「呪いのフィギュア棚」
カタリはオカルトマニアだが、ホラー映画の登場人物のようにビビるタイプではない。むしろ、どんな呪いでも「まあ、なんとかなるだろ」と構える男だった。
そんな彼が、ある日「呪われた日本人形」を手に入れた。
オークションで「戦前から伝わる曰く付きの人形」として出品されていたもので、白無垢を着た黒髪の女の子の姿をしている。見た目は意外と綺麗だが、出品者によると「夜中に髪が伸びる」「すすり泣く声がする」などの怪奇現象が報告されているらしい。
「ほう、ありだな。」
面白半分で落札し、数日後に人形が届いた。
しかし、ここで問題が発生した。
「……置く場所がないな。」
カタリの部屋はすでにホラー関連のアイテムやフィギュアで埋め尽くされていた。特にフィギュア棚には、キャストオフ(※一部パーツが外せる仕様)の美少女フィギュアが所狭しと並んでいる。
「まあ、ここでいいか。」
適当に空いているスペースを探し、日本人形をキャストオフ仕様のフィギュアたちの中に紛れ込ませた。
「…………」
ほんの一瞬、空気がひんやりとした気がした。
夜中、カタリが布団に入って眠ろうとしたときだった。
——ギシッ……ギシッ……
何かが動く音がする。
「お?」
特に驚くでもなく、カタリは目を開ける。
すると——
「な……なぜ、こんなところに……」
日本人形が、自らの居場所に困惑しているようだった。
周りを見渡せば、肌色多めのキャストオフフィギュアたち。
露出度の高い美少女フィギュアに囲まれた日本人形は、明らかに居心地が悪そうに震えていた。
「こんな……不浄な場所に……!!」
怒りで髪が逆立ち、目がカッと見開かれる。
「ん? 気に入らないか?」
カタリは枕元からスマホを取り出し、のんびり写真を撮る。
「いや、呪いの人形としては怖がらせたいのかもしれんが、正直、俺はもうこういうのは慣れっこでな。」
「……はっ!!」
日本人形の顔が一瞬、引きつる。
「こ、こいつ……あの座敷童子をもてあそんだ男!?」
「不埒な言葉を使うな。ただもみくちゃにしただけだ。あっちから手を出してきたんだし合法だろ。なあ、座敷童子」
「シャーー!!」座敷童子は姿を現すことなく猫の威嚇のように吠えた。
「ほらな。」
「ほら、とは……。」
カタリは腕を組みながら、日本人形をじっと見つめる。
「まあ、置く場所がないからここしかない。どうせ動くなら、自分でいい感じの場所に移動すればいいだろう?」
「そ、そんな勝手な……!」
「勝手なのはそっちだろ? 勝手に動いたり、すすり泣いたりするらしいじゃないか。俺はただ普通にフィギュア棚に置いただけだ。」
「そっちのホラーグッズの中では駄目だったのか?」
「いいんだが、ジャンル分けすると君はフィギュア側だからな。それに、座敷童子に遊んでもらうんならこっちの棚の方が……。」
「お前っ!座敷童子をエロフィギュアで遊ばせとるんかっ!!」
「これしかないんだから仕方ないだろう!オレが幼児用の人形を買っているところが見たいのか!」
「オークションで買えばいいだろう!」
「一回買ったらオススメに上がってきてしまうだろうが!」
「それぐらい、あきらめい!」
「オレは妥協しない男なんだ!もっと大人なオモチャを提供せんだけマシだと思っていただきたいな!」
「むむむ」
日本人形はギリギリと歯を食いしばるように震えていたが、やがて観念したのか、小さくため息をついた。
「……しかたない……ここにいる……」
「ああ、頼む、これで座敷童子にもいい友達ができた。よかったな座敷童子。」
「シャー!!」
翌朝
翌日、カタリが目を覚ますと、日本人形が少しだけ位置を移動していた。
……いや、正確には肌色成分の少ない場所へ逃げていた。
明らかに露出度の高いフィギュアたちから距離を取ろうとしているのが分かる。
(地味に頑張ってるな。)
そんなことを考えながら、カタリは今日も平然と日常を送るのだった。