その九十八 垣間
「う、あ……」
「ったく、後輩ってのはどいつも手がかかるわね」
ケイナは倒れたフィンを見下ろしながら、ため息をついた。
魔力の限界なのか、纏っている鎧は徐々に塵へと消えていっている。
「フィン……まだよ。私が」
「やめときなさい。別に命まで取る気は無いから」
横に居たメリルはフラつく足取りでフィンに近づいた。
互いに限界が近かったようだ。
もう彼らにも、戦いを続けられる余力は無い。
「どこにでも消えなさいな。次会った時に、きっちり決着着けましょ」
「っ……クソ人間、そんな余裕こいてられんのも今のうちだから!」
「……先輩、何で僕らの邪魔をするんですか。分かるでしょう?人間に、救う価値なんて無いんです」
「勘違いしないで。人間救う、なんて大層な目標は掲げてないわ」
「アイツらは、僕らエージェントを……」
「アンタの思ってる通り、人間なんて救うほど尊いもんじゃないわ。でもね、何でもかんでも周りのせいにしてるアンタも、まあ醜いものよ?」
「なんで分からない……!」
「アンタみたいに両親殺すほど落ちぶれちゃいないわけ」
フィンはケイナと一時だけ睨み合った後、メリルの羽ばたきと共にその場から消えていった。
「カップルって言っても、ああはなりたくないわね」
「ケ、ケイニィ……終わったなら、ちょっと起こして欲しいです」
突然来た疲労に嘆息しながらも、ケイナはクルの方まで歩み寄っていった。
〜〜〜〜〜〜
「タリムを救う……というのは、どういうことだ?」
ワタシたちはウェルスの案内をあてに、城内を駆け回っていた。
向かう先は王の間。黒騎士がいる所らしい。
「タリムはこの進化の方舟の幹部となりました。今は恐らく王の間にいます」
「幹部……アイツなりに覚悟を決めたわけか」
「それが、進化の方舟は幹部になったものにある儀式をするのです」
「儀式?どういう内容だ」
「魔王の手で魔力を与える儀式、とだけ聞いています……ですが、ある魔族がそれで死んだのを最近目の当たりにしたんです」
「魔力を与えるだと?何故わざわざそのようなことを」
「その儀式を耐えた先に、何かがあると」
「……それは、ザヲという魔族か言ってなかったか?」
はい、とウェルスは戸惑いつつも頷いた。
己に魔力を満たし、それを耐えた先。
ついこの間のワタシと似たような状況に思えた。
ザヲが言う「新人類」への覚醒。
ここでも行われているというのか。
あの魔族は未だに目的も素性も不明のままだ。
「_______________っ!おい、お前ら!」
セリルの警告に思わず足を止める。
見る先、強大な魔力が舞い降りてくるのを感じ取った。
炎の燻る音。
火炎の刃がワタシ達を襲った。
その場にいた3人は即座に飛び退き、地を切り開く術撃を回避した。
「_______________お久しぶりです」
炎の衣、漆黒の翼、そして見慣れた顔立ち。
「タリム……!!」
タリム・レッドゲイルは冷たい表情のまま床に降り立った。
見慣れていない魔族時の姿にワタシは少し動揺した。
「言いましたよね。次会うときは敵だと」
「ああ、ちゃんと覚悟して来た」
「それは重畳……ですが、そこの奴はいただけない」
「タリム。あの儀式は、大丈夫だったのか?」
「話しかけるな。今お前が何をしているのか、分かっているのか」
タリムは冷たい視線をウェルスに向けた。
その瞳にはかつての親愛の情は無いようだ。
「儀式は中断された。私には負の感情とやらが足りていないらしい」
「魔力を与えられた魔族の末路は、お前も見たはずだろ!今すぐ諦めるんだ!」
「あの者には負の感情が足りなかったのだ……あれを耐え抜いた先。私は次なるステージへと進める」
「っ、今のお前は……」
「ウェルス、止めておけ。今のタリムには何を言っても無駄だろう」
「マリ様……貴方は1度覚醒なされたのでしょう?リリナの死んだ、あの時に」
「……ああ、そうだ」
「なら、その時の感情を思い出して私にぶつけてください!負の感情は伝播する。私と貴女が憎しみをぶつけ合えば!」
タリムの目に、轟々と燃える黒い炎が見える。
焦り、羨望、憎しみ、どれもあの時から見えていた感情だ。
だが、今の見えているものはその時とは質が違う。
ドス黒く濁った感情に染まっているのだ。
別人と思わなければ、その変わり様に目が眩みそうだった。
「私は、ようやく前に進めるのですよ!!」
「タリム、お前の目指す先には何がある」
「!!……無論、人間の絶滅です」
「_______________そうか」
塗り固めた負の仮面が、微かに崩れるのを見た。
何か未練がある。隙間から漏れ出たのはそういう感情だった。
「セリル、ウェルス、手は出さないでくれるか?すぐに、終わらせるから」
ワタシは憎しみから遠くかけ離れた感情で、その戦いに臨んだ。




