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リープ ~私達の二周目~  作者: 蛇頭蛇尾
1章

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第九話 「ノーラ=エステルハージ」

※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります





 首が落ちる瞬間、意識は確かにあった。刃が肌に触れる感覚や血しぶきが上がる様も覚えている。でも、痛みとかは無かったわ。泣き喚いて、気づいたらポーンって首が飛んでいたわ。


 みんな酷いわ! 私が何したっていうの! ……沢山、色々しちゃったんだけど。

 あんなに怒らなくてもいいじゃない! それぐらいのことしたんだけど。


 なんか、笑ってる人も多かった気がする。笑われるような捕まり方したのはそうだけど!


 ともかく、ノーラ=エステルハージの命は、そこで終わった。



 はずだった。




 目を開けたとき、私は十七歳の少女に戻っていた。


「…………んあ?」


 朝の光が差し込む部屋。窓の外には、まだ石畳を慣らしていない新しい通学馬車。部屋の壁に貼った魔法の練習表。それら全部が、処刑の日から五年前の景色になっていた。


「え、あれ。私、さっきまで処刑場にいたよね? 首、飛ばされたよね?」


 錯覚じゃない、幻覚じゃない。視界が鮮やかだわ。


「どう、いう、こと?」


 寝間着のまま、部屋を飛び出す。右に左に目を回す。廊下の内装が、あの頃のまんま。


 ここ、エステルハージ家の邸宅よ。私の生まれ育った、もう見られないと思っていた家。



 なにが、どうなって……まさか、まさか!!


 裸足だけど、何回も転びそうになっても走る。階段、階段だわ。玄関のすぐ近くの!


 嘘よ、嘘よ、嘘よ! あり得ないわ。だって、そんな! 


 焼け落ちたはずの邸宅が蘇っているなんて。破損していないし、業火に包まれてもない。

 都合の良い夢みたい。でもなんでもいい。


 絶対、必ず。あの人たちがいるはずだ。


 階段を駆け下り先の玄関ホール。その左手側の居間には、豪奢なソファに座る二人。


 いた、いたわ。本当に、いた!


 二人とも、いた。な、涙が……泣きそうだわ。泣いてもいい! 泣くわ!


「お父様! お母様!」

「うぉ、が、ごほ…………ノーラ! 飛びついてくるのはやめなさい! 年頃の娘だろう!!」

「お父様だ! 小うるさいお父様だ!」


 白髪の見え隠れするお父様、咳き込みながら叱ってきたわ。

 まだ黒髪の方が多い! 頬も痩せてないわ! 


「今朝は、いつもより強烈ね」

「お母様も! 生きてる!」


 常に穏やかな笑みのお母様。あの頃と同じ、のほほんとしてるわ。


 猛獣が餌に飛び込むように抱きついたわ。背もたれごと倒しちゃった二人は、腕に収まらないぐらい広く大きい。体温も、ちゃんとある。服越しでも伝わってくる。


 寒空の下で見た亡骸じゃないわ、ちゃんとしたぬくもりよ。


「何事です」

「ノーラ様が起床なされたぞ」

「あ、あ、ああ~~!!」


 使用人たち! 集まってきたのね、懐かしい顔ぶれだわ。


 全てが、あの頃のまま。

 誰もかれも、流血してない。内臓が飛び出てたり、腕や足も失ってないわ!

 みんな五体満足よ! 


「み、み、みんな……いきかえってる! んわあ゛ああ゛あ゛ああああ!!!」

「お嬢様はどうかなされたのか?」

「怖い夢でも見られたのでしょう」

「鳴き声も大きくなられた。成長されましたなぁ」


 生き返った親や使用人に、脇目もふらず大号泣した。


 ちょっと待ちなさい! 誰よ今鳴き声って言ったの! 泣き声でしょ! 爺や、爺やでしょ!


 まあいいわ、それより、さっきまでのことを話さないと!


