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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
1章

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第十話 「ゴージン・ヴェルディック」(2)




 やはりというべきか、現場は混沌としていた。

 石畳と芝が敷かれた広場は、衝撃波で舗装の一部に傷がついていた。


「姫殿下! これはどういうことです!」

「グレイン、落ち着いて」


 乱れた髪を振り回して、オルテンが女生徒二人に詰め寄っていた。傍から見れば貴族の男が令嬢二人に絡んでいるように映るが、周囲が勘違いすることはない。アメリアがいれば誰もが原因を悟るからだ。


 アメリアは両手を軽く突き出して宥めるようにし、オルテンを制止させる。


「今のは……ノーラだよ」

「殿下ぁぁ!!! あなたは! あなたって人はまた!!」


 予想外の裏切りにジャンク女が涙目となり、第一王女の腕を掴んで揺らした。

 また、というくらいならあいつがもたらす結果をもう少し推測できそうなものだが、あれには酷か。賢者は歴史に、愚者は経験に。エステルハージはそれらを超越するらしい。教訓の二文字を知らんだけかもしれないが。


「あ、ノーラ。こっちグレインね。グレイン、こっちがノーラね」

「第一印象が最悪です!!」

「エステルハージ家…………ですね? よく、よく、存じております」

「わ、わわわわ、」


 額に青筋を浮かべる令息は、必死に笑顔を形成していた。奇天烈な髪型と相まって一度見たら忘れられない邂逅になりそうだ。少し面白い。今後の参考に現像でもしておこうか。


「撃ったのは貴方ですよね?」

「ちが、違うんです!! わ、私は渡されただけでして! ですよね、殿下!」

「わたし、撃ってって言ってないよ?」

「殿下ぁ!!??」


 平然と言い放ったアメリアに、言い訳を並べ立てていたジャンクは狼狽した。

 事実として残っているのは、あの娘が放ったものが男子生徒の頭部を掠めたこと。

 反感を買ったどころじゃない、喧嘩を売ったと思われるだろう。


 まあ、アメリアの言い分も正しくはあるか。撃て、と言っていないのなら、勝手に勘違いしたジャンクが悪い。エネルギーを装填したからといって無闇に発砲していいはずはないからな。

 アメリアが何と言って渡したのかは判断できないが、確認を怠ったのなら責任はエステルハージにもある。元凶はアメリアだが。


「これ、そう、これです! 殿下が作られたんですよね!?」

「わたしのじゃないよ、それ」

「えええ!? 殿下が持ってきたじゃないですか!」


 首を横に振る王女に慌てふためく不憫なジャンク。そしてアメリアは続けた。


「それゴージンのだよ!」


 悪びれる様子もなく答えた。わかってはいたが、こうも簡単に名前を出されるとはな。


「ノーラもグレインも、まだゴージンと会ったことないよね? いきなり会うより、試作品でまず知ってもらおうと思ったんだ。せっかくだから試してみて欲しかったし」

「危険人物ですよその方!?」


 真っ当な反応だな。普通の感性を備えていれば、そうなるだろう。

 茂みに隠れて様子を窺っていたがもはや仕方ない、そろそろ姿を現すか。


 そう思ったが、ざっと身を伏せる。広場に集まってくる人影を確認した。

 面倒くさそうな奴らが来たな、もう少し隠れていよう。


「アメリア! また何を…………ぶ、ふふ。貴方、なに、それ。最先端ね。ふふふ」


 随分と遅かったな、ガーウェンディッシュ。オルテンの髪型を認識すると、肩を震わせた。

 何かと突っかかってくる面倒な奴ではあるが、あんな女でも流石に笑うものなんだな。


「非常事態ですね。綺麗に削り取られた被害者の毛根、救出は、困難かもしれません」

「あーっはっはっははぁ!! エルミナさん、これ以上笑わせないで!!」


 淡々と述べるエルミナ・ヴァルキュロスは、相変わらず淡白であり的確だ。アメリアの付き人として度々顔を合わせるが、話したことはない。それほど興味もないだろう、互いにな。

