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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
2章  

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48/88

第一話  「ふわっと膨らむ」

 2章  始まります。



※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります





 その日、焼き立てのパンのようにふわっと膨らんだ私の平穏は、あっという間に潰れた。


「国中の小麦を買い占めてるところなの! パンを作ろう!!」

「……………………何言っているの?」


 もう、それしか言えなかった。

 休日、アメリアに呼ばれて王城を訪れた私に、脳天気な宣言が飛び込んできた。


 動機といい、実行の早さといい、少しは質問の余地を残してほしいわ。


「パン屋は王都にいくらでもあるでしょう?」

「自分で作りたいの!」


 詰め寄ってきた問題児はやる気に満ち溢れていて、その気迫じみた表情に私は顔をしかめる。


「突然、どうして」

「したくなったから!」


 …………それだけ?


 待って、おかしい。

 アメリアの奇行はいつものこと。奇抜な行動が無い日の方が稀。けれど、今回は特におかしいわ。

 小麦の買い占めって、何で?


「……王城ぐらい大きなパンでも作るのかしら?」

「あ、それもいいかも!!」


 まずい、間違えた。失言だったわ。


 皮肉のつもりが、余計に動機を与えてしまった。


「買い占めたものを市場に戻してきなさい。パンが作れなくなるでしょう。この都市だけじゃない、この国に住む人たちの主食よ?」


 溜息交じりに私は額に左手を添えて、右手で王女の意見を振り払うようにした。


「大丈夫! もう準備は済ませてあるから!」


 どこも大丈夫じゃないの。話が噛み合ってないわ。


「独占までしなくていいじゃない」

「変な噂流れてるじゃん。小麦を買い集めている人たちがいるって」


 似通った話は、私だって耳にはしていた。


「ある大商会が小麦を大量に買い占めて価格を吊り上げ、この国に経済攻撃を仕掛ける。そんな噂でしょう?」


 王国に混乱をもたらしたい者の、よくある情報戦略でしょう。こんなものよりも巧妙な情報は日々入ってくる。一つ一つを真に受けていたら身が持たないもの。


「そうそれ。だから先手を打つんだ。ババッとね!」

「アメリアがしても同じじゃない」

「わたしは違うもん。王城から配給って形で国中に回していくんだから」

「配給、ね」

「ちゃんと国中に伝えてるよ。『ごめん、小麦を買い占めちゃった!』って」


 買い占めの目的を誠実に説明し、協力を呼びかけている。これにより、パニック買いや社会不安を最小限に抑えられる。公的な情報開示と協調、やることはやっているのね。


 言い方は誤解しか招かないけれど。


「パン屋の人たちも、集めてきたから! 【食料供給特別公務員】として一時雇用!」

「それで給与も保証するってことかしら。そういうところはきちんとやるのね」

「出来上がったものから順次配給していくから。バンバン出していこう!!」


 そして、緊急配給システムの確立。国中にあるパン屋は配給所として機能させ、政府の監督下でパンを製造並びに販売する。従業員の生活を守りつつ、パン屋の経営も守られ、国民も安心してパンを手に入れられるようになる。


「手際がいいわね」


 これなら、小麦の活用とパン屋の経済活動に支障はない。


 ない、とは思うけれど。そもそもとして。


「貴方、噂を鵜呑みにしたの?」

「噂だって一つの情報だよ」

「はぁ、はあ、はーあ」

「すごい溜息つくじゃん」

「つきたくもなるわよ。王族の独断で市場に介入したのよ? ぜっったい、記者たちに目をつけられているわ」


 どこかの紙面で『第一王女が小麦を独占! 市民から主食を取り上げた』などと面白おかしくされて書かれているでしょうね。


「過ぎたことにウダウダ言っても仕方ないよ、未来に目を向けよう!」

「貴方が原因なのだけれど?」

「つっくろう、つっくろう、パンつっくろう~」


 自己流の歌詞に合わせて拳を突き出す王女。



 私は、アメリアの頭に拳を振り下ろしたいわ。


「無視なんて良い度胸ね」

「セレヴィ……眉間に皺ばかりじゃ、シワシワのパンみたいになっちゃうよ? ふふふ」

「……」

「わ、わわ! 無言で殴ってこないでよ!」


 噂はあくまでも噂。真偽が定かではない情報を、一国の王女が真に受けて行動に移した。


 そういうことをしたって事実だけで、どれだけの反感を……!