「あまり夢に引きずられすぎないようにね」

「お母様? 夢じゃなくて、わたし処刑されたのよ……?」

「今日は部屋で休んでいなさい。お医者様を呼ぶから」


 みんなを集めて自分の体験をあますことなく話したわ。

 なのに、誰も信じてくれない。お母様まで私を心配してるわ。あ、それはいつもだったわ。


「爺やは嬉しゅうございます。ノーラ様もご想像が豊かになられて、」

「違うってばーー!! はぁなしを聞いてーー!!」


 なによもう、誰もまともに取り合ってもらえないわ。なんか創作物のアイデアかのように受け取っているし。

 いつもの、夢想を語る令嬢をあやすような、生温かい目なんだけど。


 私だってまだ整理はついてないけど、もうちょっと耳を傾けてくれてもいいじゃない!


「はぁ……ノーラ。もう少し慎みというものを覚えなさい。だから縁談の一つも…………友人さえ連れてこないじゃないか」

「あー! あー! 言ったわね! 娘が気にしてたこと、言ったわねぇ!!」

「大声を出すんじゃない、はしたない」


 お父様ってそういうところデリカシーがないんだから! 

 溜息をつかないでよ、不出来な娘なのはそうだけど、これでも頑張ってたのよ!

 仕方ないじゃない。周りが私を理解してくれないのよ!


「いいもん、いいもん。うるさいお父様と綺麗なお母様、皆がいてくれればいいもん」

「ぐ、そんな嬉しい事言われても、な。今日の昼は何が食べたい?」

「お肉がいい!!」


 甘い、甘いわ、お父様。こんなに単純だったかしら? 私が言えたことじゃないけど、ちょっと不安になるぐらいだわ。



「あは、あはは…………」

「ノーラ、どうしたの? 本当に何もなかったの?」

「ううん…………大丈夫。大丈夫なの…………」


 涙が、鼻水が。袖で拭っても、勢いよくすすっても。どれだけ流しても溢れてくるの。


 俯いて立ち尽くす私に、みんなどうしたらいいのか慌てていた。


 なんだかんだ言っても、みんな優しい。優しくて、あったかくて。


 あの頃の、気遣いなんてない馬鹿馬鹿しい会話が、またできるなんて。

 思いもしなかった。






 *






 落ち着いてから、街にも出てみた。中央大国の都市らしい、美しい景色の数々が目に飛び込んできた。血も、嘲笑も、怒号も飛び交ってない、記憶にある光景が広がってた。


 これじゃあ、私の言ったことが信じられないのも仕方ないわ。だって、まだ起きてないってことだもの。

 つまり。戻ってきたのは、私だけということ。

 あれが夢だったなんて思えない。



 自室に戻って、改めて状況を把握していくわ。


 グレゴ暦1905年、今から五年後の未来で、私は死んだ。


 あれは覚えてるのは、私だけ。この屋敷では、私しか覚えていない悲劇ってわけ。


 未来の記憶を持ったまま、過去の自分へ、過去へと戻ってきた?


 みんなからは、理解はされなさそう。根気強く説明しても、医療機関に連れて行かれるだけだと思う。あ、じゃあ予知能力とか、未来が視えるって言えばどうかしら。

 ううん、駄目だわ。やっぱり医者を呼ばれると思う。


 共有できる人がいない。でも、悲しんでる場合じゃない。

 むしろ、これってチャンスじゃない? そうよ、ポジティブに考えればいいんだ。


 こんな、なんていえばいいのかな、げ、現象? 事象? 自然現象? あ、違うわ。自然は関係ないもの。

 ともかく、これって魔法なのかしら?


 でも、魔法以外だと考えられないのよね。やっぱり魔法よ、まほうまほう!


 それで、なんでこんなことになってるかというと、答えは簡単よ。


 私は『力』に目覚めた。そういうことじゃない?


