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廃村巡り  作者: 吉野貴博
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上中下の下


 井戸の高さは腰ほどまで、壁面は石積みでしっかりと作られている。

 薄い板を貼り合わせて厚みを作った蓋がしてあり、風で飛ばされないよう石が乗せられている。

 石をどけて中を覗いてみるか。一人が躊躇するが三人がやる気を口にしたので手早く石をどかし始める。全てそれなりの大きさで、誰とはなしに一つ二つ三つと数を数え始め、二十にならないうちに全ての石をどかし終えた。

 蓋を持つとこれがまたとても重い。この厚みでここまで重い物だろかと不思議に思いながら四人で力を合わせ、少しずつずらしていき、そっと井戸壁に立てかけるように下ろす。

 日はようやく中天となって、井戸の中をまっすぐ照らす。

 水面はかなりの高さまで来ており、井戸が生きていることにも驚くが、手を伸ばせば水に触れそうなところまで来ていることにも驚く。が、誰も触れようとは思わないし、飲もうとも思わない。もともと石を投げ込んでみようと思わない者たちなのだ。

 ここには天井がなく釣瓶もないが、当時からこの高さまで水が来ていたのだとすれば、水くみは容易であろう。

 井戸の静謐さ水の綺麗さにあてられ、誰からともなく手を合わせる。そのまましばらく井戸を見て、ようやく撮影を始める。

「あ、この井戸が〝水の種〟を入れた井戸かな」

「そうかもな。そういや他に井戸、見なかったな」

「でもここも見つけづらいところじゃん。他の井戸もこういう土地の人しか解らないところにあるのかもよ」

「うーん、寺に向かう石段の途中からってのが神秘的だな」

 話をしながら記録をつけ、見落としがないか確認し、四人でまた苦労しながら蓋をする。

 住居エリアに戻り、もう大丈夫だろうと四人が別々に最後の探索を行い、見落としていたものはないか、どこかに道がないかなど思い思いに散策するのだが、特に何も見つけられずに、まだ日が高いうちにこの村を後にした。

 この日は近くの温泉街に泊まる。

 観光案内所や話し好きの人に村のことを聞いて回るためだ。が、やはり芳しくない。Dが来る前に調べたこと以上のことは解らず、温泉と料理を堪能するだけに終わった。


 家に帰り、四人はそれぞれに記録したものを整理し新たな廃墟巡りの一項目に収めようとしたのだが、いくつかの場所の写真は廃棄しなければいけなかった。

 人の顔が写っていたのである。

 思い返していれば、Dが調べた話の中には、「どこから来たのか解らない若者が」何人いたのかは調べられていなかった。四人にとって壁に等しかった森の一カ所に写っている男とは。〝水の種〟の正体とは。

 これらの写真を持ってもう一度あの村に行けば解ることはかなりあるようなのだが、この顔を見るとあだやおろそかでは行けないなと思わせられ、画像データを消去するしかなかった。


YouTubeにアップした朗読https://youtu.be/o3Ssw_pP2YI

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