八番サード佐古田剛
今年のドラフトで入った小林悟という外野手がいる。
高卒で守備に定評のある選手だ。
しかし、外野層の厚い横浜である。
身体作りに専念するということで今年は二軍で育成の方針だった、はずなのだが。
球宴一日目の夜、優のスマホに電話が入った。
「三神先輩、俺、後半戦から一軍昇格です!」
悟の言葉に、優は驚きはしなかった。
現在横浜は怪我人続出。打撃好調の悟に白羽の矢が当たったというわけだ。
「良かったな。少ないチャンスだ。ものにしろよ」
一軍半の選手にチャンスはそう多くはない。
数少ないチャンスを掴んだ者が一軍に定着していくのだ。
そして、若さは武器だ。
一軍に抜擢されるということは期待もあってのことだろう。
「はい、俺、頑張るっす!」
悟の気合の入った声に、優は思わず頬を緩めた。
結局、球宴は徹がMVP。知名度が全国区となった。
ホームランの弾道は規格外で、アイドルの彼女と付き合っていることもあってしばらくはお茶の間を賑やかせた。
そして、後半戦がやってきた。
阪神にも、数少ないチャンスを物にしようとしている選手が一人。
佐古田剛。
三神世代のサードで、秋田の元チームメイトだ。
三番秋田、四番勇、五番佐古田で盤石のクリーンナップを誇っていた。
全員プロ入りしているのだから大したものだ。
それを抑えて甲子園行きの切符を掴んだ竜也も大したものだが。
その佐古田剛だが、阪神入りしてからはプロの壁にぶち当たっている。
一年目の成績は出場試合は二十。打率は二割台を切っている。
二年目は二軍で二割台後半を打ってホームランも二桁打っていたとは聞いていたが、一軍に呼ばれるとは思わなかった。
長打力はある。しかし柔軟さに欠けるバッターで、竜也にも手球に取られていた。
プロの世界への適応にはもう少し時間がかかると思っていた。
サードの群馬選手の怪我で一軍ベンチに大抜擢されたらしい。
その阪神三連戦である。
相変わらず甲子園の声援は凄い。
腹に響くとはこのことだ。
そんな中、こちらのファンの声援も響いてくるのが心強いところだ。
青いタオルがあちこちで揺れている。
「阪神は今首位だ。その意味、わかっているな」
ベンチで監督が言う。
「勝たなきゃ優勝が遠ざかる」
「わかっていればいい」
頷く。
相手側のベンチに目をやる。
スターティングメンバーではないが、剛は確かに座っていた。
高校時代よりも一回り身体が大きくなっている。
この一年で筋肉を随分つけたように見えた。
(状況次第じゃ代打で出てくるか……)
癖は知り尽くしているつもりだ。
しかし、一年。相手も色々と経験しただろう。
知らない相手と対戦すると考えたほうが良さそうだった。
「先輩、俺、頑張るっすよ!」
「お前がスターティングメンバーとは思わなかったよ」
優は苦笑交じりに言う。
悟は今日のスターティングメンバーなのだ。
人材難の今、悟がどれぐらいやれるか。
今日は悟の試練の日となるだろう。
つづく