「つまり、選ばれた、ってことよね。はー、選ばれちゃったかぁ」


 鏡の前で呟いたとき、もう不安はなかった。時間を操る術を身に着けて、戻ってきたんだもの。

 これは魔法史の中でも特異な力、神秘的ともいえる。仕方ないわ、私に宿ったんだから。


 そう、すなわち、偉大な魔法使いの証明。選ばれし者しか得られない、第二の人生。


 一度目では現れてくれなかった潜在能力が、真の力が、死を通して開花したってわけ。


「困ったなー、困っちゃうなー。こんな大きな力、人の役に立てるぐらいしか思いつかないなー」


 口ぶりとは裏腹に、私の声は弾んでいた。


 確信していた。どうあがいても、ノーラの名前は残るわ。

 未来永劫、人類が滅ぶその時まで偉人たちと同列に語られる。疑いようがないわ。歴史の教科書に載る想像だってできるもの。


「あーあ。称えられるんだわ。渋々だけど、色んな教科書に乗っかるのね。あーあ」

「お嬢様は、どうなされたのですか」

「そっとしてあげましょう。今朝の夢を引きずっておられるのでしょう」


 ちょっと、侍女たち。扉の影でひそひそしないで、聞こえてるし。

 ま、いいけど。どうせ私の力を見たら平伏してくるんだもの。


 これとんでもない力よね。自分だけじゃなくて、未来で悲劇に見舞われる人々を救え出せるんだから。

 颯爽と、ササッと。何のけなしに。いずれ国の中枢に重職として就いてしまい、周囲がおべっかを使ってまで私の機嫌を取ろうとしてくるんだわ。


「まずは、鍛えないと駄目よね」


 才能は放置していれば勝手に育つものじゃない。ちゃんと意識して鍛えないと、理想の自分には辿り着けないもの。


 魔力を引き出す。インクを溶かした水のように濃く、真夜中のヴェールを彷彿とさせる色をしたそれを指先から迸らせて、静かに頷いた。


 これなら、数年後の革命にしたって、軽々と処理できてしまうわ。他の貴族たちだって、私を崇めるようになる。


 口元のにやけが、止まらないわ。


「わたしはもう、処刑されない!!!」



 その日から、私は真面目になった。いや、真面目になったつもりだった。

 朝は五時に起きて庭を走る。魔法の初級文献、つまり第三階梯の魔法式が載っている書物を音読し、日記に記録し、詠唱時の構えを鏡で確認する。


 できる限りのことはした。

 才能を信じきって、努力した。


 ただ、ただ。


「どおおじでえええ!!」


 問題は、それでもどこかズレていることだった。


 プスプス、と煙を上げる中心地で、がなり声とともに半ベソをかいた。


 魔法の詠唱が終わる直前にくしゃみをしたり、魔力の流れを読めず爆発を起こしたり。


「な゛あ゛んでええ゛え」

「はいはい。お嬢様、火遊びは危険ですからな、ささ、屋敷へ戻りましょう」

「お花が……ごめえんなさあい!!」


 庭師が丹念に手入れしていた花壇のひとつを焼いちゃった。手をかざした先で発射された火の塊が想定とは別の方向へ飛んでいってしまい、彩り綺麗な花の上に落ちたんだ。

 口数は少ないけど温和な庭師は許してくれたけど、申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。

 何度も頭を下げた。


 このほかにも、私が魔法の練習をするたびに屋敷のどこかが破損した。それらを修復してくれる使用人たち。お母様はにこやかに、お父様はまた溜息をついた。


 努力に比例して周囲に迷惑がかかる。せ、切ないわ。


 おかしい。おかしいわ。


 私は、目覚めたはずなのに。

 完璧で偉大な、唯一無二の可愛さを兼ね備えた、最強最高の貴族のはずなのに。

 過去に戻る魔法も、全然使えないわ。そもそも、詠唱や必要な魔力量、魔法式だってなにもわからない。


 もしかして。


 もしかして?


「私、ただ戻ってきただけ?」


 一カ月が経って、ようやく理解した。


 これって、まずいんじゃない? 非常に、まずいんじゃない?? 深刻な事態よ。


「どうしよう」


 駄目よ、駄目駄目。私だけじゃ、また同じように命を落とすわ。


 貴族の地位だけでは乗り越えられない。そもそも、エステルハージ家はそんなに大きな力は持ってない。新興富裕層としてなり上がった、伝統のある貴族じゃない。最盛期なんてとっくに過ぎてて、数年も経てば没落の一途を辿ることになるもの。


 革命時には、市民に抵抗もできず、あっさり捕らえられたわ。


「……逃亡? でも、」


 国外へ逃げるっていうのもありかも。でも、お父様とお母様になんて説明するべきなの。


 革命時には右往左往するだけだった私は、ぼんやりとした全体像と捕まるまでの瞬間しか覚えてない。説得するには材料が少なすぎるわ。

『いごうよおおお!』なんて、泣きて懇願しても、お医者さんを呼ばれて強制入院させられるわ。


 革命までの猶予は長くないわ。発生したら、逃げられる気がしない。

 このまま死を待つのも無理よ。いやよ。


 家族を、愛する身内を、二度も失いたくない。


「こうなったら、誰かを頼るわ!」


 そうよ、自分でできないなら他人の力を借りるべき!


