第6話 おやっさんはお呼びじゃないんだよっ!
ギュッと抱き締められる母の温もりは優しい。
その温もりで自分はまだ子供だと気づかされるのであった。
その僅かな沈黙を割って入るかのように、激しいドアのノックが沈黙を掻き消した。
「おどうざんも仲間に入れてぐれよぉぼぼぼぉ」
そう親バカならぬ、バカ親と母さんが呟くくらい錯乱し本音が溢れる男、父さんであった。
父は修行中以外は子煩悩であった。
母から止めろと言われるくらいに。
思い出を記念にと絵にその時の家族の風景を写生したり、思い出にと家族と行った旅先で座った椅子を買って持ち帰ったり、思い出にと食べ終わったチキンの骨を持ち帰ったりと(流石にそれは母が捨てていた)思い出しただけで戦慄を覚える狂気な親バカである。
母さんにも一時こんな愛してるぜ行動があったらしいが、離婚すっぞ?このストーカー症候群野郎と罵ったら、泣きながら止めたらしい。
「女々しくて辛いわ!いい年した大きな大人のおっさんが嗚咽しながら泣くな、こっちも興醒めするわよ。」
母さんが一喝する。
さっきまで母子で泣いていた自分達も我に帰りに父さんを哀れむ様な目で見ていた。
父さんが泣きながら両手を広げている。
抱きつけってことなのか?自分達は顔を見合せやれやれって感じで飛び込むしかなかった。
だって拗ねたらめんどくさいんだもん、この人。
しかももうすぐ親子離れ離れになるのは時間の問題である。
自分も父さんのことは嫌いではない。キモいと感じるときもあるけども。
こんな時間も大事なのだ。
「俺は、フログの成長を見守りたかった。フログにも子供の内から俺みたいに苦労させて生きさせたくはなかった。子供らしく生きてゆかせれれば!それが出来れば良かったんだ。
ここから先、俺達はいない。オールがいるがあれはフログ達、俺や母さんマンダリンや姉御の記憶や知識を持っているが、俺達ではない。フログお前の親は俺達しかいないんだ。
俺達はいずれフログ達とどんな形になれどパーティーを組むことになるだろう。その時自分達がどんな形になっていようと父母として接してくれれば嬉しい。それがどんな悲しい形であろうと、俺達とお前は家族だ。それだけは忘れないでくれ。」
オールに対する心のつっかえが取れた気がする。
親は俺達しかいない、マンダム バルハラしかいないと言うこの一言でオールに対する答えが出た気がした。
オールと親 自分達は似て非なる者、個別なる者なのだ。
だからオールに対するさっきの拗ねた行動はとても自己中なこと、ただの逆恨みも良い所である。
後で謝りに行こうと父さんの言動のおかげで反省することが出来たのであった。
「いつまで抱き締めてるのよ!フログ、このおっさん臭くて嫌よね。」
母さんは多分照れ隠しで元の定位置に戻る。
顔が真っ赤である
俺はもう少しこうしていたいから少しだけ鼻水とよだれを父さんの服で拭いてから定位置に離れた。
「もう少し抱きついていても良かったんだが。まあ、オールに対して反感感情がでるかもしれないが俺達とは個別、オールとして見てやって仲良くしてくれ。フログやセーラの良き理解者としてやっていけると思うから。
本音を言うと自分達がフログ達を育てていきたかったが、もう時間がない。後は男同士の約束だ!フログ強く生きろよ!そしていつかパーティーを組む時まで死ぬなよ!」
父さんは親指を上に立て部屋を後にした。
ああ見えて色々忙しい人なのだ。
「そろそろ母さんも行くわね。オールに引き継ぎが済んだらフログにも私のラボの説明をするわ。それまでにマシーンで粗方ラボの仕組みを頭にインストールしとくからある程度把握しといてね。」
またこのパターンか。しかし時間がないのは事実。
母さん達の話の予想では出発までの期間は多分冬が終わるころだろう。
その頃は自分も5歳になっているはずだ。
それまでは――――――――――できる限りのことをしようと決意するのであった。