代打屋 古賀駿河
古賀駿河という選手が言う。
義足の選手ということで少し有名だ。
一塁しか守れないということで一年目は指名を見送られ、社会人に進み、四割四十本という異次元の成績を残した。
二年目は二軍スタートだったがやはり四割をうち、今は横浜の一軍ベンチを温めている。
優の同期だ。
そして、第二打席も優は良いところがなかった。
ここまで竜也は完全試合ペースだ。
一人の走者も許してはいない。
支配者。
そんな言葉がしっくりくる。
対してこちらは二失点。
二点が遠い。
「今日の荒川はちょっと相手が悪すぎるな」
監督がぼやくように言う。
「それでも俺は」
優は言う。
「俺はやってみせますよ」
監督は笑う。
「ああ、そうだな。俺が試合を諦めたらいかんな。最少失点で頼むぞ」
「はい!」
そして、七回の第三打席。
ここまで布石は巻いてきた。
露骨な変化球狙い。
そして相手の配給の傾向詠み。
相手は変化球を待っていると思うだろう。
そこを狙う。
「竜也も三神くんも頑張ってー!」
龍希の声がする。
本音では竜也の応援しかしたくないのかも知れない。
それでも。
それでも自分はその声に縋りたい。
この気持ちはなんなのだろう。
考え事をしているうちに速球が走った。
反応できなかった。
計算外であり、計算通りでもある。
これも撒き餌。
ニ球目も速球。
バットを振る素振りすら見せない。
竜也が小さく微笑んだ。
そして、三球目。
ボールは内角に外れた場所へとクロスファイアで突き刺さった。
腕を折りたたんで、弾き返す。
良い音がした。
球は放物線を描いて、観客席に入っていった。
悠々とダイヤモンドを回る。
あのバッテリーは二球ストライクを取ると一球必ずボール球を投げる。
竜也のコントロールならそれは非常に際どいものになる。
それならば、優の技術ならばホームランにすることも可能だ。
なんとか一矢報いたか。
安堵の息を吐いた優だった。
この試合は結局負け、前半戦は三位で折り返した横浜だった。
その夜、荒川夫人の催しにより、三人で飲もうということになったのだが、肝心の竜也がいない。
龍希が申し訳無さげに言う。
「ごめんねえ。誘ったんだけど拗ねちゃって」
「いいよ。俺も三タコで終わってたら顔も見たくないとこだった」
「君達のそういうとこってわかんないなあ。けど、職業野球やってるってことだよねえ」
「そういうことになるね。竜也、早くメジャーいかないかな」
「わかんないかな?」
龍希が面白げな表情で言う。
「優君もそう思われる選手になりつつあるんだよ?」
意表を突かれる言葉に、一瞬真顔になる。
「……まだそんな実感は沸かないなあ」
「そのうち湧いてくるよ。実感もね」
実際、今年はホームランキングも射程圏内に狙える位置にあった。
続く