなんて、そんなことを信じる方が難しいもの。私だって虚偽と誤報の類だとしか思っていなかったわ」

「今ではアメリアは民衆から称えられているね。したことが大きかったから当たり前だけど」

「批判していた報道各社も、綺麗に掌を返したわ。私達が何をしなくても」

「それどころか『王女様のおかげで助かった!』とまで言われていうよね。今だと」

「アメリアが作ったパン――【クマパン】は、それなりに好評を得ているらしいわ。今回の実績も乗っかって、売り切れているところも少なくないとか」


 先回りして動いたアメリアは、大勢から評価された。この数日間で遠方の地域まで配給が行き渡り、階層に関係なく国民がパンを享受している。

 後世の人間には、これだけで教科書の一ページを飾れそうな出来事だった。


 あの子は何でもないことのように振る舞っているけれど。


「やっぱり……手際が良すぎるわ」

「アメリアには失礼だけど、経済の視点なんて持っていたんだね」

「だとしても、ここまでの立ち回りは不可能よ。あのリュソーさんより先を行っていた。いえ、誰よりも早く行動に移していたはずよ。だって、あの異端科学者に発案したのは一ヶ月も前らしいじゃない」

「それには、一応の説明はできなくもないよ。アメリアがその発想力を活かしたってだけで、そこに偶々時期が重なった……ちょっと無理やりだけど、僕らは既に結果を知っているからそう見えてしまうってことも頭に入れておかないといけない」


 私とアークの対話は、いわばお互いを鏡として捉えた思考の深化。別視点・別解釈の提供、推論や仮定における盲点や矛盾を映し出す。

 今回のような事例ではその真価を発揮する。一人では欠落していたことも、二人で補完し合う。脳の情報処理に働きかけ、整頓された事柄をより鮮明にしてくれる。


「だとしても、よ」

「うん、そう。僕とセレヴィが考えていることの方が真実には近しいと思う……だって、今回の件は無駄がない。無さすぎる。まるで予知していたみたいだ」


 アメリアの行動には、不可解な点がいくつも見られ、私達の疑問は浮かんでばかりだった。


「そもそも、あの子が関心を持つかしら。誰かが入れ知恵でもした?」

「『先に小麦を買い占めておけ』ってね。セレヴィかグレイン、リュソーさんぐらいじゃないかな、できるとしたら。そのリュソーさんだって、情報に確信を持つまで時間がかかっていた。グレインは、どうだろ。知っていたら、アメリアに伝えるのかも」

「それはないわね。あの男なら、商会側に立って旨味をすすろうとするはずよ」

「セレヴィってグレインを何だと思っているの。そんなことしないよ、グレインは」

「さあ、どうかしら。私、あの人には嫌われているみたいだから、そう見えるのかもしれないわ」

「セレヴィもグレインも仲良くして欲しいけれどなぁ」

「別にあの人の好感度なんて欲しくないわ……ともかく、話を戻しましょう。『自作のパンに挑戦してみたかった』。それはアメリアにとって本心でしょう。けれど、買い占める思考にまでは至るとは思えない。試行分だけ、材料を余分に購入する程度に留めるはず。流石におかしいわ」

「アメリアが一般常識には収まらないとはいえ、ここまで踏み込むとは思えないしね」




「アメリアの名声は上々、私達だって、ハイタッチでもして喜ぶべきなのよね」

「する? しようよ。ハグもしよっか」

「呑気ね、貴方も……まぁ、するけど」


 席を立ち、アークの方へ。彼もまた私と同じように一歩二歩と近づいてきて、まずは軽く掌を合わせた。


 そして、抱擁を交わす。一年前とは見違えるように体躯の逞しくなった彼の体温は、私に確かな安らぎをもたらしてくれる。魔法の総合力で見れば私の方が秀でているけれど、肉体的強度で言えば私が十人いても力で及ばない気がする。

 彼の場合、私に手を上げるはずもないのだけれど。


「ねぇ、セレヴィ」

「なあに?」

「一度目のとき、小麦が不足した時期がなかったかな」

「…………そういえば。不作というわけでもなかったのに、市井でパンが出回らないなんて話が、前世であったような」

「僕たちや他の貴族は備蓄を引っ張ってきて普段と変わらない生活だった。けれど、一般の人たちは購入するだけでも大変、みたいな話だと思う。この時だった気がするんだ」

「……そうよ、そうだと思うわ。その時のパン屋で、お気に入りのパンが手に入らなかったからって使用人に物を投げつけて罵倒した覚えがあるわ……つくづく、当時の私って酷い女だったわね」

