第三話 「グレイン・オルテン」(2)
※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります
閲覧の際には、上記の旨をご理解のうえ、読欲をお満たしください。
膝をつきたくなるほど、消耗していた。肩で息をしたい。くそ。何を掴めたのかさえ分からない。
一周目の記憶にある姫殿下は、もう少し品格というものがあったような気がする。少なくとも、常識はあった…………はずだ。
「はあ、次のペアは貴方なのですね」
聞き慣れた、だが憎悪を禁じ得ない声。
「……ガーウェンディッシュ嬢」
「王女殿下に苦労されたそうですね、オルテン家令息様」
振り返れば、セレヴィーナがいた。薄銀の髪を髪飾りで留め、白のドレスをまとい、胸元には羽ペンを模したブローチ。
第一王女の注目とは異なる意味で、視線を集めていた。
「姫殿下の独創性には、いつも驚かされるばかりですので」
できる限りの平静を装って、口角を上げる。
俺の逃亡計画破綻要因の一人。大貴族でありながら多くの同胞を売り、第二次革命の処刑者の大半を地獄へ突き落とした。俺の協力者も、亡命ルートも、すべてがセレヴィーナの暴露によって瓦解した。あの悪夢のような日々は思い出したくもない。計画の崩壊を目の当たりにして、潜伏先で頭を抱え、追い詰められる恐怖や焦燥は、一度で十分だ。
「手を取ってくださらない? 二曲目が始まりますわよ」
艶やかな指先を差し出してきた令嬢の表情は、乗り気とは言えない。こちらも同様だ。
できることなら、積年の恨みを魔法に込めて射出したい。感情を出すわけにもいかず、無言でその手を取った。
踊り始めて、すぐに気づいた。
姫殿下とは比べものにならないほど、踊りやすい。あの王女と比較すれば、誰でも人間らしいダンスはできるだろうが。
自分のペースを保てる。息が合う。ステップは正確、リズム感も申し分ない。控えめに見えて、随所で主導権を握っている。優雅で、繊細で、自らの魅せ方を理解している。
演技であることを理解していても、その技術は確かだ。
やはり、この女。以前とはまるっきり違う。
最近の噂が脳裏をよぎる。ドリル・ホールの騒動で令嬢が教師とともに被害を抑えた話。表向きは教師の手柄にされているが、現場にいた生徒の証言では、令嬢の名も繰り返されていた。
見た目と家柄しか取り柄のなかった女が……今や気配りを絶やさず、修練を怠らず、模範的な貴族として評価されている。密かに支持を集め、称賛されている。
まさか。
こいつも、俺と同じか?
自問に対する答えは、思いのほか曖昧だった。違うとも、そうだとも言い切れない。この二度目の人生で、以前と同じ行動を取る者をまだ見たことがない。姫殿下にしても、一周目とはずいぶんと印象が異なる。そう考えると、この世界は過去をなぞるだけの世界ではないのかもしれない。同じ曲が流れようと、、同じ踊りはできないように。
あの女の性格を思い返せば、閃きからくる仮説は成り立たない気がした。傍若無人を背で語り、傲岸不遜を顔に張り付けていたような女が、一度の死でここまで変わるとは到底思えない。
目の前の女性は、同時代の同家系、同姓同名でありながら別人のセレヴィーナなのだろう。
旧知の仲であるこいつの婚約者でさえ、一度目とは異なる雰囲気を纏っていた。
かつての人々と、この世界の人々は、同じようでいて多少の差異が生じている。これを念頭に置けば、目の前の令嬢に一周目の女を重ねることは、筋違いともいえる。彼女は彼女で、まっすぐに自らの人生と向き合って歩んできたのだ。
しかし、理解と寛容は別物だ。過去と現在の乖離を受け止めるには、まだ時間がかかりそうだ。
「ンブッ……!」
思考を吹き飛ばすような衝撃が、胴を貫いた。息が詰まり、視界が揺れる。何かが背後で爆ぜた。それは、まるで巨大な水晶の塊が、空中で砕け散るかのような、幾千ものガラスが擦れ合うような、不気味な響きだった。クリスタルの破片が、凄まじい破壊音を中心にして飛び散っていた。
甲高い悲鳴が空間に満ちたのは、一瞬の静寂の後だった。
シャンデリアが、落下したのだ。
俺とパートナーは、ようやく事態を理解した。数秒遅ければ、荘厳な輝きを放っていたものに、潰されていた。絢爛な空間に、肉塊が二つ、横たわることになっていた。
「大丈夫!?」
誰よりも早く駆け寄ってきたのは、薄赤いブロンドを揺らす人物だった。普段は勝手気ままで型破りな行動ばかりの姫殿下が、動揺を隠さない表情を浮かべていた。
「あ、ありがとう……」
ガーウェンディッシュも俺と同様、驚愕の瞳で王女を見ており、辛うじて感謝を絞り出した。
「とっさのご行動に、救われました。姫殿下。御恩は一生、忘れません」
立ち上がった俺は、深く、頭を下げる。計画以前に、一人の人間として、感謝は伝える。当然のことだ。
誰一人、大きな怪我はなかった。せいぜい、転倒時に服が少し汚れた程度だ。
だが、引っかかる。
「……あれの落下に、よく気づかれましたね?」
俺が問うと、姫殿下は迷いなく答えた。
「なんか、変だと思ってたんだよね」
王女は、天井を見ていた。誰よりも注視していた。あれは、退屈しのぎでもなければ、気まぐれな視線でもなかった。俺とのダンスの最中にも視線は上を向いたまま、シャンデリアの落下地点から徐々に距離を取っていた。
敵意や悪意に対する、王族の危機感知能力が働いたのか、姫殿下の直感か。ともかく、俺たちは助けられたのだ。
「ずうっと上を向いてたから、疲れた〜」
首をコキコキと回す王女の姿に、もう一度礼を述べようとしたが、その前に教師の一人が慌てて駆け寄ってきた。
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