第一話 ドドッと二周目
本日より投稿していきます。よろしくお願いします。
※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります
閲覧の際には、上記の旨をご理解のうえ、読欲をお満たしください。
朝というのは、皆が皆、ルーティンに従う。
けれど、私は例外を作るのが好きだ。
「アメリア様。ガーウェンディッシュ様がお待ちです」
「ごめん! もうすぐ出るって言っておいて!」
「先ほどもそうおっしゃっていましたよ」
扉の向こうで侍女の声がした。構わず私は腕を組み、ベッドの上で胡坐をかいていた。目の前には書物の塔。本棚から半分以上を取り出して十数分、なかなか面白い造形になったと思う。
「恐れながら。失礼いたしま――……何をなさっておられるのですか」
そっと扉を開けて入ってきた世話係は、今年から導入された大学指定の深い紺の制服に身を包んでいた。
スラっとした長身に、端正で冷たい印象すらある整った顔立ちの彼女。身の回りの世話を担当する侍女であり、護衛であり、同級生だ。そんな彼女の顔が一瞬だけ固まったのを、私は見逃さない。
「バランスゲームってやつ」
堅牢で美しい革装の書物たちを前にして、私は言ってのけた。
倫理・統治哲学・家系の象徴的意味を説く古書。
儀礼・交渉術・諸国理解などを含む高等教育書。
魔力と統治権の関係を記す王家の秘書。
そして、美術品としても価値のあるそれらは、縦に、横に、斜めに。絶妙な平衡で積み上げられている。最近市井で話題に上がっている遊びは、本来、目的に即した木や木片を使用するけれど、私の手元にはない。そのため、書物で代用している。
「おっしゃっていただければ、すぐにでも購入してまいりますが」
「まだお店開いてないんじゃない?」
「叩き起こします」
「可哀想だからやめて」
専用の玩具は街中で販売されている。買うにしても、きちんと営業時間まで待たないと。
それに、私は今やりたいんだから。
こんなところ、侍女以外には顔をしかめられるだろう。今は彼女しかいないからいい。
意識を顔の正面に戻す。バランスを取るのって、意外と考えて置かないといけないんだ。
手先の器用さや集中力の育成とか、幼児教育にも適しているらしい。
「流石はアメリア様。妙技でございます」
既に自分の背丈を超すほどに組み立てている私に、侍女は淡々と褒める。それに気を良くした私は、誇らしく胸を張った。なんか、他の人にも見せたくなってきた。
「セレヴィ呼んできて! これ見せたい!」
「なりません。この瞬間は私だけの特権といたします……そろそろ制服に着替えましょうか」
「えー。でも、うん、いいよ~」
手際よく学生服へと着替えさせられた私は、友人の待つ部屋へ向かうことになった。
*
足音が響く静かな廊下を、私は侍女と並んで歩いていた。
朝の光が、天井の高い王城の廊下を優しく照らしている。今日もまた、穏やかな日常だ。退屈な日にならなければいいけれど。
どこかから、音がする。
「アメリア様、」
「ちょっとだけ」
西塔の方へ、私達は逸れていった。見えてきた一室から、微かな音が漏れていたのだ。
ふらりと寄り道して覗き込んだその部屋では、一人の男がピアノを奏でていた。
その顔には、常に穏やかな笑みが浮かんでいる。切れ長の瞳は優しげだが、その奥には底知れぬ深淵が横たわっているかのよう。それは決して悪意や野心を宿すものではなく、むしろすべてを包み込むような寛容さ、あるいはすべてを達観したかのような静けさを感じさせる。
レオフリック・ドラグネス。この国の宰相だ。
白黒の縞模様でオールバックにまとめた髪が、鍵盤のように整っている。あの髪型、毎回整えるの大変だろうなって思うけど、それよりも音に惹きつけられた。
虫が跳ねるような軽快さから、綿毛が攫われるような穏やかさ、そして突然激情が走るような激しさへ。変わる、変わる、どんどん変わる。耳が慣れる暇もないのに、不思議と全部が心地よかった。
国家を背負う人が、今だけは音色に身を委ねている、そんなふうにも思えた。
「おや。これは失礼いたしました。可憐な聴者がいらっしゃるとは気づきもせず」
演奏を終えた宰相が気づいて微笑む。私はぴょこっとお辞儀を返した。
「ご機嫌麗しゅうございます、アメリア殿下」
「ごきげんよう、レオフリック宰相。今のなんていう曲?」
「曲と呼ぶには値しません。譜面無き雑音にございます」
「そう? 北国の民謡みたいだった気がするけど?」
彼は目を細めた。
「そのように捉えましたか。昨今、ツェルバ連邦とは悶着が頻発しておりますからな。無意識に音色に現れたのやもしれませぬ」
連邦ねぇ……行ったことないなぁ。
「小規模ながら、北部辺境にて衝突が続いております」
「私が仲裁に行ってもいい?」
「お戯れを」
私が言うと、宰相は柔らかく受け流した。
む、別に冗談で言ったわけじゃないのに。この人はいっつも私を子ども扱いしてくる。
「北だけではありません。東方のリンドラからは、魔導工学における技術が我が国にも流れております。庶民の間にもいくつか出回っておりますが、伝統派の魔法師たちは快く思っておりません」
「え、どんなの? 面白いもの? 見てみたい!」
「西のアルトラ公国は現在大人しくしております。先の集団的魔法詐欺が尾を引いているようですが」
「へえ、そうなんだー」
「……そして、南方のサラディア。かの革命思想が我が国に与える影響は、計り知れません。第一次革命と同じ轍を踏まぬよう、身分の垣根を越えて一丸となり、」
「ふうん…………何か、忘れている気が、する」
はっ、と私は思い出した。
「セレヴィが待ってるんだったー! ごめんね、宰相。また演奏聴かせてね!!」
「…………ええ、いつでも」
手を合わせて謝るようにお辞儀をしてから、駆け出す。宰相は何も咎めず、ただ優しく笑ってくれた。
後ろで、再び重くも静かな旋律が響き始めた。
誰か遠くの人に語りかけるような、そんな音色だった。
1章まで毎日投稿していく予定です。
一話を1500~4000文字程度に分割して投稿します。