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「座敷童子の逆襲」

 カタリは昔からオカルトや都市伝説が大好きだった。特に座敷童子に関する話には興味があった。座敷童子が現れる旅館に泊まると幸運が訪れる——そんな話を聞けば、試したくなるのが人の性というものだ。


 そんなある日、東北のとある老舗旅館に「座敷童子が出る」という噂を聞きつけたカタリは、さっそく宿泊を決めた。


 彼は肝が据わっており、どんな心霊現象にも動じない。むしろ、「本当に幽霊がいるなら、一回じっくり見てみたい」というタイプの男だった。


 旅館「松風亭」は、創業300年以上の由緒正しき旅館だった。館内は歴史を感じさせる木造建築で、歩くたびにギシギシと床が鳴る。出迎えた女将も穏やかで、どこか品のある人だった。


「カタリ様、お部屋は『藤の間』でございます。このお部屋には、昔から座敷童子が現れると言われております。」

「へぇ、いい部屋ですね。」

 カタリは女将の言葉に動じることなく、淡々と返した。


 女将はどこか困ったような表情を浮かべたが、すぐに微笑んでこう続けた。

「座敷童子は、気に入った方にだけ姿を見せると言われています。どうぞ、よい夜をお過ごしください。」


「ああ、楽しみにしてます。」

 カタリはまるで「明日の天気は晴れですよ」と言われた程度のリアクションで答え、部屋へ向かった。



 カタリは部屋に荷物を置くと、さっそくスマホを取り出し、動画撮影の準備を整えた。何か証拠が撮れたら、後で友人に自慢しようと思ったのだ。


 布団に横になりながら、天井を見つめる。時間は深夜1時を回ったころだった。


「カタ…カタ…」

 部屋の隅で何かが動く気配がした。


 カタリがそちらに目を向けると、襖の陰から小さな影がこちらを覗いていた。

 それは、6歳くらいの小さな子供だった。白い着物を着て、肩までの黒髪を揺らしている。肌は青白く、どこか儚げな雰囲気を持っていた。


「確かに、オレ好みだ!」


 カタリは心の中で叫びながらも、あえて動じずに観察を続けた。

 座敷童子はじっとこちらを見つめた後、ゆっくりと近づいてきた。


 そして、カタリの布団の端にちょこんと座ると、小さな手でカタリの腕をちょんちょんとつついた。

 ——触ってきた。


「……こいつ、かわいいな」

 カタリは興味深そうに座敷童子を見つめる。


 普通ならここで驚いたり、喜んだりするのだろう。しかし、カタリはただ淡々と受け止めていた。


「触れていいのは触れられる覚悟のある奴だけだ。」


 そう言って、カタリは座敷童子をひょいと抱え上げると、思い切りもみくちゃにしてやった。

 座敷童子は最初、驚いたような表情をしていたが、すぐに 「やめろや!」 と言わんばかりに奇声をあげてジタバタ暴れ始めた。


 しかし、カタリは動じることなく、そのままぎゅっと抱きしめ、頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「へぇ、こういう感じなんだな。モチモチしてる。」


 さらにほっぺたをムニムニと引っ張る。

「なるほど、結構弾力あるな。」


 座敷童子は顔を真っ赤にして暴れまわったが、カタリはまったく意に介さず、淡々と座敷童子の感触を確かめ続けた。

 しばらくすると、座敷童子は 「キイイイッ!!」 と悲鳴を上げ、全力で逃げ出してしまった。

 その晩、それ以降座敷童子が現れることはなかった。



 翌朝、カタリは爽快な気分で目を覚ました。


「いやー、座敷童子と戯れるとか、最高の体験だったな!」

 しかし、旅館の廊下を歩いていると、背後から 「チッ……」 という舌打ちが聞こえた。


「ん?」

 カタリは無表情のまま振り返ったが、誰もいない。


「……なるほど、怒ってるということか。」

 彼は淡々と推測を立てる。


 その後、朝食の席に向かう途中でも、部屋に戻る途中でも、カタリが通るたびに 「チッ……」 という舌打ちが聞こえた。

 明らかに座敷童子の仕業だ。


 それからというもの、旅館を出発する直前まで、カタリが歩くたびに舌打ちがついて回った。

 おかげで、女将が「お、お気をつけて……」と微妙な表情で見送ってくれたのも印象的だった。


 そして、帰宅後……

 東京の自宅に戻ったカタリは、しばらくすると妙な気配を感じるようになった。

 部屋の隅から視線を感じる。


 深夜、枕元で——「チッ……」


「……こんなところまでついて来たのか?」

 カタリは布団を被りながら、特に驚くでもなく呟いた。


 それからというもの、風呂場、トイレ、仕事中、どこでも「チッ……」という舌打ちがついて回るようになった。

 だが、カタリはまったく気にしなかった。


「いや、だが、お前が最初に触ってきたんだから、お互い様だろ?」

 そう言ってみたものの、返事はない。

 ただ、深夜になると決まって——「チッ……」

 という舌打ちが、どこからともなく聞こえてくるのだった。



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