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「ブブゼラ vs. 闇の囁き」

 カタリは気まぐれで一人キャンプをすることにした。


 特にアウトドア派というわけではないが、ネットで見た「ソロキャンプのススメ」という記事に触発され、道具一式を揃えて山へやってきたのだ。

 テントを張り、焚き火を起こし、持ってきた缶詰を温めて食べる。

 夜の山は静かで、火のはぜる音だけが心地よく響いていた。


 ……はずだった。


 不穏な囁き

 夜も更け、そろそろ寝ようかとテントに入ったその時——


「……ひとり……か……?」


 カタリの耳に、かすかな囁き声が届いた。


「こっち……おいで……」


「さびしい……だろ……?」


 テントの外から、無数の声が聞こえてくる。


 男の声、女の声、子どもの声——それらが重なり合い、闇の中でざわめいていた。

 まるで、この山に無念を残した者たちが、こちらを取り囲んでいるかのように。

 普通の人間なら、この時点でパニックになるだろう。

 だが、カタリは違った。


「……あー、困ったな。団体行動は苦手なんだよな。」


 彼は特に焦ることもなく、荷物を漁った。

 護身用のナイフ? いや、相手が霊なら役に立たない。

 懐中電灯? ただ照らしても意味がない。

 塩? そんなもの持ってきていない。

 そして、カバンの底を探ったその時——


 手に触れたのは、一本のブブゼラだった。

 カタリはブブゼラをじっと見つめる。


「……ご披露できるものは、これしかないか。」


 テントの外では、声がどんどん増えている。


「でてこい……」


「あそぼう……」


「さみしい……だろ……?」


 何かがテントの周囲をゆっくりと歩き回っている気配がする。

 カタリは静かにファスナーを開けた。

 真っ暗な夜の森。木々の間に、人影のようなものが揺らめいている。

 そして、闇の中から無数の白い手が伸び——


 その瞬間。


 ブオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


 ——カタリ、全力でブブゼラを吹いた。


 夜の静寂を切り裂くような、強烈な騒音。

 深夜の山に響き渡る、破壊的なノイズ。

 すると——


「ギャアアアアアアア!!!」


「やめろォォォ!!!」


「ウルサイイイイイ!!!」


 無数の声が悲鳴を上げ、森の闇がグワンと揺れた。


「まさか……こんな…………」


 人影が一斉に霧散し、白い手は消え去っていく。

 カタリは冷静にブブゼラを置き、満足げに頷いた。


「うん、これは夜中に吹くもんじゃないな。」



 翌日、カタリが目を覚ますと、森は何事もなかったかのように静かだった。

 しかし、昨夜の名残か、テントの周囲には無数の黒い影の跡が残っていた。


「やっぱり幽霊だったか。」


 だが、それ以上に驚くべきことがあった。

 テントの外に、手書きの立て札が置かれていたのだ。

 そこには——


 **「二度と来るな(怒)」**と書かれていた。

 カタリはそれを眺めながら、ゆっくりと頷く。


「……こんなものを刺していって、迷惑というのを考えてほしいものだ」


 彼は静かに荷物を片付けしっかりと後片付けを行い、立て札を見送りながらキャンプ地を後にした。

 ところで、実体があるタイプだったんだろうか?

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