その九十三 駐車論争
「あかんて。機車停めんなら許可もらわんと」
訛りの強い喋りが2人を立ち止まらせる。
木陰から現れたのは三つ編みが特徴的な糸目の男だった。
「……この人に隠せって言われました。ボクは悪くありませんです」
「な、ちょ、ちょっと!何言ってんのよ!?」
「シラヌゾンゼヌ」
「なんでもええから。許可貰ってきてや」
クルを激しく揺すり出したケイナに、男は面倒くさそうに反応した。
どうやら注意しに来ただけで厳しく取り締まる様子ではない。
「な、ん、で、責任押し付けようとしてんのよ!」
「あう、あう、あう、ごめんなさい。混乱して、つい……」
「ったく。とりあえず謝ってから許可貰いに行くわよ」
「はーい……あ。待ってください!真面目ちゃんですかケイニィは!」
「何よ。許可貰えば停めれるのよ?」
「ボクたち追われてる身なんですよ!足がついちゃいますよ!」
「大丈夫……でもないかしら。それもそうね。どうする?」
「そりゃ……もちろん」
「あ?なんやどうした?」
クルは獲物を狙う獣の如く目を光らせた。
ケイナも何かを察すると、男を鋭く睨んだ。
「白帝、包囲陣展開」
「青雷は汝を追い立て、その独白を蒼へと染める」
「は?待てや何するつも_______________」
「後で謝るんで許してくださいっ!!」
クルの手から青光の帯が走った。
詠唱魔術の電撃から逃げるべく男は動こうとするが、突如立ち塞がった白騎士達がそれを許さなかった。
「自分ら、何してんのか分かってアババババババ!!」
命中した電撃が男を青く輝かせる。
その様子をクルは色つき眼鏡で眺めていた。
「南無。」
「やっちゃったわー。これ大丈夫なの?」
「気絶程度で済むよう調整しました。その後のことは任せます」
「丸投げすんのね。ま、とりあえずオッサンみたいに縛って_______________」
電撃が止み、2人が気を抜いている瞬間。
隙の間を縫うように、影は疾走する。
姿が過ぎるとケイナの身体は急回転し、勢いよく地面に叩きつけられた。
「ちょ_______________う痛たぁ!!」
「え、ケイニあ痛たたたた!!」
「なんや自分ら。どんだけ許可取りたくないねん」
瞬きの間にクルは男に組み伏せられていた。
ギリギリと締められる二の腕がクルを苦痛に歪ませる。
「な、なんで?!結構キツめのお見舞いしまし痛たたたた!!」
「ゴホ、いや効いたで。むっちゃ痛かった。けど、この程度じゃハーミル様は倒れへんのや」
「っつつ、白帝!そこの人捕まえて!!」
ケイナの号令と同時に白騎士達は動き始める。
男よりもふた回りはあるその巨躯で、掴みかかろうと手を伸ばしたのだ。
「へえへえ。えらい恵まれた内包式をお持ちで」
しかし、男はクルの拘束を外すと、迫る篭手をのらりくらりと躱し抜けた。
掴む寸前ですり抜ける体捌きはまるで浮雲のようだ。
当の本人は涼しい顔をしている。
「でも、そんな才能に頼りきりの戦い方じゃ」
男はいなしながらも、懐から小さな魔導器を取り出した。
魔導器は付いているスイッチを押されると、カシャカシャと展開を始める。
それと同時に男は大きく踏み込んだ。
「_______________俺には勝てへんな」
ガゴン ガゴン ガゴン
途端に騎士は低い金属音と共に倒れ、霧散する。
魔力の粒子が舞い上がる中、男の手には身長くらいの長さの鎌が握られていた。
「あら?もしかしなくても、万事休すですか?」
「本気ならこんなやつに負けないのに……」
「観念してや。俺かて無断駐車見過ごすわけにはいかんのや」
「むぅ、無断駐車の何が悪いんですか!いいじゃないですか!誰もこの辺停めてないですよ!」
「そりゃこんな森のど真ん中誰も停めへんやろな!無断ってとこがマズイっちゅーねん!ええか、郷に入っては郷に従えっちゅー言葉が_______________」
「おい、戻ったぞ。一体何を騒いでるん……」
男は掛けられた声に思わず振り向いた。
目に映ったのは一人の女。マリ・イルギエナである。
「なんや。無断駐車仲間が来よった_______________おぶっ!」
マリ・イルギエナは倒れている2人に気づくと、即座に男の首を掴みにかかった。
「おい、おい、おい、何をした?何をやっていた?この者らに傷をつけておいて生きて帰られると思うなよ?このクズが」
「あ、あ、お、おい、テメェ、離せ、止めろ」
「……!?ちょ、マリー!!やり過ぎです!その人はボクらの無断駐車を取り締まってただけですよ!」
「おいこら!馬鹿後輩!なに今更魔王っぽいムーブしてんのよ!アタシ達は大丈夫だっての!」
2人による必死の説得もマリの耳には届かない。
ギリギリと締める腕の力は増していった。
「い、ぎ、あ……し、死ぬて、はよ」
男がいよいよ死ぬ1歩手前くらいになった頃、後ろから忍び寄る影があった。
「何も言うな。そのまま死_______________」
「なーにやってんだこのヒステリック魔王」
気の抜けた声で現れたセリルの手によって、マリの絞殺は阻止された。
離された男は崩れ、その場に倒れた。
「……セリル」
「そいつは追っ手じゃない。2人共無事だから、とりあえず落ち着け」
「私は、私はただ……私の中の皆を、失わないために」
「何故今ポエムを口ずさむ。ほら皆引いてるだろが」
セリルは倒れた男やケイナ達を起こし、付いた土を払ってやった。
起こされたケイナとクルは、頭を抱えるマリを心配そうに眺めるのみであった。
「うぐ……ぁ、あー死ぬかと思た。ほんま勘弁してや」
「すみません、ウチの愚娘が迷惑をかけたみたいで……それで、どういう経緯でこういう状況に?」
「それな。そちらさんのお車が……ん?」
男は突然マリの顔を凝視し始めた。
そして、何かに気づくとその顔をみるみる青ざめさせた。
「あ、アンタ、もしかして、本家のマリ様?!」
「……は?」




