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9 世界の軸と世界を紡ぎ出す少女


 最上階にて。


「最上階って国会議事堂より上にあるのか。壁とか床は綺麗だが何もない空間だな。こんなところに何の用事があるのだろうか。なぁ凛」


 凛は黙って俺を見つめていた。


「真言。実はあなたに言わなきゃいけない事があるの」


「なんだよ。急に改まって」


「あなたがここに呼ばれた理由は世界の軸に選ばれたからなの」


「世界の軸?」


「世界の軸はこの世界のありとあらゆる事象の決定者の事を指す。しかし独裁者とは違うわ。あなたが基軸となり世界が動くだけ。詳しくは今から対面する"世界を紡ぎ出す少女"が説明してくれるから。じゃあ私はこれで失礼するわ」


 凛はこの場から立ち去っていく。


「ちょっと待てよ。最後に一つ教えてくれ。凛は一体何者なんだ?」


「私は……観測者。あなたと同様に力を持って生まれてきた。だから必要な役割を果たす今になるまでX十年間眠らされていたの。これからも役目を続けていく。それが私の務めだから」


 凛は最上階の部屋から出ていった。


 観測って何だ?


 世界を紡ぎ出す少女って誰なんだ?


 数分後。世界を紡ぎ出す少女が俺の前に現れた。


「お前は……縁導?」


 現れたのはクラスメイトの会話したことのない女子生徒、縁導玲奈えんどうれなだった。


「そう。私が世界を紡ぎ出す少女。お話するのは初めてだね。恋澄君」


「おう。そうだな」


「あなたは世界の軸に選ばれた。そして三週間程前から世界の軸となり、こうしているうちにも世界の軸としての役割を果たし続けている」


「役割って……特に何もしていないが」


「世界の軸は軸として存在する事に意義があるの。無自覚でも存在している事で世界が成立している」


「俺は神様って事か。どうにも信じられないが」


「自身を神と捉える事は否定しない。あなたの一存でこの世界の方向性が確定するから」


「なら、多くの人を犠牲にする危険な不死身化薬をなくして、SW冷戦を終結させる事も可能なのか」


「可能ではある。しかし実現はしない。あなたがそれを本当に望む事がないから」


「俺が望んでいない? 馬鹿言うな。俺は不死身化薬製造の実態もSW無効化も聞いただけで腹立たしいぞ」


「でもそうしないと社会の秩序が保てない事を深層心理であなたは理解している」


「ゔっ……」


 少し図星だった。


 不死身化薬がなければ俺は死の恐怖に晒され続けるし、SWで強制的に抑圧した社会は各国が互いに泥濘みに足を付け合っている状態であり、いずれ共倒れする運命にあるという事も。


「X十年前。先進国の人間が平和に暮らす傍ら途上国では国民が飢餓に、不安定な政治情勢の国では大量の難民が発生し、独裁国家では沢山の人が処刑された。そういった人々が大戦の戦禍によりほとんどが淘汰されても、地下の赤ちゃん工場で生まれ不死身化薬を製造し死んでいく命が存在する。恵まれない人々を見て見ぬふりしないと先進国の人間は精神の平静を保ち生きていけない。あるいは心の奥底で人類の格差は当然存在するものと認識して生きている。国際情勢の凄惨なニュースを観て涙を流した5分後にはお笑い番組を観て笑っている。アフリカの子供を十人救える募金額で好きなアイドルのCDを買っている。人間は常に不平等だ。あなたはそれを受け入れて生きていてそんな世界を愛している」


「やめろ。俺はそんな薄情な人間じゃない」


「あなたに世界は変えられない。あなたが抱えている病。死の恐怖タナトフォビアを克服しない限り」


「タナトフォビア……」


「あなたは死を……恐れ過ぎている」

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