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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
1章

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第十三話 「イヴリン・ダルヴィーク」

※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります


 


 いつもと変わらない、そんな朝だった。あの人と会うまでは。


 私は書類の束を抱え、硬い廊下を歩いていた。切れ長の深い瞳を持つ顔、肩まで覆う漆黒の直髪、高い鼻梁に引き締まった頬。訓練時には上官から、研究の現場では同僚から、この精悍さを勇ましいと評されたこともある。軍人なのだから、それでいい。


 生まれも育ちもツェルバ連邦。寒冷の地で軍部の研究職に属する私は、執務室の前で息を整えた。緊張を表に出さないように、胸の奥深くに押し込める。


 もう起きているでしょうか。起きていなくてもいいですけど。むしろ寝ていてくれて構いません。


「失礼します。中尉、書類をお届けに参りました」


 扉をノックする。聞き取りやすい声を意識したけど、返答はない。


 よし、これも仕事の一環なので、失礼とは承知ですが入室します。

 さてさて、寝顔でも拝見しましょう――そう思っていたのに。


 ライネン・バルグ中尉は、部屋の中央で立ち尽くしていた。孤島に取り残された人間が途方に暮れるように、呆然としていた。


 何だ、起きていたんですか。てっきり、また徹夜でもして堅い机を枕にしているとばかり。

 居るなら居るで、何で返事をしてくれなかったんですか。


「おはようございます。今日は早起きなんですね」


 一日のうち唯一見られる隙を拝もうと期待していたのに。仕方ない、仕事前の雑談に移行しよう。


 ……いや、いいや。待って。中尉の様子、何かおかしい。



 淡い銀色の髪は短く刈り上げ、端正な顔を際立たせている。格好いい。澄んだ青色の瞳は私をしっかりと捉えていた。いつも通り綺麗だけど、やっぱりおかしい。


 私を見やる上官の表情、まるで亡霊でも見ているかのようだ。


 夜を通して筆を走らせたのだろう、着衣は昨日と同じ、多少の乱れや皺は珍しくない。ただ呼吸が整っていない。肩を揺らして吐く息、瞳孔の開き。額や首筋に浮かんでいる汗が、明らかな異常を知らせている。


 訓練時ならともかく、室内でこれはあり得ない。悪夢でも見たのか。


「……補佐官」


 ゆら、ゆら、と。中央から私に詰め寄ってくる。


 え、え、何ですか、急に。何か言ってくれないと怖いんですけど。


「あ、あの……中尉? 近いです」


 まるで雪に足を取られているかのように左右に大きく揺れ近づいてくる上司に、思わず後ずさりして、抱えていた書類を盾に突き出した。


 な、なに。ちかちかちか、近いですって。

 何をしているんですか、何をするつもりなんですか、この人……待って、やっぱり変だ。


 動転している場合じゃない。良く観察しないと。


 耳朶で捉えられるほど青年の呼気は荒く、震えている。冷静沈着を軍帽に刻み込んでいるような人が、焦燥に歪んでいる。


「すまない。大丈夫だ。いや、大丈夫じゃない……いや、やっぱり大丈夫だ」

「どっちですか」


 何が、彼に何が起こっているんですか。


 瞼を閉じて立ち止まり深く息を吐いた上司は、正気を取り戻したのか、距離を取ってきた。


 安心、安堵していいんでしょうか。何故だか不穏な気がして胸がざわめくんですけど。


「……少し、寝起きで混乱しただけだ」


 本当にそれだけですか? そんなわけないと思われますが。


 寝ぼけるのとは違う。努めて整えた声。微笑んでくれるけど、疑念は拭えない。

 それでも、そう言われたら私も相応の対応をしないといけない。


「お疲れが溜まっているんですよ。朝食は食べました?」

「いや、まだだ。君は?」

「私は既に。今日はグロートとスープを、豆の入った……まあ、あれです」

「それは酷いな」


 淡々とした会話の応酬は、無理やりつなぎ合わせているように感じる。中尉は平然としていが自然な冷静さから構築されたものではないことは明らかだ。継ぎ接ぎの服のように取り繕っているのが見ていて辛くなってくる。


「今日は、何年の何月何日だ?」

「……1901年6月3日です」


 何でそんなことを尋ねるんですか。暦なんてそこの机の上を見ればすぐにわかります。

 その質問に何の意味が、何の意図があるんですか。


「中尉、本当に大丈夫ですか? 何かありました?」

「ああ。心配するな。ただ少し考え事をしていただけだ」


 彼はそう言って書類を受け取った。


 何か起こっている。何度掃除しようと隅に溜まる埃のように払拭できない予感。けど、問い詰めたりして嫌われるのは御免だ。問いただしたい気持ちはぐっとこらえる。


「補佐官」


 机に書類を置いた彼は椅子を引いてきた。それで私に着席を促した。


 え、何で急に? 何か目つきが……とりあえず、座った方が良いのでしょうか。


 立つ彼と、座る私。逆ならまだしも、これはおかしいでしょう。扉や窓は閉め切っていますが、こんなところを誰かに見られでもしたら。苦言を呈されますよ。


「君にだけは話す。信じてくれとは言わないが、最後まで聞いてくれ」


 そんな、覚悟を決めたような顔で見られた、耳を傾けないといけないじゃないですか。


 只事じゃない。抱いていた勘が的中したんだ。そう確信した。



 そして語られたのは――二度目の人生。


 これから五年に渡って刻まれる、彼の軌跡だ。


 数年後の戦争、軍の実験に利用される私、そして……彼の自死。壮絶な未来の数々だった。





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