3 過去から来た少女
番組は正反対の偏った思想を持った出演者に煽り合いをさせる内容で面白かったが、あまり参考にはならなかった。
ただ不死身化薬は不確実な存在でありながら元来の死生観を覆す代物であるという事に変わりなかった。
そろそろ風呂に入ろう。
んっ!?
浴室のドアを開けると見知らぬ小学校高学年くらいの女の子が風呂場にタオル一枚で立っていた。
「きゃあああああっ。変態!」
「あっ。ごめん……ってお前誰だよ!?」
「誰って……こっちのセリフよ!私は自分の家のお風呂から出ようとして……あれ? ここどこ?」
俺は一旦扉を閉めた。
どういう事だ。知らない女の子が何故俺の家の風呂に?
「あの、このままじゃ風邪引いちゃうから風呂から出てもいい?」
お互い訳の分からぬまま自室にトンボ帰りした。少女にとりあえずTシャツとハーフパンツを貸した。
「いきなり知らない人の家にワープしちゃったみたい。どうしてかは分からないけど」
「俺だってわけが分からない。とりあえず話し合って状況を整理しよう」
「私は沙遠凛。小学六年生。あなたは?」
「俺は恋澄真言。中学三年生」
沙遠凛はカレンダーを見て驚いたように目を見開いた。
「嘘……二〇XX年!? X十年後だ……」
「どういう事だ……」
「私、未来に来たちゃったみたい……」
数十分後。
どうやら凛は二〇二X年からタイムスリップしてきたらしく、現代の知識がまるっきり欠落していた。
そんな訳あるか!
話を聞く限り、ただの家出不法侵入少女の狂言とでしかない。
しかし、警察に連絡し顔認証データを送信したらX十年前に死んだはずの少女と一致した。
照会したデータは警察を通して開示しないと出てこないかつ正確なデータなので他人が偽る事は不可能だ。
にわかに半信半疑だが、この不条理も事実であれば現実として受け止める他ない。
「凛の言っている事は到底信じ難いがとりあえずこの状況は受け入れるとしよう」
「どうしよう。私過去に帰れるのかな」
「今のところ分からない。俺の母なら何かの助けになるかもしれない」
俺の母は少し特殊な仕事をしており、こう言った不条理な事態の対応に慣れている。
「ただいまー……って誰その子?」
母が仕事から帰宅した。
「実はかくかくしかじかで」
「なるほど。X十年前に死んだはずの女の子ね。この場合、公的機関に繋げると逆に厄介な事になるわ。しばらくうちで預かった方がいいわね。凛ちゃんはしばらくこのうちにいても大丈夫?」
「はい……どうすればいいかわからないので……すみませんがお世話になります」
こうして過去から来た少女が居候になった。