表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リープ  作者: 蛇頭蛇尾
1章
1/7

第一話 ドドッと二周目

本日より投稿していきます。よろしくお願いします。


※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります


閲覧の際には、上記の旨をご理解のうえ、読欲をお満たしください。


 朝というのは、皆が皆、ルーティンに従う。

 けれど、私は例外を作るのが好きだ。

「アメリア様。ガーウェンディッシュ様がお待ちです」

「ごめん! もうすぐ出るって言っておいて!」

「先ほどもそうおっしゃっていましたよ」

 扉の向こうで侍女の声がした。構わず私は腕を組み、ベッドの上で胡坐をかいていた。目の前には書物の塔。本棚から半分以上を取り出して十数分、なかなか面白い造形になったと思う。

「恐れながら。失礼いたしま――……何をなさっておられるのですか」

 そっと扉を開けて入ってきた世話係は、今年から導入された大学指定の深い紺の制服に身を包んでいた。

 スラっとした長身に、端正で冷たい印象すらある整った顔立ちの彼女。身の回りの世話を担当する侍女であり、護衛であり、同級生だ。そんな彼女の顔が一瞬だけ固まったのを、私は見逃さない。

「バランスゲームってやつ」

 堅牢で美しい革装の書物たちを前にして、私は言ってのけた。

 倫理・統治哲学・家系の象徴的意味を説く古書。

 儀礼・交渉術・諸国理解などを含む高等教育書。

 魔力と統治権の関係を記す王家の秘書。

 そして、美術品としても価値のあるそれらは、縦に、横に、斜めに。絶妙な平衡で積み上げられている。最近市井で話題に上がっている遊びは、本来、目的に即した木や木片を使用するけれど、私の手元にはない。そのため、書物で代用している。

「おっしゃっていただければ、すぐにでも購入してまいりますが」

「まだお店開いてないんじゃない?」

「叩き起こします」

「可哀想だからやめて」

 専用の玩具は街中で販売されている。買うにしても、きちんと営業時間まで待たないと。

 それに、私は今やりたいんだから。

 こんなところ、侍女以外には顔をしかめられるだろう。今は彼女しかいないからいい。

 意識を顔の正面に戻す。バランスを取るのって、意外と考えて置かないといけないんだ。

 手先の器用さや集中力の育成とか、幼児教育にも適しているらしい。

「流石はアメリア様。妙技でございます」

 既に自分の背丈を超すほどに組み立てている私に、侍女は淡々と褒める。それに気を良くした私は、誇らしく胸を張った。なんか、他の人にも見せたくなってきた。

「セレヴィ呼んできて! これ見せたい!」

「なりません。この瞬間は私だけの特権といたします……そろそろ制服に着替えましょうか」

「えー。でも、うん、いいよ~」

 手際よく学生服へと着替えさせられた私は、友人の待つ部屋へ向かうことになった。


 *


 足音が響く静かな廊下を、私は侍女と並んで歩いていた。

 朝の光が、天井の高い王城の廊下を優しく照らしている。今日もまた、穏やかな日常だ。退屈な日にならなければいいけれど。

 どこかから、音がする。

「アメリア様、」

「ちょっとだけ」

 西塔の方へ、私達は逸れていった。見えてきた一室から、微かな音が漏れていたのだ。

 ふらりと寄り道して覗き込んだその部屋では、一人の男がピアノを奏でていた。

 その顔には、常に穏やかな笑みが浮かんでいる。切れ長の瞳は優しげだが、その奥には底知れぬ深淵が横たわっているかのよう。それは決して悪意や野心を宿すものではなく、むしろすべてを包み込むような寛容さ、あるいはすべてを達観したかのような静けさを感じさせる。

 レオフリック・ドラグネス。この国の宰相だ。

 白黒の縞模様でオールバックにまとめた髪が、鍵盤のように整っている。あの髪型、毎回整えるの大変だろうなって思うけど、それよりも音に惹きつけられた。

 虫が跳ねるような軽快さから、綿毛が攫われるような穏やかさ、そして突然激情が走るような激しさへ。変わる、変わる、どんどん変わる。耳が慣れる暇もないのに、不思議と全部が心地よかった。

 国家を背負う人が、今だけは音色に身を委ねている、そんなふうにも思えた。

「おや。これは失礼いたしました。可憐な聴者がいらっしゃるとは気づきもせず」

 演奏を終えた宰相が気づいて微笑む。私はぴょこっとお辞儀を返した。

「ご機嫌麗しゅうございます、アメリア殿下」

「ごきげんよう、レオフリック宰相。今のなんていう曲?」

「曲と呼ぶには値しません。譜面無き雑音にございます」

「そう? 北国の民謡みたいだった気がするけど?」

 彼は目を細めた。

「そのように捉えましたか。昨今、ツェルバ連邦とは悶着が頻発しておりますからな。無意識に音色に現れたのやもしれませぬ」

 連邦ねぇ……行ったことないなぁ。

「小規模ながら、北部辺境にて衝突が続いております」

「私が仲裁に行ってもいい?」

「お戯れを」

 私が言うと、宰相は柔らかく受け流した。

 む、別に冗談で言ったわけじゃないのに。この人はいっつも私を子ども扱いしてくる。

「北だけではありません。東方のリンドラからは、魔導工学における技術が我が国にも流れております。庶民の間にもいくつか出回っておりますが、伝統派の魔法師たちは快く思っておりません」

「え、どんなの? 面白いもの? 見てみたい!」

「西のアルトラ公国は現在大人しくしております。先の集団的魔法詐欺が尾を引いているようですが」

「へえ、そうなんだー」

「……そして、南方のサラディア。かの革命思想が我が国に与える影響は、計り知れません。第一次革命と同じ轍を踏まぬよう、身分の垣根を越えて一丸となり、」

「ふうん…………何か、忘れている気が、する」

 はっ、と私は思い出した。

「セレヴィが待ってるんだったー! ごめんね、宰相。また演奏聴かせてね!!」

「…………ええ、いつでも」

 手を合わせて謝るようにお辞儀をしてから、駆け出す。宰相は何も咎めず、ただ優しく笑ってくれた。

 後ろで、再び重くも静かな旋律が響き始めた。

 誰か遠くの人に語りかけるような、そんな音色だった。




1章まで毎日投稿していく予定です。


一話を1500~4000文字程度に分割して投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