その九十六 分断
揺れる車内。
そこには重苦しく、静かな空気が流れていた。
「……もうすぐだそうだ」
ハンドルを握っていたセリルが告げる。
機車の向く先には泰然とした山々。
だが、そこに何があるのか、ワタシ達は知っていた。
〜〜〜〜〜〜
「着いたな」
機車を止めたセリルが開口一番に言った。
見据える先には山、山、変わっていない。
「本当にあるの?山しかないんだけど」
「ボクも何も見えませんけど……マリーは分かるんですよね」
「あぁ……結界が張ってある。本拠地は外からじゃ見えないようになっているのだ」
見えはしないが、確かな存在を感じていた。
魔王軍の本拠地たる場所がそこにはあると。
「引き返すなら今だぞ。いいのか」
「……え、誰に言ってるんですか?」
ワタシの言葉に応える者はいない。抱く思いは誰もが同じであった。
7人中、1人を除いて。
「ううう!ううううう!!」
「マリ様、このウチの御当主はどうしますか?到着しましたし、もう用済みですけど」
「置いていっても、いいんじゃないでしょうか」
「ううむ。まだコイツには聞きたいことがあるんだが……」
依然変わりなく縛られているザインを見て、頭を搔いた。
ここに放置していくのも、侵攻に連れていくのも危険だろう。
どうせ足でまといになるのなら……。
「殺す、ってのはどうかな?」
進行方向、例の場所からの声。
その聞き覚えのある声に思わず振り向く。
「邪魔だろ?殺せばいいんじゃないかな」
「リンク……何故お前が?」
リンク・セイヴハート。
セイヴハートの屋敷での一件から忽然と姿を消した男がそこにいた。
「何故って……わざわざ言わなきゃ分からないかな?」
「……お前が、新魔王軍の一員だからか」
「当たり。でも、ちょっと違う。今はもう新魔王軍なんて古臭い名前じゃない」
リンクは大袈裟に手を広げて言った。
「魔王軍改め「進化の方舟」それが今の僕らの名前だ」
「進化の、方舟?大層な名前だな」
「結成記念に……あの方からお父様に言伝です」
「は?あの、方_______________」
瞬間、走る魔力の流れ。
「_______________待て」
気づいた時にはもう遅く。
リンクの指から放たれた光がザインを貫いていた。
その数瞬の出来事にワタシ達は反応すら出来ていなかった。
それほどにリンクの動きが速かったのだ。
「くっ、はははは!!」
崩れるザインにリンクは高らかに笑った。
実の父親を手に掛けても、その精神が乱れることはない。
この男は魔族側へなるべくしてなった男なのだ。
「っ、リンク・セイヴハート……それじゃあ貴様は、完全に敵対者でいいんだな!」
「はは、いやいや流石にここでやる気は無いよ。1対6じゃあ勝ち目ないし……僕は命令されたことをしに来た、だけ」
リンクの懐から取り出されたのは小さな魔導器。
何度も見た、ポータルを生み出す魔導器だ。
それも計3つ。
「_______________!お前ら、1箇所に集まれ!」
「ははっ、ダメだよ!!」
行動に移すよりも早く、辺りは闇に飲まれた。
〜〜〜〜〜〜
「_______________前ら!無事か!」
闇が晴れた先。
ワタシの目に飛び込んできたのは、煌びやかな内装。
何かの建物内にいる。間違いなくさっきいた場所ではない。
「っ!おい!おい!誰かいないのか!」
「ちっ、分断されたな」
見下ろすと、セリルがあぐらをかいて座っている。
それ以外の者は見当たらない。
「他の、者達は」
「私以外はいない。マズイな。お得意の魔力感知でどうにかならないのか」
「……ダメだ。魔族が、一帯にいる反応が多すぎる」
「奴らの本拠地ってのは間違いないってことか」
連れていくとは言ったが、無駄死にさせるとは言っていない。
失う覚悟はしていたはずなのに、明確な焦りがワタシを駆り立てている。
思わず歯噛んだ。
「マズイな、どうす……魔王。警戒しろ」
突然身構え、セリルは鋭く睨んだ。
視線の先、ワタシは強大な魔力の反応を感じていた。
「お前……ウェルスか?」
〜〜〜〜〜〜
『お前らあああ!今日の獲物の、お出ましだああああ!!』
つんざく大音量が、その場を支配した。
そこはコロシアム。無数の魔族が座す観客とそれに囲まれたバトルエリアの2つの区画が形作った世界。
そのバトルエリアに2つの影が立っていた。
「レ、レイミ、私……」
「下がっていてください。貴女は私が守りますから」
『最初の挑戦者は、コイツだああああ!!』
堂々と入場するは、目を血走らせた魔族。
魔族の出場と共に上がる歓声が、2人の形白を圧倒した。
〜〜〜〜〜〜
薄暗い洞窟。
無音の静寂は、とあるの2人の出現によって破られた。
ドササッ!!
「あいったた……何ここ。洞穴?」
「ケイニィ、重い、重いです」
2人の人間が覆いかぶさって現れたのだ。
不思議と2人に緊張感は無い。
状況を理解できていないようだ。
「はいはい重くて悪かったわね。よいしょ、っと。皆はどこいったのかしら」
「うう……えっと、ボクら2人みたいですけど」
見渡すも他の気配は無い。
辺りは大きく開けており、進んだ先には出口らしき光が見えていた。
「……ま、とりあえずここにはいないみたいだし。進みましょ、自称天才さん」
「自称じゃない!自他共に認めてるもん!!」
「はいはい。そうだといいわね」
ケイナがクルを掴み起こした頃、出口から近づく2つの影が現れた。
魔族だと、敵だと、何となく2人は察していた。
「……侵入者、貴女かしら?」
「そうみたいだね」
だが、それが見知った人物だとケイナは思ってなかった。
「フィン・ランネル……?」




