幸せな生活
実際の執筆年代がいつかは記憶がない。
だが、おそらく、これが、友人のサイトに投稿されたものの中ではもっとも新しいものになる。
もはや、あまり長いものは書けなくなっていたのかもしれない。
幸せな生活
「ねぇ、ぼくはダメなヤツなんだよ」
彼が私にそう言った。そんなこと、ないよ。
「でもさ……みんなが怖くって、うまく動けなかったんだよ」
そんなに、自分をダメだって思わなくても、いいと思うな。
私は、好きだよ? あなたのこと、とっても。
彼は、私の手をにぎる力を少し、強めた。
「ありがと……うん、ありがとう」
そのままで、しばらく私たちは何も言わなかった。
部屋の中に、やさしい風がふいてきて、私の髪をゆらした。
「ホントは、さ」
再び、彼が口を開いた。
「みんなのこと、怖がらずに、ちゃんとやるべきだったんだ。わかってるし、わかってた。でも、怖いんだよ。とくに明確な理由もないのに、怖いんだ」
怖がるのに、理由はいらないんじゃないかな。
「でもさ、怖がる必要、ないと思うんだ。それに、たとえ怖がっていたとしても、ぼくは恐怖を克服したいんだよ。でも、負けっぱなしなんだ。自分には絶望したよ」
でも、あきらめなければ、できるときだってきっとくるよ。だいじょうぶ。
ずっとできるわけじゃなくても、ちゃんとできるときだってあるから。
「でも……するべきときに、うまくやれないのは、つらいよ」
やっぱり、あなたは、いい人だね。
「なんでさ?」
つらいって感じるのは、あなたにある程度の良心があるからなんだと思うな。
でも、つらいって感じすぎるのも、どうかと思うけどね。
「そっか……」
彼は、しばらくぼうっとしていた。
「ねえ。あのね」
「うん?」
私のよびかけに、彼はこくびをかしげてこっちをむいた。
「好き」
ぴくん、と彼のまゆがあがったあと、にっこりと笑う。
「ぼくも、愛してる」
「ね、だから、そんなこと考えすぎるの、やめよう? だいじょうぶ、きっとうまくいくよ。うまくいかなくっても、大丈夫。うまくいこうがいくまいが、トライするだけだよ、私たちは。自分を責めすぎること、ないよ。まあ、責めた方がうまくいくときもあるような気は、するけどね。ねえ、でも、それでも私はあなたが好きだよ。だから大丈夫。ダイジョブなんだよ」
彼は、しばし沈黙した。ゆっくりと、言われたことを吟味しているようだった。
「なんだろ。何か……うまく、言葉にできないや」
じゃあ、言葉にしなくっても、いいんじゃない?
「そうだね。でも、とりあえず―――」
彼が私に笑ってくれる。
「ありがとう」