表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/26

1.【プロローグ】死のお茶会①

 1910年7月の終わり――。

 メラヴェル女男爵ことアメリア・グレンロスは、とある屋敷の薄暗い部屋の石造りの床に座っていた。

 外は真夏の暑さなのに、日当たりの悪いその部屋はひんやりとした空気に満ちていた。

 

 もちろん、彼女は好き好んでこのような埃っぽい床に座っているわけではなかった。

 一刻も早くこの部屋から逃げ出したかった。

 しかし、ドアが外から何かで塞がれていることは既に確認済みだった。

 

 彼女は自分の傍らに置いている帽子を見てため息をついた。

 数時間前まではきちんと髪に留められていたのに、無理やりこの部屋に放り込まれたときに取れてしまったのだった。

 右頬のかすり傷もそのときできたものだ。

  

 アメリアはポケットから父の形見の懐中時計を取り出して時刻を確認した。


 ――閉じ込められてからもう2時間ほど経ってしまったわ。


 恐ろしいことに、彼女をこの部屋に閉じ込めているのは、ある殺人事件の犯人だった。

 何故こんなことになったのか――全て自分の過ちのせいだとアメリアは思う。


 ――死ぬ覚悟はできているけれど、もし、万が一……。


 万が一手荒なことをされて余計なことを話してしまわないか。

 それだけが目下の彼女の心配だった。


 すると、ドアの外で物音がした。

 何かが引きずられるような物音――ドアを塞いでいた何かがどかされているらしい。

 助けが来たのであれば、誰かが彼女の名前を呼んでくれるだろう。

 しかし、何も聞こえないということは――。


 ――犯人が戻ってきたんだわ。私を殺すためか、もしくは、尋問……最悪の場合、拷問するために……。


 アメリアは一つ息を吐いてからゆっくりと立ち上がり、右手でブルーグレーの訪問用ドレスの左袖にそっと触れた。

 冷静さを失う最後の瞬間まで"メラヴェル女男爵"として気高くありたい彼女は、背筋を伸ばしてドアが開くのを待っていた。

 しかし、犯人は部屋の中には入らなかった。

 代わりにもたらされたのは、絶望であり希望でもあった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