「ごめんって! もっと可愛い喩えにするから! ええっとね、うーん。思いつかないかも、どうしても皺が……ちょちょ、止まってよ!」


 アメリアの名誉が失墜すれば、彼女を頼りにして未来を生き延びる計画に綻びが生じる。


 今からでも、どうにかする方法はないかしら。





 *






 城内の広大な調理場では、小麦の入った麻袋がいくつか積まれていた。普段は宮廷お抱えの料理人たちによる火と湯気と食材の匂いが立ち込める場所は、都市や地方から招かれたパン職人たちが忙しなく動いていた。二日前から生産を始めており、出来たものから次々と店舗に送っているという。


 突然の要請によって王女に招かれた彼らは恐縮に身を縮こませていたらしいが、短期間の正式な雇用について説明を受け、かつアメリアから激励されると、その培った仕事ぶりを発揮しだしたそうだ。


 適正な労働環境の下で、今も国のために稼働している。


「パン作り、はっじめっるよ~~~!!」


 アメリアの掛け声に、その場の全員の視線が集まった。

 呼ばれていたのは私だけではなかった。


「自分で作るのは初めてかな」

「私は使用人たちと偶に作ってましたわ」

「アメリアさん、何故急にパンを?」

「小麦を買い占めたと聞いたが、今度は何を企んでいるんだ?」

「やっぱりスケールが違うね、アメリア殿下は」


 アーク、ポンコツ娘、リファーナさん、ライゼル君、イヴェリアさん。


「アメリア様は物差しで測れない御方です」


 そして、麻袋を運んできてくれるエルミナさん…………あれって、ひとつ五十キロは下らないはずではなかったかしら。肩に担ぎ頭だけで支えて、三つも持てるもの? 何で汗の一つもかかないの? 身体強化魔法は掛けているでしょうけれど……しているわよね? 


 彼女は私達の催しには加わらないという。

 これから続々と出来上がるパンを王都内の配給先へ届けるため奔走していく。馬車や荷車も稼働しているけれど、それらに乗せられる量をエルミナさんは一人で運べるらしい。彼女は王都にあるパン屋や孤児院、他の施設への輸送を半分ほど受け持つ。そのため、国内の運搬業者たちは、遠くの地方から届けに行くという。


 あの人、人間よね? ……私達がこんなことしていていいのかしら。



 オルテン家の令息やリュソーさんといったアメリアが他にも呼んでいた同級生は、用事を理由に来ていない。


 まあ、面倒くさがって来なかった人もいるでしょうけれど。東方の留学生とか。

 アークの親友を自称する男は、力を入れているらしい慈善事業のために断ったらしいけれどただの口実でしょうね。今頃は邸宅で悠々自適に果実水でも嗜んでいるのかしら。アメリアを差し向けてあげたいわ。


「こんな格好もいいかも。思ったより動きやすいし」

「あら、似合っているじゃない。いつもの正装だからかしら、エステルハージの使用人さん」

「令嬢なんだけど!」


 普段の制服姿とは異なり、私達は使用人や農民が着るような質素な服に着替えていた。それでいて、男女ともに、エプロンを装着している。生産に従事する職人やスタッフの邪魔にならないように、私達は室内でも隅の方に集まっていた。


「仕事は一応できそうに見えるわね。主に紅茶を浴びせたり、埃の無い場所ばかり掃いていたり」

「無能って言いたいの!? 貴方だって、傍から見たら…………ぐ、隠し切れない優秀さが滲んでいるわ……!」

「わかっているじゃない。私のところで雇っても良いわよ? 一週間ぐらいは」

「令嬢だっての!」

「二人ともー。はい、これ」

「ありがとう」

「あ、ありがとうございます」


 ポンコツをからかっていると、アメリアが微笑みながら小麦粉の入った大きな木鉢を参加者それぞれに配っていた。


 受け取りながら、私の声音に覇気はない。

 結局、どうにかする方法なんて思いつきもしなかった。今も小麦の入った袋群は王城の備蓄倉庫へ大量に運び込まれていて、それを止める術はない。既に成立していた売買にできることはなかった。


 市井では『パンが作れない!』『ふざけるな!』と不満の声が飛び交っていそうで、胃のあたりが重くなってきそうだわ。まだパンも食べていないのに。


「それじゃあ、みんな頑張ろう!!」


 彼女の言葉を皮切りに、私も袖をまくった。


 仕方ないわね、ひとまずはパン作りに従うことにしましょう。


 アメリアの評判を上げる手立ては何個か考えたから、少しずつでも民衆の不満を解消していけばいいわ。


 はぁ、今回はいつにも増して収拾が厄介になりそうね。

 どさくさに紛れて、パン生地と一緒にアメリアをオーブンへ叩き込めないかしら。







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