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7/8

楽しい球宴

 第一試合の先発は、去年沢村賞にも選ばれた巨人の敦賀投手。

 百五十キロ後半のストレートを軸にパワーで押していくタイプの投手だ。


「変化球から入れ?」


 優の提案に敦賀は難色を示した。


「多分水瀬はこういう舞台だからストレートがくるものだと思っています。ストレートがくるとわかっていたら、奴は百パーセント打ちますよ」


「あのな」


 呆れたように敦賀は言う。


「俺はそんじょそこらのピッチャーじゃねえ。百二十勝だ。百二十勝積み上げてきた。その原動力はなんだ?」


 優は諦めて言う。


「速球です」


「そうだよ。観客も今日の敦賀は何キロ出すかなってそれを見に来てる。それを変化球スタートだ? 夢の球宴でそんなことやってられるかよ」


「しかしですね」


「しかしもなにもない。俺はストレートしか投げん。今日は最高球速を更新するつもりで来たんだ」


(うーん。まあいっか。球宴だし)


「わかりました。けど、打たれた時の責任は取りませんよ」


「打たれねえから大丈夫よ。お前、ちょっと活躍してるからってベテランを舐めてんな」


「いやいや、そんなことは」


「まあ、ビッと見せてやるよ。百二十勝の実力をよ」


(どうにでもなーれ)


 徹はともかく直球に強い。

 高校時代からだ。

 というか、当初は変化球がさっぱり打てなかったというのが正しい。


 そんな中でも速球への対応力は抜群だった。

 それを磨いて、今に至る。


 指定席にしゃがみ込む。

 徹がバッターボックスに立つ。

 パ・リーグの切り込み隊長。

 こいつも出世したものだと思うと感慨深い。


「ストレートですか」


 徹がニヤつきながら言う。


「さあね。お前がストレート待ってると思ってほいほいストレート要求するアホもおるまいて」


「けど先輩にベテラン投手の手綱を引く求心力はあるかなあ」


(こいつ……)


 やめよう。話せば話すほど苛立つ。

 第一球。敦賀は投げた。

 外角低め、絶好のストレート。


 スピードガンは百五十八キロを計測。

 全てを破壊するような破壊音が鳴った。


 球はおおよそホームランとは思えない低い弾道で観客席に突き刺さった。

 徹はバットを放り投げて悠々とマウンドを回る。

 大勢の観客が盛大な声を上げる。

 そして確信する。

 こいつは本物だ、と。


 まるで徹のための球宴だ、と思う。

 敦賀が近づいてきたので歩み寄る。


「で、だ」


「はい」


「次なに投げれば良い?」


「サイン決めます?」


「頼む」


 そしてそのうち、投手が変わる。


「お願いがあります。他の打者は別にいい。けど、水瀬だけには変化球で入ってもらえませんか」


「俺は今日ストレート以外投げる気ねえな。サインもいらねえよ」


 ほんと、明日の見出しは徹で決まりだな。

 優はそう思って憂鬱になった。



続く

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