 本当なら自分の力だけでみんなを守りたい。けど、そんなことに拘ってたらあっという間にまた処刑台に送られるわ。下手なプライドなんて、命の前では二の次よ!


 まずは、頼れる人を探さないと。協力者を見つけないと。


 生き残るための戦略を……あれ、戦術? 戦法? とにかく、考えないといけないわ。


 国外に逃げる、国内に留まる。どちらを選ぶにしても、王国で力のある人、影響力のある人に助力を願うべき。


「でも、誰がいいかしら?」


 最も権力のある人といえば、やっぱり国王陛下?


 すんなり面会できる人じゃないから難しいわ。それに、このときって病に倒れられているんじゃなかったかしら。というか、元気だったとしても、気軽に会いに行けるような人脈は私にないし。そもそも、国王陛下も革命時には落命されていたはずよ。


 そうなると、国外の有力者に接触を試みた方がいいのかしら?


「あれ、そういえば」


 腕を組んで、額を机につけて。何か、重要なことを忘れてる気がするわ。思い出せ、思い出せ~。

 硬く物寂しい牢に入れられたとき、様々な噂が耳に入ってきた。

 その中に興味深い話が……!


「そうだ…………そうだ!」


 アメリア・ド・ヴァルモン様。彼女は処刑を免れたって言ってなかった!?


 おぼろげな記憶だけど、やっぱり。確かに、確かに言ってた。牢番の市民たちが口にしてた。


『第一王女は処刑にならない』って。なんとかかんとか、理由までは思い出せないけど。


 私よりも先に処刑されていった人達は、エステルハージ家より格式の高い貴族ばかりだった。

 だけど、みんな消えていった。名前なんて少ししか覚えてないけど。あの女、銀髪の女もそうだっけ? 


 ううん、私より後だった気がする。まあ、別に良いわ、あんな女は。それよりも王女殿下よ、殿下の名前は、一度も聞いてない。



 国王陛下の娘なのにズルい! って私も怒ってた。そうよ、これだわ!



「…………あの人だ!!」


 第一王女殿下と仲良くなれば、生存の可能性は高まるんじゃない? 彼女だけ生き延びた奇跡みたいな幸運を、私も近くにいればあやかれると思う! 絶対にそう!


 よし、決まったわ。殿下に擦り寄ろう。あの人とは、前も同じ大学に通ってたもの。歴史をなぞっていくなら、今回も同じになるはず。


「でもなぁ、殿下か。殿下ねぇ。」


 第一王女のアメリア様は、誰から見ても問題児だった。

 魔法の実験と称した暴走や爆発は日常茶飯事で、私も何度か巻き込まれた。制服が炭化したことがあれば、靴が氷漬けになったこともあった。その他、禁止区域への侵入や教師と口論する、と何かと目立っていた。その行動力と影響力を恐れて、距離を取る人ばかりだった。


 私だけじゃない。近いとか遠いとか関係なくて、誰でも一度は災難に見舞われたはず。あれってもう災害よね。けど、目立った被害者って出てなかったような。不思議だわ。

 王族の力で隠蔽していたって噂も頻繁に飛び交ってたけど。



 周りに倣って、私も関わらないようにしてた。だって巻き込まれたくないもの。

 ただし。今回はそうもいかないわ。どんな人だろうと、積極的に関わっていかないと。


 もしかすると、悲劇を乗り越えられるかもしれない。

 上手くいけば、革命だって未然に防げるかもしれない。


 そうなれば、万事解決。あれ、結構簡単そうじゃない? 

 これもう余裕よ、余裕よゆう。


 方針は、決まったわ。とにかく殿下と仲良くなればいいんだから。


「こうどう、あるのみ!」


 両手を掲げた私は、ぐっと拳を作った。

 明るい未来を、掴めるような気がした。





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