 む、だが少し笑っているな、珍しい。あのオルテンの髪がそこまでおかしく映ったか。



「だれか……頭を、頭を元に戻せ……」


 遂には落ち込むようにしたオルテンを見ながら、ガーウェンディッシュは笑いを抑えきれずにいた。前々から思っていたんだが、あいつのどこが模範的貴族だ? 評されている割には性格が悪いが。


「というわけで、これは学術的意義のある成果でしたー! 後処理をお願いしまーす!」

「待ちなさい。どういうものか、説明してもらうわよ」


 取り仕切るようにし、それでいて無責任な一言を放り逃げ出そうとしたアメリアを、首根っこを掴みガーウェンディッシュが問い詰めた。


「うんんん、そういうのはゴージンに聞いて。ゴージーーン!」


 こちらに振り返ったアメリアは、手を振ってきた。

 なんだ、気づいていたのか……無視するわけにはいかないな。

 ひとつ息を吐き、茂みから立ち上がる。俺の姿を認めると、正確の悪い令嬢が額を抑えるような仕草をした。


「また、貴方の発明なのね」


 溜息交じりに睨んでくるガーウェンディッシュを無視して、メモを取り出す。


「威力は、やはり三重式が限界か。次は外殻構造を旧型ルーン言語で軟化させれば……」


 思考の断片をそのまま言葉にしながら、走り書きを続ける。誰かの髪型がどうなろうと混乱が生じようと、俺にとっては有意義なフィールドデータだ。無駄にはできない。


 視覚情報からもたらされる記録を構築していると、俺と同等に肌白い男が睨んできた。


「東国の留学生だな? オルテン家にこんなことをして、」

「俺は開発者でしかない。使いたいと言ったのはアメリアだ。実行者は、そちらの令嬢だが」

「私!!?」

「三人ともよ。全員に責任があるわ」

「わたしは魔力を込めただけだよ?」

「俺は持ち出しを許可しただけだな」

「じゃあ、やっぱり、」

「ジャンク女か、」

「ええ!? わ、私になるんですか! それにジャンク女って何ですか!」


「全員よ、バカリアポンコツ異端者アメリア。全員に決まってるじゃない」

「ねえ、何でわたし二回も出てきたの?」

「私は被害者よ!」

「そうだ、他二人はともかく俺は開発しただけだ」

「ゴージン? 今わたしたちに押し付けた?」


 そこから騒々しい言葉の応酬が始まった。アメリアとジャンクが無罪を主張して噛みつき、ヴァルキュロスは主人を罵倒した令嬢を睨んでいた。


 俺は成り行きを眺めるようにしてメモに一行、書き加える。オルテンが詰め寄ってきたが無視した。


 《爆縮型魔導具(試作六号):生体毛根への適用は不可。再試験必要。アメリア、いつも通り無傷。検体:ノーラ=エステルハージ、次回も同意なく起用予定》



「留学生。何無関係を装っているのよ。貴方にも責任が、」


 詰問どころか尋問が始まりそうだな。面倒だ。こういった時は王女を活用すればいい。


「アメリア、それにはまだ機能がある。筒の中に直接魔力を込めてみろ」

「ちょっと、貴方なにを」

「この中に? ……おお、おおお!」

「きゃあっ! 何か飛んでくる!」


 素直に従ったアメリアが銃身に人差し指を突っ込み、燃えるような魔力を流した。すると数十の光の塊が噴水のごとく噴き出し辺りにまき散らされる。

 エステルハージが頭を抱えるように距離を取り、他の奴らも各々で対応した。アメリアだけは楽しんでいたが。


 飛び散るそれ自体に、害はない。持ち手の部分から使用者の魔力を吸収し蓄える機能の魔道具は、円筒状の銃身に直接魔力を流し込むと拒否反応を示して吐き出すように設計しておいた。





「この、バカリア!」

「わたしのせい!? ゴージンじゃないの!?」



 半々だろ、アメリア。




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