「セぇレぇヴィ。そういうことはもう言わない、って約束したはずだよ」

「ご、ごめんなさい。自虐するつもりではなかったの。ただ、ね。思うところがあっただけで……話を戻すわ。とりあえず、小麦が不足して、パンの価格が上昇して…………やっぱり、そうなると」

「うん。アメリアは事前にこれらを知っていたことになる」


 経済的視点、予知的推測。アメリアだって仮にも王女なのだから日々取り入れる情報は他の者より多いでしょう。けれども、それにしては行動に移した時が絶妙よ。


「『買い占めにより小麦の価格高騰を知っていた』と考える方が、自然かしら」

「僕も、その仮定の方が納得しやすい」

「まさか……アメリアも『私たちと同じ』」

「十分にあると思う、可能性として」


 同じ現象に見舞われた、時間遡行者だということ。


 私の呟きに、アークは大きく頷いた。

 しかし、こうも続けた。


「でも、そうだとしたら僕たちに何か言ってくると思うけどね。アメリアの性格的に」


 彼の言うことは最もで、だからこそ私たちは頭を悩ませている。


「仮に。私たちと同様、過去である今に飛んできたのなら、そういった類の話を出してくるはず。いえ、絶対出すわあの子なら」

「しない方がおかしいと思うぐらいに」

「たぶんこんなことを言ってくるわ……『あー! わたしと喧嘩ばっかりしてたセレヴィーナだー!』とか、『今度は嫌がらせしないでよね!』とか、『ギロティンって痛かった?』なんて聞いてくるわ」

「そ、そこまで言うかな」

「とりあえず、私やアークに何らかのアクションは起こすはずよ。同じ境遇の存在がいるのかどうか、それを確かめずにはいられないもの、あの子は。でも、この二周目でアメリアと出会ってから、一度たりともそんな話はしていないわ」

「どうなんだろう。アメリアだって腹芸ぐらいはできると思うよ」

「何のために隠すのかしら? あの子が隠すのは私に怒られたくないことくらいよ」

「あはは、それもそうかも」


 今回のことは、偶然なのかしら。直感的に嫌な予感でもした?


「未来を知る魔法でも開発した? それとも元々備えていた、とか」

「うーーん、考えるなら後者、かなあ」

「でも、これも今一つね。あの子なら周囲に言いふらしてそうだもの。『ねえねえ、聞いて聞いて! 私未来がわかるの!』とか『セレヴィは明日、私を怒るよ。二回ぐらい』なんて言ってくるでしょう。鬱陶しいぐらいに」

「ふふ、再現力が高いね」


 ゆらゆらと身体を揺らすようにして密着しあったまま話していた。

 傍から見たらただの仲睦まじい婚約者ね。そうなのだから、気にすることでもないけれど。


「『未来が視える』。これの最大の理由として、革命を例にできるわ。一周目のとき、アメリアは未来をわかっていたから、死を回避できた。そうは思わない?」

「あの惨劇を生き延びた点で言えば、この仮説が有力だと思うな。この仮定でも疑問はでてくるけど」

「何故革命を防がなかったか、ってことでしょう? 簡単よ。あの子が止めるつもりもなかったから」

「むしろ革命を起こした、なんてことも」

「あり得るわね。生き延びたあの子は、悠々とその後の人生を送った」

「未来を視れるんなら、大衆の印象を良くするように動くことだって容易だしね」


 だいぶ考えがまとまってきたわ。やっぱり、アークとの対話って有意義なひとときね。


「『アメリアは未来を知る魔法がある』。もしくは、『私達と同じループ者』。どちらにせよ、私達には朗報ね。あの子についていきさえすれば、革命が防げなかったとしても、生存は確定的だもの」

「希望が、一段と出てきた」

「二つの可能性も、まだ決定的とは言えないけれど、それでも構わないわ。私達は引き続き計画を進めていくだけ」

「アメリアには、もう伝えてもいいんじゃない? 確認の意味も含めて」

「もう少しだけ、様子を見てみましょう。あの子に下手なことを教えると、かえって混乱をきたすような気がしてならないわ」

「わかった……頑張ろうね、セレヴィ」

「ええ、もちろん」



 ふわっと膨らむ希望を前にして、私達は抱擁を続けていた。



 アークの胸板、また厚くなったかしら……枕にしたい。








二話目以降、隔日投稿になります。


あまり書き溜めが出来ていませんので、ところどころ日を置くことがあるかもしれません。


いけるところまで、とりあえずやっていきます。


よろしくお願いします。



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