コーヒー牛乳の相談だ!
今日も今日とて、仕事に向かう人込みの中に、彼女の姿はあった。
艶のある綺麗な黒髪を靡かせて、出社した彼女はいつも通りにデスクの椅子に腰を下ろすと、自身の仕事をこなしていく。
そして程なく、小休止を取ろうと、そこには一人の先客の姿があった。
「あ、先輩」
「あら~、萌香ちゃん、もしかして休憩? ちょっと待っててね、今萌香ちゃんの分も、一緒に珈琲、作ってあげるから」
そこにいたのは、いつも笑顔を絶やさず、包容力の塊のような雰囲気を纏った、先輩女性社員であった。
そんな先輩のご厚意に甘えて、萌香は先に席に腰を下ろしていた、が。
「あら~! あらら~っ!!」
コーヒーメーカーに翻弄される先輩の様子を目にし、小さくため息を吐くと、萌香は先輩の応援へと駆け付けるのであった。
「ありがと~、萌香ちゃん。本当に、萌香ちゃんは何でもそつなくこなせて、羨ましいわ」
「いえ、これ位」
こうして結局、自分の分と共に先輩の分も用意した萌香は、珈琲を飲みながら、先輩とお喋りしながらの小休止を始める。
「所で、先輩」
「何?」
「さっき、また課長からセクハラまがいの事されてましたよね。ハッキリ言った方がいいんじゃないですか?」
萌香の言うセクハラまがいの事とは、毎日デスクワークで肩が凝ってるんじゃないの、ほぐしてあげるよ。と言いながら肩もみをしてきた一連の行動である。
「え? でもあれは、課長さんの気遣いだよ?」
「……、はぁ」
包容力があり過ぎるのも問題だな、と言いたげなため息を吐くと、萌香は再び話を始める。
「美琉玖先輩、あれは紛れもなく下心あっての事です。だから先輩、一度、ハッキリ言ってみたらどうですか? 散らかったその頭頂部みたいに汚い手で気安く肩に触るんじゃねぇっ! と」
「……、も、萌香ちゃんって、時々凄い事、言うよね」
「そうですか?」
「あはは……」
その後も、二人は暫し、給湯室でお喋りを続けた。
そんな二人の様子を偶々目にした同僚は、コーヒー牛乳だ、と小さく独り言ちる。
そう、萌香と美琉玖。容姿も性格も対照的なこの二人は、その名前も相まって、この凸凹コンビは社内では、コーヒー牛乳との愛称で、密かに呼ばれていたのであった。
なろうラジオ大賞2に応募する為に書いた作品になります。
千字以内に纏めるというのは、なかなか難しいものですね。
最後に、本作品を読んでいただきありがとうございます。