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その九十一 信者

 

 王都から遠く離れた山奥。

 張られた不可視の結界を抜けた先にその建物はあった。

 旧魔王軍本拠地、名も無き城。

 城下には木々しか広がっていないが、城自体はかなり大きく高大なものであった。


 城は年期を感じさせながらも古く、さびれた印象はない。

 その最も奥深くの間。玉座が設置された空間に魔族は集まっていた。


「さあ、魔王様。この玉座に」


 魔族が黒き騎士を玉座に誘導すると、騎士は導かれるまま、玉座へと近づいて座った。

 その光景に周りの魔族たちはどよめく。

 玉座に座したのは魔王。本来その座に着いていた者であった。


「_______________これをもって、我ら新魔王軍と旧魔王軍の同盟を、正式なものとする!!」


 その宣言を合図に、辺りは歓声に包まれた。

 歓声の中には泣いて喜ぶ者や叫ぶ者もいた。

 だが、その中には冷ややかな態度を取る者もいた。


 魔族間の温度差はハッキリと分かれている。

 整えられた正装の者は冷めていて、ボロ布を羽織っている者たちが騒がしくしていたのだ。

 誰が見ても一目で、その場のわだかまりを認識できる光景であった。


「_______________ふざけるな!!」


 そんな中、怒りの叫びを上げた魔族が1人。

 分けられた頭髪に装飾まみれの服は彼の身分の高さを表していた。


「何故僕が、このような下賎の輩と!ありえない!」


「お、おい。止めろ。レッドゲイルの当主も同盟を認めたのだぞ」


「関係あるか!」


 父親らしき魔族が制止しようとするが、それでも彼は止まらない。

 ズカズカと魔王の目の前まで歩いた。


「御三家は頭がおかしくなったんじゃないか?よく見ろ!こいつは1度もまともに喋っていなければ、顔すら見せていない!」


「ふふ、何をおっしゃいますか。この方こそが本物の魔王様です」


「貴様が勝手に言い張っているだけだ!本物だという証拠はどこにも無い!」


「困りましたね……では、貴方は何を見せれば納得しますか?」


「力だ!魔王だというのなら、人間を滅ぼせるだけの力を今、ここで見せてみろ!」


 魔族は黒騎士を見据えて言った。

 周りの高貴そうな魔族達も、心情を口にこそは出さないが、全く同じ態度であった。

 同盟を結んだがその存在を認めたのではない、とでも言いたげだ。


「では、魔王様」


「……ァ」


 長身の魔族の合図で魔王は動き出し、おもむろに目の前の魔族を指さした。


「なにを_______________ブ、ブボロオォ?!、ぉ!」


 苦しげな断末魔を最後に、魔族の上半身は爆散した。

 飛び散る血液と肉片に、魔族達はただただ唖然とした。


「……流石に耐えきれないか」


「レ、レドロォ!!」


 無残にも下半身だけになった息子を、父である魔族は嘆き悲しんだ。

 不満げだった魔族達も、今は怒りを露わにしている。


「よくも、よくも我が息子を殺してくれたな!」


「殺した?どうやら貴方達は魔王様が何をしたのか理解できていないようだ」


「戯言を。魔王だから何をしてもいいというのか!?」


「魔王様はこの者に魔力を与えただけですよ。これはチャンスだったのですが」


「チャンス?何が、チャンスだ……!」


「本来なら魔王様のほんの一部の魔力を受けただけでこのように無様に死にます。しかし、これを耐えさえすれば私達は_______________」


「っ、死ね、外道が!!」


 耐えかねた魔族は魔術で土の鎧を纏い、魔王目掛けて突撃した。

 緻密に練られた魔力は生半可な攻撃ならば微塵も通すことはない。

 これを破ろうと近づいた所を狙う、親魔族は考えていた。


「_______________な、」


 走る一線。

 魔王の1歩前まで距詰めた瞬間を、迸る炎の矢が射抜いた。

 貫かれた土の装甲は空いた穴から崩壊を始め、瞬く間に瓦解した。


「魔王様に触れるな。下郎が」


 攻撃の出処たる術者は蝙蝠のような羽を上下させて現れた。


「貴方は、タリム様……!」


「下がれ。今は祝うべき場だ。1度なら許そう」


「で、ですが息子が」


「魔王様を前にしての無礼、何度も見逃すと思うな!」


 睨まれた魔族は戸惑いながらも下がった。

 タリムはどよめきや集まる注目すら意に介さず、魔王の座す方へと向き直った。


「申し訳ありません。対応が遅れました」


「助かったよタリム君。おかげで余計な犠牲を出さずに済んだ」


「ザヲ様。あのような者、いくら死んだところで我らの損害にはなりません」


「ははは、言うねぇ……君は仲間思いな魔族だと聞いていたんだが」


「魔王様に無礼を働く輩を仲間と思えないだけです」


「ひょっ、いいね。これからもよろしく頼むよ」


「……はい」


 背側の長裾をはためかせ、タリムは跪いた。

 そこには魔族達をまとめあげていた御三家の威厳はない。

 いるのは疑念すら抱かず、ただ王に付き従うだけの犬だ。

 御三家の下についていた魔族。彼らのタリムを批難する声は徐々に広がっていった。


 〜〜〜〜〜〜


「タリム!」


 廊下を1人歩くタリムを、ある魔族が呼び止めた。


「……ウェルス。どうした」


「どういうことだ?あれは、昔よくしてくれた一家の魔族じゃないか」


「さっき撃ち抜いた奴のことか……はて、家名を持たない魔族なんて一々覚えてないな」


「嘘だろ。じゃなきゃ、あの場で殺してた」


「……忘れたって」


 タリムは吐き捨てるように言って、踵を返した。

 揺れる軍服には、いつも付けていた勲章や装飾が無い。

 全て取り去られていた。


「本当にこれでいいのか?今のタリムは辛そうに見えるぞ」


「それはウェルスの気のせいだろう」


「……マリ様といたタリムの方が、楽しそうだった」


「ウェルスが平和ボケしてるんだ。人間と魔族の戦争に楽しさなんていらないだろ。それに_______________」


 刹那、黄色い閃光が走ったと思うと、小さな少女がウェルスの肩上に現れた。


「ここなら、リーロがいる」


「ふふふ、久しぶりだねウェルス!」


「っ、なんで……」


 光の無い瞳がウェルスを見つめた。

 この2人はかつての2人はじゃない。何かに惑わされている。

 そう気づいていながら、ウェルスは何も出来ないでいた。


「早く来いよ。ウェルスならコッチ側に来れる。私達で待ってるからな」


「それじゃ、またね!ウェルス!」


 そう言って2人は通り過ぎ、消えていった。

 新たに作られた魔王軍の幹部室へと。


「……マリ様」


 縋るように、助けを呼ぶように、その名を呟いた。


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